第7話 鎖国
第7話 鎖国
日本に派遣された密偵の代表格にマルコポーロがいた。彼の能力は情報収集能力で5感が異常に発達していた。また、人混みに溶け込むことが達者で存在感を消すことにも長けていた。また、偽文の名人で誰が読んでも嘘であることがわかり、その中に真実を潜り込ませることができた。史実としてマルコポーロは日本にきたことはないが、実は堂々と入国していたのである。彼を派遣したのはモーセだったが、彼でもチロや日本の超人類のことを突き止めることはできなかった。このことが、モーセによりいっそうの疑惑を抱かせることになる。日本に超人類がいないはずはないとモーセは思っていたのである。
一方、チロは次々と送り込まれる密偵に辟易していた。ほとんどの隠蔽工作は孔明に託していたが、孔明の能力を上回る密偵が派遣されたならば、万事休すとなりかねない。チロが脅威と感じたのは、キリスト教徒の増加であった。キリスト教そのものに脅威を感じたのではなく、陰に構築されつつあるキリスト教徒の情報網であった。
最初に日本にやってきたのはフランシスコ・ザビエルで、その後続々と宣教師が来日した。フランシスコ・ザビエルは超人類ではないが、その布教活動は精力的で次々と信者を増やしていった。故に孔明はキリスト教徒の弾圧を始めるのだが、ほとんど効果はなかった。チロはフランシスコ・ザビエルがモーセに派遣されたことに気付いていたが、今もって謎なのは一向宗を陰で糸をひいているのが誰なのかわからなかったことである。このキリスト教徒と一向宗に手を焼いた孔明は鎖国の模索を始めることになる。
結果として徳川幕府は鎖国を行うことになる。長崎の出島だけが海外との貿易接点となり、日本の人類は世界の文明と異なる道を歩むこととなる。孔明はもとよりチロもこのときの鎖国の判断が、正しかったのか今もってわからないままである。しかし、日本を外国の脅威から300年もの間守ったという事実は残り、後に明治維新を経て日本は列強に凄まじい勢いで追いつくことになる。
17世紀のヨーロッパでは、飢饉、戦争、内乱が相次ぎ混乱の時代となったが、科学革命により科学の進歩が急ピッチで行われるようになる。科学の進歩は20世紀初頭まで加速度的に続くが、その後停滞期を迎えることになる。いずれにしても日本は300年の間、西洋の科学とはほとんど無縁となっていく。
北米に超人類NO.1のラーが移転したことで、ヨーロッパの支配権はモーセが握ることになった。モーセは相変わらずエルサレムの地を動いていない。超人類は大きな組織になることを好まず、小集団が集散離合を繰り返している。その中でも大きな集団が、ラーやモーセを中心としたものであって、必ずしも彼らの集団が一枚岩となることはなかった。モンゴル帝国が瓦解した後、チンギス・ハンは陰でロシアや中国の超人類に影響を与え続けている。自分の傘下にはできないが、少なくともラーやモーセよりは自分を選ぶものと信じている。第4勢力としてインドでは創造のブラフマー、繁栄のヴィシュヌ、破壊のシヴァが、支配権を持っていた。とはいえ、見かけの上はラーやモーセの勢力圏にある人類の植民地政策によりインドはモーセに支配されることになる。インドの3人はしたたかで、争うよりも機を見て繁栄することを選択したのであった。