第5話 進化の速度
第5話 進化の速度
「そうそう、わたしたちには当たり前になっていたので忘れていました。帝国に属する恒星系には惑星が少ないのですが、その惑星の20%くらいに非精神生命体が生存しています。受感部も幹卵器官も持っていないのですが、知性に似たものを持っています。ロボットの操作などの単純な作業ができて、僅かですがロボットを超える判断力も持っています。以前はわたしたちと対等に共存していたのですが、今では奴隷以下の扱いを受けています」
「どうして、精神を持たないそんな高度な生命体が生まれたのかしら?」
「セイトさんは、シンクロニシティ現象ではないかと言っていましたが……」
「確かにその可能性はあるけど、進化のスピードが速すぎるわ。その現象以外に進化を増幅させた何かがあるはずよ」
「えっそうなのですか?わたしは逆にここの進化の速度の方が遅いような気がしていましたが……」
「えっ遅い?ちょっと待って」
(どういうことかしら?ここも帝国も物質界よね。何が進化の速度に影響を与えているのかしら?考えられるのは脈の干渉の程度か脈の密度かしら。密度?まさかブラックホールのせい?変貌もそのせいかしら?)
「ねぇ、サンガ。ここと帝国の現象で違うことを教えて」
「それを話すと少し長くなるので短くします。わたしの生まれた恒星系は銀河バルジの外縁に存在する2連星です。主星をマーシー、伴星をマリーと呼んでいます。惑星はわたしが生まれたトランティス星しかありません。衛星が2つあって、スマルとリッタと呼んでいます。トランティスの質量は地球の1.2倍くらいです。問題は、マーシーが銀河バルジに加速度的に引き込まれているがわかったことです。マリーの移動は緩やかだったのでマーシーとマリーの距離は離れていく一方でした。マーシーが銀河バルジに飲み込まれるのが、2百年以内と計算されてから、恒星間航行の開発が急ピッチで進められました。以前から天変地異は多かったのですが、年を追うごとに増加していきました」
「なるほどねぇ。でも、セイトは気が付いていなかったのかしら?」
「いいえ、セイトさんがブラックホールの調査をしたり、中心に向かおうとしたりしたのはそれを食い止めるためだったようです」
「わかったわ。他にはあるかしら?」
「わたしが、ここにきて暫くしてから桃九さんに聞いたのですが、ここではワクチンの接種が異常に少ないですね。トランティスでは最低1ヶ月に1回はワクチンの接種を受けます。国王直轄機関にウイルス予測機構という研究機関が存在します。トランティスでは新型のウイルスが頻繁に発生します。人の免疫機能だけでは、それに対抗できないのです。そこで、“いつ、こんなウイルスが発生します”という予測研究機関が必要なのです。トランティスの歴史はウイルスとの闘いの歴史と言っても過言ではありません。建国当初は、人類の免疫力がウイルスを上回っていたのですが、やがて拮抗するようになり、何度もウイルスの大流行により多くの死者を出しています」
「セイトの苦悩がわかるような気もするわ」
※お詫びと予告※ この章をもって、第1部を完結させたいと思います。引き続き第2部を「脈龍RW1」として投稿したいと思います。尚、「脈龍RW1」の第1部として脈流1章分を1部分としてリライト(1回目)して載せています。読者の方にはご迷惑をおかけしますが、ここでお詫びと第2部の予告をしたいと思います。