第9話 25番目のアミノ酸
第9話 25番目のアミノ酸
チロは20種類のα-アミノ酸から人類を産み出した。そして、23番目のアミノ酸を加えることによって超人類を生み出したのであった。尚、21と22番目のアミノ酸はよくわからないということでこの物語は進んでいく。また、チロは全てを知っているのであろうが、何も教えてくれない。
超人類の能力は人類のそれを遥かに凌駕するもので、生まれながらに不老の性質を有していたのだが、人類に劣る点は繁殖能力のないことであり、さらには自分自身を進化させることができないことであった。人類は教育を受けたり、自ら努力をしたりして能力を向上させようとするが、超人類は努力ができなかった。怠惰であるといえるが、実は思考回路が努力という発想を生み出せなかったのである。とはいえ、その能力の強力さによって今日の人類を陰から支配するようになっている。
さて、この世界に時間を生み出したのは、チロではないが、時間はチロに影響を与えている。チロは人と同じ時間の刻みの中に存在する。チロがこの世界に投入されたときは、1回2回...というステップを刻む時間だけが存在したが、物質の動きが活発になるにつれて現在の時間も存在するようになった。チロと同じ桃の精の多くは分割して多くの精神体へと分化したが、その精神体は時間の影響を受けない。つまり、人と同じ時間の刻みの中に存在できないのである。何故そうなのかとチロは考えた結果、物質がこの世界に構成される前と後が境界線なのだと思った。しかし、勝智朗のような存在もいる。このわけを考えることは後回しとし、チロは別な思考へと移っていった。
時間は何かを変化させる。何かが変化するから時間が生まれたとも考えられてどっちが先なのかチロにはよくわからなかった。しかし、人類が変化するとき、進化して欲しいと願っている。自分の望みである神の世界に帰るためにそれは必須の条件のようであった。そういう意味においては超人類を生み出したのは失敗だったかもしれないと考えるようになっていた。いかに力を持っていても進化しないのではチロの望みは叶えられない。ところが、チロが進化とは何かと突き詰めて考えてみるとよくわからなくなり、チロ自身の為すことの方向性も危ぶまれてくるのであった。
それでもチロは何かを為さねばならなかった。じっと何もしないでいると自分の存在まで危うくなりそうで、進化とは変化させること、あるいは変化を受け入れることだと考えることにした。そう考えると力ばかりが発達している超人類も受け入れざるを得なく、チロは自分が知らぬ間に焦っているのかもしれないと思うようになったのである。
チロは、25番目のアミノ酸を用いることにした。超人類の欠陥の1つに見える協調性のなさをこのアミノ酸によって改善できないかと考えたのである。
24番目のアミノ酸を用いた人類は全滅してしまった。24番目のアミノ酸は免疫を強化する機能を持っていたが、この機能は過剰なまでに攻撃性を持っていた。自己の正常な細胞であろうと他の細胞との僅かな差異を見つけて攻撃するようであった。故にこのアミノ酸は封印されることになる。
25番目のアミノ酸は自己修復機能が強力であった。例えば、首や胴体が切り離されたとしても一定の時間以内に接合すれば蘇ることができた。腕などは新しいものが生えてくるほど能力が優れていた。このアミノ酸を導入してやれば不老とともにほとんど不死にもなれるのであった。