第17話 核融合炉の仕組み
第17話 核融合炉の仕組み
この物語の設定では核融合によって放出された高速中性子は質量欠損によりエネルギーをその実験場所に供給する。例えば、核融合炉で核融合が行われたとすると、その場所つまり、放出された地点にエネルギーを残すことになる。しかし、高速中性子は中性子としての姿を保てず、残った質量を少しずつ放出しながら他の質量を持った物質と衝突するか、宇宙の果てまで直進することになる。多くの高速中性子はやがて消滅する運命にある。
その中性子についてD-T反応のケースでの生涯を辿ってみると、核融合の起爆のための熱エネルギーを大量にもらい、He原子核の結合エネルギーの生成のために自らの質量を削りエネルギーを与える。この段階で、もはや中性子とは呼べないのだが、元々中性子が持つ極性(他の物質に影響を与えない自己極性とする)の両端に存在するe-とe+が対消滅を起こすか宇宙の果てまで直進する。直進する間、エネルギーを少しずつ放出するので質量も少しずつ減っていき、e-とe+の対消滅の確率を高めていく。また、他の質量を持つ物質と衝突したときは、その物質になんらかの核的変化をもたらす。
アインの所属する核融合炉の開発チームには空海が配置されていた。イ・ムー島の地底にも衝突型加速器がいくつか存在するが、実験のトライアンドエラーには難を持っていた。実験を1回行うためには綿密な装置の点検が必要で、実験そのものよりもこれに時間が必要であった。また、異なる実験を行うためには装置を条件に合うように設定し直さなければならない。そこで空海の登場となるのだが、彼の術は右手と左手に融合させたい複数の素粒子を集め、合掌することにより合掌した内部に核融合炉なみのエネルギーをためることにあった。さすがに放出される素粒子を抑えることはできず、科学者たちは漏れ出た物質を観測できた。空海が戦闘の場にたったとき、合掌エネルギーを敵に放つことになる。
最初は開発チームと空海の意思疎通は難しかった。空海には核融合の原理がわかっておらずただ修行と経験から核融合を起こしているだけなので、「陽子」といわれてもどれのことかわからなかったのである。空海の核融合が行える回数は規模にもよるが大体1日6回くらいであるが、それでも衝突型加速器と比べれば雲泥の差であった。
アインも最近開発チームから一目おかれ2日に1回の空海の実験の割り当てをもらっていた。アインは最初、質量の欠損した高速中性子を捕獲して再利用できないかと考えた。何回か実験をしたが、高速中性子の捕獲装置の不備や捕獲したとしても高速中性子と普通の中性子の違いは持っているエネルギーの大小しか検出できなかった。何回目かの実験のとき、衝突させた物質の原子核内部で電子交換をしない中性子を発見することになる。この中性子は実は素核子でe-とe+を持っていないことがわかることになるのだが、素核子ができるのは偶発的なもので何かに利用できるとは思えなかった。この実験の成果は素核子の発見(理論の確認)と高速中性子の捕獲装置の改良だけに終わった。
空海の掌が常温であることと、放出される高速中性子のエネルギーレベルがそれほど高くないことに気付いたアインは、実験の権利を数回放棄し、思考実験に没頭することになる。思考実験を終えたアインは実験を再開したが、それは欠損した中性子同士を衝突させ、エネルギーレベルを限りなく0にすることであり、予測されるのは衝突させた中性子が持っていたe-とe+が対消滅を起こすことであった。このエネルギーを起爆剤として用いようとしているのである。これによって陽子-陽子の連鎖反応を常温で起こすことに成功し、核融合炉の基礎実験は終わった。