本編 色々始まる前
朝の光が愛実のベランダのガラス越しに差し込む。
愛実は薄目をあけ、寝転んだまま右腕をもちあげ右手で充電器にさしてあるスマホをとり起動ボタンを押す。
10時56分と画面に表示される。
休みの日は大抵11時頃起きるのでいつも通りだなと思いながら、昨日来ていたメールをもう一度読むために椅子に座る。
24時間対応って書いてあったし、連絡はとれるだろうから、いくら好奇心旺盛といえど危ない目には逢いたくない。
パソコンをつけメールボックスを開き、返信ボタンクリック。
”早川様昨日問い合わせをした、黒谷です。御社の開発中の商品のテストモニターに当選したとありましたがそれは
どういう選考基準で何人くらいあたるものなのでしょうか?又、その商品はモニターになると購入しなくてはならないものなの
なのでしょうか?東帝大、城墨教授監修というのも証明できるものがあれば画像を添付ください。
今日うかがうかどうかはそれから決めます。”
愛実は天然なところもあるが基本、危機能力の塊だ。怪しい会社ならもうこれでぐぅの音もでないはずだ。
愛実が机の上におきっぱなしになっていたお茶に手をつける。
そして、椅子から立ち上がり中途半端に開いていたカーテンを薄いのだけ残し開く。
思いっきり伸びをしたかと思うとベッドに再び寝転びいつも通り空や宇宙の画像を検索エンジンで調べ始めた。
するとスマホの画面の上のほうに”メールが届きました”の表示
メール画面にしメールを開いてみると母、優子だった。
”マジ魔女の4話までの上映会がアニメスル池袋店であるので行って来ます。出かける時はメールください。
ごはんは下の机においてます。”あのアニオタめ、また行ったなと心の中で呟きながら起き上がりピンクのうさちゃんモコモコスリッパを履き下に降りる
下に降りると、母、優子のメールどおりダイニングテーブルの上にラップにかかったチキンサンドイッチとグリーンサラダとオレンジジュース。全てにラップがかけられ綺麗に並べられていた。
母、優子は掃除好きなことも含め、少し潔癖なところがあるため、これがいつも通りの日常なのだ。
愛実は、椅子にすわりさっき部屋で見ていた、空の画像を見ながらもそもそ食べる。
基本、黒谷家は食事中テレビをつけない。
家族全員でいる時もつけないため、愛実もそれが普通だと思っている。
そろそろ空の画像タイムは終わりにして愛実の第二の趣味であるアニメに画像を切り替える。
もともとはアニメ好きが愛実で空、宇宙好きが母、優子だったらしいのだがあまりにも小さな頃なので愛実も覚えていないようだ。小4の頃にはもう空好きになっていたのでちょうど家をたてた時期と重なるため今の愛実の部屋の
アレンジ具合も頷ける。そして”黒蜜林檎姫”の公式ホームページを開く。
最近の愛実のお気に入りのアニメだ。もちろん大人なので深夜アニメで今期期待度ランキングにも5位にはいっているのでなかなかの人気作だ。
ストーリーとしては現代なのに本物のヨーロッパのお姫様に憧れる1人の少女の物語で、愛実自身そこまでいかなくても同じようにお姫様は大好きなので、愛実は今期一押しのアニメだ。
愛実はスマホの画面ボタンを押し、いったんスマホをダイニングテーブルの上に置く。
空のサラダ皿の上にコップを置き立ち上がり、キッチンのシンクに置き、さらっと水を流しつけておく。
そして、ダイニングテーブルのスマホをとり二階に上がった。
部屋に入り、少しの間胃に食べ物を流し込むために椅子に座る。
ふと、天井を見ると星座がやはりところせまし描かれている。数が多いためたまに目がクラクラするのが難点だが、見るたびに初めて見たときの感動を忘れないでいる。
ピロリロリリリリリリリーン
パソコンのメール着信音。設定したわけでもないのに毎回なぜかかわる。
早川さんからだった。
”大変遅くなり申し訳御座いません。本部との連絡に手間取りまして、あちらは大学なのでどうやら、メールの返信は講師に任しておられるようで、それはひとまずおいときましてまず、選定理由ですが都内のあらゆる企業に調査を依頼しまして現在、独身かつ子供がいないかつ友人のおられない方20~30歳の間で女性でピックアップしてもらい都内、約26万企業の中我が社に興味をもっておられる5万企業の中ではできるだけ平等に選定いたしましてところ
ピックアップされた5000人の中から黒谷様が選ばれた次第でございます。
なお人数に関しましては、3人選ばせていただいておりますが、その方達の情報は
個人情報の関係で一切お伝えすることはできません。
なお、添付しました画像は城墨教授の運転免許証のコピーになりますのでご査収ください。よい返事お待ち申しあげております。”
愛実はメールを読み終わり大変なことになったなと少し後悔すると共にメールの文面通り友達も恋人もましてや子供なんていないことをよくわからない企業に指摘され、少し凹んだ。
とりあえず、詐欺のたぐいではないことはわかったが、まだよくわからない開発中のモニターになんてなっていいのだろうか。
でも、このまま土日の休みも夏休み、正月休みも1人で過ごすのはなにかときついんだろうなー。
もちろん家族団欒の幸せもあるが今年24。周りの同い年の子らは、続々、結婚したり出産までいく子らもざらにいる。
晩婚化の世の中の流れとはいえそろそろ準備しておかないと、いきおくれのババァになってしまうんだろうなー。
婚活の手始めに思い切って試してみるか。
”早川様、今回のお話検討した結果お受けすることに致しました。こんな機会もめったにないと思いますし、どうか
よろしくお願いします”愛実はメールを書き終えた。
チロチロチロリロリーン
『いやいや今送ったとこやんっ』とパソコンにも早川さんにもツッコミをいれながらメールを開く。
”黒谷様お受け頂きありがとうございます。詳しいことは社内にてご案内致しますので受付で早川とおっしゃって頂ければわたくし早川すぐお出迎え致しますのでよろしくお願い致します。このメールには返信無用です
お待ち申しあげております。”
いつもながら丁寧な文面でメールはしめくくられていた。
時計を見ると1時20分だった。
まだ時間もあるしゆっくりしようと思い2時半に目覚ましをセットし少しだけ横になることにした。




