第2話 飛躍的発想
第2話 飛躍的発想
通常、物質的な肉体と繋がりを持たない精神体は時間とも無関係となる。それ故に死者の精神体は現世に影響を及ぼすことができない。影響とは観察行為も含み、つまりは精神体と現世に生きる人類などの物質はそれぞれ完全な独立系を有することとなる。チロが桃九と接触できるのは特別な能力でチロは時間の影響を受けていることになる。その意味では、幼いころに亡なくなった勝智朗も時間の影響を受けていることになる。そのため、チロも勝智朗も現世の時間の中では同時に複数の場所に存在することはできない。しかし、物質の影響も薄いため光を含めた物質より遥かに速く移動することは可能である。
また、肉体と精神を繋ぐ受感部によってチロと勝智朗は桃九と接触していることは明らかで、桃九には受感部の分枝が複数存在するのである。利助もまた分枝を1つだけ持っているようである。円光は分枝を持っていないためチロらとの会話には難儀しているようである。チロは円光の精神に直接働きかけて会話をしているのであるが、できるならこれを避けたいとチロは思っている。故に円光との会話は示唆的な語を数語与えるだけである。確かめたわけではないが、精神体と精神体が緊密に接触するとどちらかが吸収されるか、破壊されるのではないかとチロは考えている。もう1つの可能性は精神力や容量が同程度の精神体が接触したとき、融合するか、交わった双子の精神体が生まれることである。この双子はコピーと同じものになると考えている。
ある日サエが半狂乱の状態になった。何故そうなったのか誰にもわからず円光が時間をかけて理由を問い質すと「幽霊が見える」というのである。何故幽霊だと思うのかと尋ねると本家の仏壇に飾ってある亡くなった勝智朗がそこにいるという。今度驚いたのはチロの方で、サエに勝智朗が見える理由がわからなかった。桃九でさえ、チロや勝智朗の姿をみることはできない。円光はさらに勝智朗が見えているのか勝智朗を感じているのかサエに尋ねたが、サエは見えているのだという。
ここで桃九の修行のために4人の人間が集まり、修行の影響を受けているうちに創発現象がおこったのだとチロは思った。故に理由が見つからないのだ。現実社会においても稀にこういうことが起きている。厳然とした事実(誰もが納得できる現象)がそこにあったとしても、科学的でないとされて見なかったこととなる。筆者の見解では現在の科学の論理とかけ離れすぎていると、理解不能となるのだと考えている。確かに多くの超常現象はまがい物かもしれないが、全てを科学で説明したり否定したりするのは、人類の発展を阻害していると考える。むしろ、それらしい超常現象を選択しそこに科学を結びつける努力が必要であると考える。
“飛躍的発想”の存在が主張され始めたのが何年ほど前なのかしらないが、そういう思考能力を有するものが存在するようである。例えば、会議などであるテーマを議論しているとき、突飛な考えを持ち出すものがいる。周囲の人は「それは今の議題と関係ない」と除外してしまうが、たまたま突飛な考えを聞いてみると少しずつ論理が今の議題に結びついてくることがある。通常、議論は論理の積み重ねで行われるが、この“飛躍的発想”は積み重ねることなく飛び地のような論理から結びつきを求めてくる。尚、筆者の知る限り“飛躍的発想”のメカニズムはまだ解明されていないようである。