第18話 脈流通信機Ⅱ型
第18話 脈流通信機Ⅱ型
利助の部では、脈流顕微鏡によって脈流通信機Ⅱ型の開発が行われている。超パルス型光学顕微鏡が開発されたことで、物質とサブユニットの照合の精度が向上した。それによって調査を保留としていたサブユニットの正体も明らかになってきた。しかし、物質界とその上流界との座標変換は、スケールを無視したとしてもできなかった。それでも、サブユニットの正体を明らかにすることで通信機の性能は向上したのである。
保留としていたサブユニットのほとんどが素核子の構成要素であった。構成するサブユニットの数は数百を数えていたが、同種のサブユニットが複数存在するので、構成する種類のリスト作成を目的として観測は始められた。
ところが、依然として素核子を構成するサブユニットは増減するのであった。しかも、増減のときそのサブユニットは忽然と現れたり消えたりするため、その振る舞いを観測することは不可能であった。ここで考えられることが、2つ存在した。1つはサブユニットの相が変化し、それに脈流顕微鏡の性能が追いつかないことであった。1つはサブユニットの移動速度の問題であった。
いずれにしてもこのサブユニットの行方を追いかけることは諦めるしかなかった。そして、このサブユニットの全部の個数を数えることは不可能であった。複数個であることは確認されていて最大10個が素核子に留まっていたときを観測している。つまり、最低10個は存在するはずである。また、2種類のサブユニットであることも観測されていて、その種類以外を観測したことはない。依って、種類は2種類としてリストに載せることにした。このサブユニットを遷移Aタイプ、遷移Bタイプと名付けている。
200個以上の光サブユニットも素核子の構成要素であったが、役割は明らかではなく、個数にも差異があるようだった。
この他に2つのサブユニットを特定している。推測によると、この2つが素核子の本体であり、質量を与える要素と考えられ、主核Aタイプ、主核Bタイプと名付けている。
結果として、不明な点は多々あるが、素核子の構成サブユニットのリストができあがった。つまり、現在観測できるサブユニットの全てのリストができあがったことになる。
ところが、利助は「物質密度が低い空間や真空にサブユニットは存在するのだろうか?」と疑問を持った。実験室で真空を作り出して観測してみたが、サブユニットは発見できなかった。利助も脈の基礎により真空中にも空間線が存在することを知っている。というより真空そのものが空間線であるから利助は装置(脈流顕微鏡)の性能の問題であると一人納得するのであった。
ここから少し飛躍した発想を利助は持つ。「では、脈流通信(実態は脈のパルスである)は、物質中と真空中ではどちらが早いのだろうか?」真空中であるという結論はでていたが、「では、どのくらいの速度差がでるのだろうか?」と考えた。結果は物質の密度により大きく異なった。しかし、1つの発見があった。物質の密度の高低にかかわらず、物質の外縁部を脈のパルスが経由するとほぼ同じ速度を維持できることであった。このことから物質外縁指向型パルスが開発された。このパルスは脈流通信機Ⅰ型の約40万倍の速度を持ち、理論上は天の川銀河の端から端まで約0.8μ秒で通信可能であった。こうして脈流通信機Ⅱ型は実用化されることになった。