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脈流  作者: 智路
4 シンクロニシティ
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第4話 質量欠損

第4話 質量欠損

 チロは最初に冥王星を訪れた。そこにはロボットなどが黙々と稼動しているだけの様子が窺がえた。ここに人がいたなら、なんの異常もなしとなるのだが、やはり人の気配は感じられなかった。次に海王星の開発本部を訪れてみてもなんの異常も感じられない。人々は心身共に正常に見えるのであった。誰かと会話をしてみたいのだが、肉体を持たないチロには無理なことであった。こんなとき「桃九をもっと進化させておけばよかった」などと都合のよいことを考えるのだが、冷静に考えて見れば桃九は自然に覚醒させたほうがよいとの結論に達するはずであった。

 チロは精神体で、宇宙空間の距離をほとんど0に近い時間で移動できる。これはチロがこの世界の時間の影響を受けて人類と同じ時間を共有しているからである。通常の精神体はこの世界の時間の影響を受けていないため、時間の共有はできない。筆者は、チロのような存在を勝智朗に見るだけである。つまり、肉体を伴わない精神体だけならば空間の距離を縮小することと同じことができるということである。

 15分ほどの偵察で地球に戻ったチロはガリレオに脳機能医学部署の予測は外れているようで他に原因があるだろうと伝えている。この数分後、ガリレオが管轄する太陽系天文観測所から海王星で質量の欠損が観測されたと報告があった。ガリレオは、

「海王星の核融合炉の暴走か?」

「いえ、その情報は届いていませんし、質量の欠損の原因が核融合によるものなのかはっきりと観測できないのです」

 その時からムー5島にはエマージェンシーの警報が鳴り響き続けることになる。各拠点コロニーに設置してある観測所からも情報が次々と送られてきた。唯一、海王星からの通信は断続的で解読に時間がかかることになった。それらの情報を総合的に分析した結果、海王星の質量の一部が欠損したことは確かのようだった。しかし、エネルギーに変換されたと思われるときに付随する衝撃波などは僅かに観測されただけだった。海王星に手動による通信を試みたが、帰ってくるのは自動返信ばかりで、肉声あるいは人が発したと思われる返信は一切なかった。

 チロは再び海王星に向かうことを決めた。チロが海王星のコロニーの残骸を眼にしたとき思ったのは、敵性の存在であった。コロニーの方々が粉々に砕けて無残な有様であったが、チロはまた不思議に思った。よくよくコロニーを眺めて見ると破壊されているのは10%足らずの部分だけで他の箇所は無傷といってよかった。この破壊の様の原因がわからないまま生存者が一人でも見つからないかと探し始めたのだが、生存者はおろかアミノ酸の1つも感知できなかった。しかし、微小であるが有機物と思われる存在が多数感知された。最初それは人類のものかと思ったのだが、僅かに微視化して見てみると人体の組成とは異なるようであった。どんどん微視化を進めていくと、10nmくらいのところで蠢く存在を多数発見できた。さらに微視化を進めていくとその構造はDNAに非常によく似ていた。しかし、DNA様を構成しているのはチロの作った37のアミノ酸とは異なるものであった。

 このウイルス様の多数の存在が質量の欠損を引き起こしたのは、ほぼ確定的だと思われた。しかし、ウイルスが核反応を引き起こすなど地球では考えられないことである。チロはやはり敵性の存在の仕業だと思ったのである。


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