第1話 超人類の反逆
第1話 超人類の反逆
「卑弥呼さん、ここの地上に誰か住み始めたようですね」
「そうね。空海さんちょっとみてくる?」
「いえ、何か問題があればチロさんが連絡をくれるでしょう」
「わしで役に立つことはあるか?」
そういうのは大国主であった。彼らはチロが23番目のアミノ酸を含むDNAから産み出した超人類の一部であった。彼らはチロに反逆することもなく、地下の三角山に住んでいる。今は、空海、卑弥呼、大国主だけがここにいるようだが、他の十数人は出掛けているようであった。彼らに共通するのは受感部が異常に発達し、不老となったことと、現代でいうところの超能力を持っていることであった(但し、瞬間移動は誰も出来ない。理由は瞬間移動の仕組みが思いつかないからである。と同時に結界も張れない。空間についてまだよく吟味していないせいである)。
彼らは脈を探す能力にも長けていた。最も優れた能力を持つものは空海で、脈流の中では大きな山を揺るがすほどの念動力を発揮した。もし空海が核の知識を持っていれば、核爆発を起こすことも可能かもしれなかった。卑弥呼は、動物の精神に作用する能力を持っていた。読心術はできないが、動物に強力な暗示をかけて思い通りに操ることができた。大国主は、分子レベルで生命体を操作することができた。病気を治すことも、病気に侵させることもできた。
彼らが名乗る名前は、彼らがこの地球の歴史に強く関与したときの名前でチロは最初彼らをコード名で呼んでいた。そもそも、チロが彼らを生み出したのは7万年ほど前で、そのころは太平洋の中央に存在するムーという比較的大きな島に住んでいた。この島では現在の人類の祖先も住んでいて、その人々は地球上の各大陸に転在させていたが、超人類たちを転在させることはなかった。というのは、チロも超人類のことをよく把握できないため、彼らの振る舞いが通常の人類に大きな影響を与えるのを恐れたためであった。
超人類の反逆が始まったのは、今から2万年ほど前であった。彼らの主張は、自分たちも大きな大陸に住みたいという些細なものであったが、自分たちがチロの実験体ではないかとの疑念が芽生えたのが実状のようである。一人、二人とこの島を抜け出す超人類をチロは止めなかった。チロはこれも実験観察の一つと考えたのである。こうしてみると反逆者というレッテルは一方的過ぎるようで、主体を誰におくかで正悪は決まっていくようである。こうして、この主体と正悪の関係が現在まで残り多くの悲劇を生むようになる。
チロはムーの島を海底に沈めてから、島に残った十数人の超人類を日本に連れてきた。日本列島を選んだのは、大陸に散った他の超人類との軋轢による影響を受けないためであったが、超人類の繁殖はないものの現在の人類の祖先の増加は著しかった。そのせいもあって大陸での争いが増えていくようになる。これに加担する超人類もいて人類の社会は争いによって混沌となっていく。
そもそも、チロが超人類に望んだのは、自分を元の世界に戻す方法を考える手伝いをして欲しかったからであるが、知よりも力だけが発達しある意味チロにとって超人類は魅力の少ない存在になっていた。