第10話 幹卵器官と独立系
第10話 幹卵器官と独立系
「人の脳には数百億個の神経細胞が含まれているけど、ネットワークとして機能しているのは1割程度ね。それでも数十億個になるわ。神経細胞のことをニューロン、ニューロンの連結線をシナプスと呼んでいるのは知っているわね。仮に脳が独立部を持っていなかったとしたらシナプスは何本存在するかしら?あらっ、これは貴方の専門ね」
「うん、わたしの知っていることが全てだとしたら、ニューロンの個数をNとしたとき、(N-1)の階乗になるからシナプスは数えるのが嫌になるほどの本数になるよ。でも、脳は右脳、左脳とか海馬とかいろんな部位に準独立した部位になっているから、実際に本数を算出するのは困難だ。さらに全てのニューロンが連結しているとは限らないから。チロには数えることができるの?」
「わたしにも無理だわ。というより数えるのは無意味かしら。それよりどうして、準独立系と言ったの?完全独立系だとまずい理由があるの?」
「知っているくせに……。完全独立系だと独立系同士が互いに干渉できないことになる。つまり互いに見えない存在だから他の独立系は無いことと同じになる。だから必ず、最低1本は連絡線が存在する。だから準独立系といったのだけど、間違っている?」
「わたしの理解と全く同じだわ。それが、この世界と神の世界を繋ぐ鍵になると思うけどまだ先の話ね。脳の話に戻りましょう」
「こういうことでしょう。脳がいくつもの部位に分かれているといっても各部位は数十万個のニューロンで構成されるから幹卵器官から1個のニューロンが新たに追加されると数十万本のシナプスが増える可能性があるということでしょう」
「そう、その通り。さすが専門分野ね。幹卵器官を活性化させればさせるほど思考能力が飛躍的に向上するわ。さらに新規に追加されるニューロン数が死滅するニューロン数を上回れば脳は老化しないわ。生命の元と幹卵器官の活性化だけでも老化はある程度防げるけど万能細胞はもっと強力よ。でもそれは後でね」
「うん、わかった。それとは別に1つ疑問があるから教えてくれる?神経細胞には複数の信号入力の樹状突起と1つの信号出力の軸策があるけど、それだと脳のネットワークは尻すぼみになってうまく機能しなと思うけど」
「その通りよ。Nの信号入力と1つの信号出力だとどんどん信号が一部のニューロンに集まっていって最後は1つのニューロンで終わりになるわね。でも現代の人類は受容体を見つけたようね。でもよくわかっていないみたい。それがネットワークより神経細胞の連絡を素早くするのよ。受容体を用いるとシナプスほど厳密に連絡できないけど一定の部位に一度に情報を伝えるのよ。最初に情報を伝えたい部位に受容体を植えつけて次に神経伝達物質を分泌するのよ。神経伝達分泌物は植えつけた受容体にしか作用しないから情報伝達は特定部位にしか影響はないのよ。但し、脳の能力が弱ってくると受容体が別な部位に侵食するからその人は精神の疾患ありとされるわ」
「なるほど、脳もほとんどがメカニズムを持っているということだね。ただその根本にあるものをわたしたちが知らないというだけか」