第3話 概念
第3話 概念
ここで筆者の持つ1つのアルゴリズムを紹介しておきたいと思う。これは筆者が25年の歳月を費やして得た産物である。現在ではその産物だけでは何の役にも立たないことを知っていてそれに執着することはなくなった。むしろ、その産物の先の産物を見たく、こうして小説というかたちで模索している。自分の所有するものを全て吐き出すことになるため、これの紹介が終われば文章内容は模索との戦いとなることは必至である。
アメリカのクレイ数学研究所によって2000年に発表された100万ドルの懸賞金がかけられている7つの問題が存在する。それをミレニアム問題と呼ぶが、その中の1つであるポアンカレ予想は解決済みである。筆者が取り組んだのは、P≠NP予想に含まれる巡回セールスマン問題であった。
修行が1段落ついたので桃九は利助と一緒にとりあえず、たんぱく質の構造の仕組みを考えることにした。チロは、そういう知識を教えてくれないし、桃九が修行によって不老となったのかもわからないままである。知識を教えてくれないのは、学びにも創発現象が存在するのかチロは知りたいと思っていたからである。つまり、学びの課程に意味があり同じことを学んでも人によって成果が異なるのはこの学びの創発現象も存在するからではないかと考えていた。そのため、チロは自分の知識を桃九に詰め込むことはしなかったのである。
「1つの条件を知りたいのです。多くのアミノ酸が結合してたんぱく質を構成しますが、そのアミノ酸の組み合わせのほとんどがたんぱく質としての性質を現しません。知りたいのは、性質を現すための組み合わせの条件なのです」と桃九は利助に話をきりだした。
「たんぱく質の1次構造のことですな。しかし、条件と言われてもなんおことやら皆目見当もつきませんな」
「説明が難しいな。(こうしようか)利助さんに1つのあるアルゴリズムを教えるから、その条件を考えてみてくれる?」
「アルゴリズム?それは分野が違うので……」
「簡単なアルゴリズムだから……」
そういって桃九は利助にアルゴリズムの説明を始めることになるのだが、実はこの説明が簡単ではない。簡単だと思っているのは桃九だけで、問題なのはアルゴリズムの説明ではなく、その前の段階であった。
例えば、小学生や中学生、高校生の学ぶ科目でもっとも差異がでるのは、算数や数学である。何故かというと知識を学ぶためには、その知識の概念を知る必要があるからで、受験のための数学の学びで上手くいくのは、できるだけ概念を除外して回答のテクニックを教えることである。しかし、それは数学の本質から遠ざかることになるのだが、その善悪を論じる立場に筆者はいない。
概念の存在は確かであるが、それは物質でもなく精神でもない。実体の説明を筆者に求められても答えることは不可能である。しかし、命題に対してその概念を取得すると、いともたやすくその命題を解くことができるということは、筆者が体験済みである。この小説とは関係ないが、教育現場ではどのように概念を教えているのか、マニュアルはあるのかなど不思議に思うのである。