第20話 感性と論理
第20話 感性と論理
論理感性融合局は、局長を東雲としてメンバーはチロ・桃九・アバ・サエ・利助の6人で構成されている。
この局を設立したのはチロで、他のメンバーもチロの意図することを理解、納得している。チロの意図することは、今存在するものからそれを超越した存在を導き出すことである。当面の研究課題は、創発現象であるが、チロはそれだけでは満足していないようである。
似たような現象に非線形現象というものがあるが、研究分野ごとに定義が異なり、共通する点は「線形ではない現象」ということだけである。最終的には創発現象も非線形現象も意味が合流するのかもしれないが、その地点へのアプローチの方法が異なる。この物語で扱う創発現象は集合と形状を基盤としていて、非線形現象は関数を基盤としているようである。いずれにしても双方の入力と出力は比例関係とはならない。
論理は積み重ね(線形)の思考方法である。その積み重ねを高くしていくと必ずトレードオフや二律背反問題に突き当たる。これらの問題は非線形的な問題である。例えば、トレードオフはa=xy(aは定数)で表現できる。xとyの数値の両方を高くしたいと思ってもaが固定されているためそれは不可能である。a=xy → x= a /yとなり反比例の式が導き出される。二兎追うものは、一兎を犠牲にしなければならないのである。そして、論理の展開は非線形問題に突き当たったとき、終結されるはずである。
ところが、最小二乗法などの最適化手段により、これを回避することができるため、論理の展開を先に進めることが出来る。しかし、問題はここで論理展開に誤差を内包することである。これが繰り返されれば、意図せぬパラドックスや矛盾にぶつかることになる。誤差の絡み合いが原因であるから、論理展開の中に原因を捜しても容易にみつけることはできない。現実的には原因の洗い出しはほとんど不可能となる。
そこで、チロは論理以外の思考手段を望んでいたのである。白羽の矢が立ったのは東雲(旧名円光)であった。東雲は以前真言宗の高僧であった。チロは仏教の中にあらたな思考方法の素を見出していたのであった。仏教は経験則によるいくつかの法則を提示している。例えば、
・緒行無常…すべてはうつり変わるもの
・緒法無我…すべては繋がりの中で変化している
・因縁果…因(直接的原因)と縁(間接的原因)から果(結果)が生じる
・因果応報…一切が、自らの原因によって生じた結果や報いである
などであり、これらは論理的に証明されたものではなく、全てが経験則から導き出されたものである。
東雲は、仏教と科学の照合と融合を研究していた。未だ結論は出ていないが、科学も経験則を土台としていることから、仏教と科学も相対的な思考方法であると思っている。つまり、人類は絶対的な基準を見つけていないのである。そのため、仏教と科学の融合は不可能ではないと考えている。どちらかがどちらかを一方的に否定することは不可能である。これは、物理学が因果律を認めていることから明らかである。
東雲ら6人の抱える課題は、仏教と科学の関係を素にして感性と論理の融合思考方法を確立することが最優先となっていく。