第19話 粗末なレーダー
第19話 粗末なレーダー
通信開発部のリーは、発信波については利助の部署に委託し、主として発信器と受信器の仕組みの開発を行っていた。そして、レーダーが捉える対象は、物質とサブユニットの両方であり、2種類のレーダーを開発することが求められていた。
リーは利助が超パルス型光学顕微鏡を開発したことを知ったが、この光の波をそのまま使うことはできなかった。何故ならば、その光の周波数は可視光にのみ限定されていたからである。依って、凸レンズの役割を果たしている超同素体にいくつもの周波数の電磁波を照射し、レーダーに適した出力波を探す必要があった。ところが、超パルス型光学顕微鏡のような微視的な世界では、物質界におけるc=v=fλの関係を超えた速度を瞬発的に出すことができたが、レーダーのように広く物質界の影響を受けた波は、光速度を越えることは出来なかった。このため、物質を捉えるレーダーは、近距離型となった。
一方、脈流通信機Ⅱ型の応用でサブユニット・レーダーを開発しようとしたが、物質外縁指向型パルスの反射波を捉えることはできなかった。脈流通信機Ⅰ型の反射波を捉えることはできているが、物質とその上流界に存在するサブユニットの座標変換ができないため、距離と方向を確定することは不可能であった。つまり、何処かに何かが存在するということがわかるだけである。
ここでリーは、「上流界が多元数で構成されている可能性がある」と誰かが言っていたことを思い出した。この誰かが桃九であったような気がして、相談してみた。
「桃九さん、サブユニットが存在する上流界が多元数で構成されている可能性があると言っていましたよね?」
「えっ?そんな記憶はないけど」
リーは(違う人だったかな?)と思ったが、既に手遅れであった。
「面白い!その可能性が高い!よし、複素平面に絞って考えて見よう」
この後、桃九は暇さえあれば複素平面系と直交座標系の座標変換の理論を考えることになる。しかし、リーにはそんな余裕は無く、レーダー技術を早く開発したかった。そこで苦肉の策として送信する通信波の物質界の距離を固定することにした。つまり、反応があれば、固定した距離の内部に何かが存在すると考えたのである。その後、通信波の距離を縮めていけば、自分と対象物の距離だけはわかることになる。方向は自分が移動することで決定することにした。反応があった地点となくなった地点から角度が求められる。但し、対象物も移動している場合、この角度は意味を持たない。
このようにして頼りないレーダーが開発された。物質やサブユニットの精密分析装置の開発もこの部の課題であったが、とうの昔に開発は諦められている。
物質レーダーの最大有効半径は1光年であったが、精度が悪すぎ実用は0.1光年が限界であった。サブユニット・レーダーの最大有効半径は100光年であった。これの精度はそもそも無いに等しい。