第18話 太陽系の星々への移住
第18話 太陽系の星々への移住
核融合炉の実用化に目途が立った人類は、宇宙開発への具体的な作業にとりかかった。その他にも問題は山積みであったが、地球共和国の内政は耶律楚材が、宗教に関しての調整はモーセが上手く運んでいたため、問題を科学技術に絞ることが可能であった。
宇宙航行に用いる機体を円盤型としたのは、重力制御ジャイロの開発が行われたためであった。重力の制御ができなければ、円盤型の宇宙航行機の実用化は難しく、円盤型に拘った理由はペイロードを増やすためであった。本来なら球体型が望ましいのだが、それを制御するまでの技術開発は進んでいない。
ペイロードとは積載重量のことであり、荷物や人を乗せることを前提とした宇宙航行機であるため、機体型には拘る必要があったのだ。正確にいうと円盤型にしたのは、重量のためではなく積載体積のためであった。というのは、エンジンが核融合炉によるものであり従来のエンジンとは比較にならないほど推力が高いことが設計時から推測されたため、体積を十分にとり、ペイロードにより速度に問題が出るのなら荷物を減らせばよいという考え方であった。ボーイング747は、全長約70mで胴体の幅約6.5m高さ約8mであるが、設計中の円盤型宇宙航行機は半径100m、高さ25mで考えられていた。
ところが、重力制御ジャイロの開発中に高さがどうしても120m必要であることがわかり、円盤型は独楽型となる。円盤の中心には下部に20m、上部に75mの煙突状の融合電磁場が突き出ている。下部と上部の長さを等しくすれば制御装置の開発も少し楽になったのだが、着陸脚の収納などを考慮すると下部には20mが望ましかったのである。重力制御ジャイロの仕組みは、核融合路からのエネルギーを推進方向と逆の方向に螺旋状に出力し、円盤を独楽のように回転させ、推力を得ると共に機体の重力的安定をはかるものであった。一番問題だったのは、中心部の下部が短く上部が長いため、上部がぶれてしまうことだった。これは円盤の回転する遠心力による力を利用して解決したようである。尚、重力の正体は未だ解明されていない。
開発中の円盤型宇宙航行機の速度によれば地球重力の影響圏からの脱出は簡単に出来て、目的とする惑星の公転軌道も航行時間の何割かの影響だけですむ。例えば、火星への到達時間は最大速度で9~12日、巡航速度では、14日~20日くらいが見込まれていた。
他の分野での技術開発も進んでおり、例えば合金の開発チームは機体に使用する合金の軽量化に成功していたため、同重量では速度が上がり、同速度ではペイロードが上がることとなった。
重力制御ジャイロの応用で、惑星などに建設されるコロニーの中は地球と同じ重力が保たれ、移住も快適になると予想されていた。コロニーのテストプロジェクトは月で公募により選抜した1000人余りの試験移住によって行われた。彼らの感想は、概ね良好であったが、自然光の中でくらしたいとか、土の上を歩きたいなどの要望もあった。自然光を得る技術はいずれ開発可能と思われたが、地球の土を他の星に持ち込むことは、その星の生態系に影響を与える可能性があるため、暫くは目途が立たない状態であった。土中には多くの微生物などが生息していて、いくら殺菌したとしても確実に無菌状態で土を地球の外に持ち出すことはできなかった。おそらく、移住先の星々には生態系と呼べる存在はないと思われるが、心配されるのは地球の微生物が他星で生き延びたときの結果であった。
こうして、地球の人類は他の星々へと移住していくことになった。