第14話 チロの秘密
第14話 チロの秘密
円光は白神山系の奥深い山の中に修行場を設けることにした。桃九が、
「ここに寺院を建立しますか?」
「とんでもないことじゃ。この脈の上に建造物など立てたら脈が怒ってしまう」
怒るとは比喩的な例えで、脈の流れを阻害するということらしく、その地には雨風を凌げる程度のぼろ小屋を建てることにした。一番驚いているのはチロで、
「この地の土中にはあの者たちが住まいしているわ。桃九と円光には話しておくべきかしら」と、まだ話す決断はできていないようであった。
チロの持つ秘密とは、人類を育てる過程で試験的に現在の人類より強力な能力を持つ超人類ともいうべきものを産み出したことであった。その数は数百人であったが、チロにも産み出した後の結果は予想外で、現在では悔やんでいるのであった。というのは、超人類のかなりの割合で反逆者たちが出たからであった。もっとも反逆者はチロから見た場合で、反逆者たちは自分たちの自由を勝ち得たと思っているらしい。チロに従う者たちが、円光の言う土中の三角山に住まいしているのであった。彼らが造った三角山の素材は土であるが、ただの土ではなく現代の科学の常識では測れないほどの原子や電子を緻密に組み合わせて建造されてあった。
現代の人類が発見したアミノ酸は22種類存在するが、チロは23番目のアミノ酸を知っていた。というよりアミノ酸を作ったのはチロであるから知っていて当然なのだが。
※(DNA設計図によって、アミノ酸の配列が様々なたんぱく質を生成させることは現代の科学では常識とされている。そして人などは22種類の中から20種類のアミノ酸を用いて人体を構成していると考えられている。1つのアミノ酸配列に1つのたんぱく質が合成されるらしいというところまではわかっている。つまり1対1の関係でアミノ酸配列が1つのたんぱく質を指し示していることになる。例えば、現在発見されている最小配列数のインシュリンは51個のアミノ酸配列から構成されているが、これが意味するのは20の51乗のアミノ酸の組み合わせからインシュリンという有効なたんぱく質のみしか生成されないということである。20の51乗の組み合わせ数の残りは毒にも薬にもならない可能性が極めて高いのである。もちろん、20の51乗の組み合わせ数を実験や研究した科学者は存在しないと思われるから確かではないが、おそらく人体にはインシュリン以外は存在しないであろうと思われる。ここで20の51乗の組み合わせ数を計算しても嫌になるほどの数字であるから、有限ではあるが驚くべき巨大な数字としたい。たんぱく質はこの1次配列状態を第1構造として第4構造まで有益なたんぱく質として人体が使用するために化学変化を起こすらしい。修飾という構造段階があるが、例えば、アミノ酸にはカルシウムを持つものはないから、化学変化の途中でカルシウムという元素を修飾(加える)させるらしい。つまり、アミノ酸だけでは骨はできないのである。また1次配列のひも状だととんでもない長さになって、細胞内に収まりきらないから折り畳みという構造変化も起こすらしい。と、このように人類はまだたんぱく質を解明するどころか入り口に立ったばかりである。筆者は生物学が専門分野ではないし、何が専門分野かと尋ねられても答えに窮するが、この小説の中で僅かばかり嘘のような説明を試みたいと思っている次第である。)※
以上のことは、戯言としてこの小説のストーリーで重要なのは、23番目のアミノ酸を用いてチロが超人類を産み出して困っているということである。