悪役令嬢、第二の人生は好き勝手に生きることに決めました(仮)2
「フィー。何回目かわかっているね?」
「126回目ですわ、お爺様」
かたやブリザードを引き起こしているシャーロット家当主―—シリウス。かたや正座してプルプル震えている令嬢――フィリア。
ただいま、説教の真っ最中でございます。
「照れるのはわかるが、もう少し限度というものがあるのはわかるね?そう何度も部屋の中で竜巻を起こされては困るよ。片付けも修繕費も、安くないんだよ?」
「……はい、申し訳ありませんでした」
『でもよー、フィーはこの婚約嫌なんだろ?肉親としてそこは叶えてやるべきじゃないのか?』
椅子に座るシリウスとフィリアの間にラズアルが現れる。本日もフィリアお気に入りの狼のぬいぐるみ姿だ。
「ラズアル殿。我が家は国境を守る伯爵家です。武力も魔法も、中途半端なものに国防を任せることはできません」
『……俺がいるぞ?』
「実体化させる程の魔力を持ちませんから安心はできません」
祖父とラズアルの問答を聞きながらフィリアは下唇を噛みしめた。
フィリアに兄弟はいない。そのため、必然的に伯爵家を継ぐのはフィリアになる。そうなると、辺境伯の役割――国防を一手に引き受けることになる。
フィリアは13歳でありながら王国の見習い騎士を倒す程度の剣技はある。13歳でそうであるなら、将来有望だろう。
魔法も同じである。精霊と契約できる者は数少ない。それこそ100年に一人現れれば奇跡とさえ呼ばれる。いくら魔法が優れていたとしても、精霊に気に入られなければ姿を見ることさえ敵わないのだ。
そのため、フィリアは優秀ではあるのだ。将来有望の剣技に、魔法の才と精霊に気に入られる人柄。一般的に天才と呼ばれる存在でもある。
しかし、それでは足りないのだ。
シャーロット伯爵家は辺境伯爵家である。国を守る、砦であるのだ。
フィリアでは、決して守りきることはできない――――。
それがシリウスの下した判断であった。
そのため、公爵家の申し出を受けた。フィリアより優秀であるイルドレッドを求めたのだ。
他の家に産まれたのならば、フィリアは親の期待以上の素晴らしい令嬢として社交界の花となっていたはずだ。けれども、辺境を守護する家では半端者であるのだ。
「フィー。ラズアル殿と話があるから、お前は部屋に戻りなさい」
「……はい。失礼いたしました」
フィーは丁寧にお辞儀をすると、シリウスの部屋を退出した。