第20話 スタック器官
第20話 スタック器官
生命誕生のシナリオをチロが実行したとして記述しているが、読者の方も薄々感じているようにこれは筆者の「なんとなくこうだったのでは」という世界観を述べているに過ぎない。筆者は幼いころより科学教の信者であったようである。生命を除いた物質に関する問題は全て解明されていると信じていて、数年前にそうではないことを知り酷く裏切られたように感じた経験がある。もっと前に気付いてもよさそうなものだったが、言い訳をすると多くの書籍や論文には「こういうことがわかった」という内容が多く、「こういうことはわかりません」という内容が少なかったためだと勝手に思っている。科学は物質について全てを解明していて、さらにその上に新発見が存在すると思っていたのである。その結果、知りたいことを探しても見つからないことが多かった記憶もあり、裏切られたことを契機として「それなら自分で虚構でもいいからシナリオを考えて見よう」と思うようになった次第である。運がいいのか悪いのかわからないが、時を同じくして数学の未解決問題の1つを解いてしまった。この問題は筆者が20代のころにその問題だと気付かないで、解法に取り組んだものであり、1つの解法を得るのはそれから25年後のことであった。しかし、解いたと思っているのは未だに自分自身だけで検証してくれる人はどこにもいない。そのうちその解法だけではこの世界にはなんの役にも立たないことがわかり、今は悠々自適に虚構のシナリオを綴ることに至っている。何か人生の大きな目標を達成してしまうと虚しいものであり、道半ばにして死するのが幸せなのかもしれないと思っている。
現在の科学ではDNAを解読し、RNAに転写してたんぱく質を生成するのはリボソームだとされている。しかし、染色体は多くのDNAを含んでおり、どういう順番であるいは何をトリガーとしてDNAの解読を始めるのか明言している文章は見当たらない。チロは細胞の中に命令を詰め込んだスタック器官を作ることにした。スタック器官は、1番最初に最後に実行する命令を持っている。順に遅く実行する命令をスタック器官に羅列していくと、1番最初の命令がスタックの最上部にくることになる。リボソームはこのスタック器官を参照して命令を順番に実行してたんぱく質を生成するが、スタック器官が埋め込まれた細胞は受精卵や胚などを構成する万能細胞(iPS細胞)だけであった。胎児を形成した後は、ほとんどのiPS細胞は分化して各器官に特化したDNAのみが活性化することになる。この活性化を現代では発現と称しているが、分化した細胞のDNAにはマスクがかけられている。それは例えば、心臓で誤って肝臓特有のDNAが発現しないようにするためである。無理やりそのDNAを発現させることもできるが、発現した細胞は異常細胞として排除されることになる。
さらにチロは、各器官の配置や脳の構造を司る大工さんのような機能も用意したのだが、まだそれは説明する段階ではない。建物を作る場合でも設計図だけでは建築できない。設計図だけでよいなら建造物の屋根を宙に作るところから始めてもいいはずである。つまり、手順が必要でさらにそれを操作する者が必要だということである。このことから、チロはこの世界を支配する法則には、順番も含まれているのではないかと考えていくようになる。
物質と精神体を繋ぐ結合部も後ほどとしたい。尚、今までこの部位を命の元と呼んでいたが、受感部と呼ぶことにしたい。