壁当て
夕方の、ほのかに暖かい時間に、野球ボールとグローブを持って外に出る。
そして家の前にある壁に向かって、ボールを投げ込む。
野球選手になりたいわけじゃない。
ただボールを投げるのが好きなんだ。
時にはサッカーボールを持って外に出る。
そして家の前にある壁に向かって、ボールを蹴る。
サッカー選手になりたいわけじゃない。
ただボールを蹴るのが好きなんだ。
夕方の、ほのかに暖かい時間に、犬を連れてやってくる。
そして家の前にある壁に向かう僕に声をかけてくれる。
僕と話したくてやってくるわけじゃない。
ただ犬を散歩させているんだ。
軽く話して、犬を連れて去っていく。
たった数分だけれど、他愛のない話をして、別れを告げる。
また明日と言うわけじゃない。
ただまたねと伝える。
夕方の、ほのかに暖かい時間に、ボールを持って外に出る。
そして家の前にある壁に向かって、ボールをぶつける。
待っているわけじゃない。
ただ少し、期待してしまうんだ。
暗くなっても、家の前にある壁の一部は、白くほのかに浮き上がって見える。