~想いの数は、心に刻まれた傷の数で~
蓮先輩には彼氏がいた。
しかも、そいつはものすごい暴力男。
何でもかんでも気に入らない事があれば、すぐに暴力で片付けようとする最低な男。
――でも、蓮先輩は強いのに、なんでやり返そうとしないのだろうか?
そうやって、俺は ふと 不思議に思い、蓮先輩に尋ねてみた。
俺:「先輩は強いのに、なんでやり返そうとしないんですか?」
蓮:「ムリよ、 そんなことをしたら全てが終わるもの・・・」
俺:「どっ、どういう事なんだよ・・・全てが終わるって、一体・・・?」
――だが、俺の放った言葉は、あまりにも無神経だった。
バタン――――― それは、 突然 道場に響いた音。
そう・・・俺の言葉を聞いた蓮先輩は、見るに堪えぬ形で泣き崩れた。
5分、10分、 ひたすら時ばかりが流れて行く・・・。
1秒の時が流れると、蓮先輩の瞳からは一粒の涙が溢れ出る。
いや、もっともっと多い量かもしれない。 わからないが、先輩は泣き続けた。
――だが、何故 先輩は泣くのだろうか? 泣き止まないのだろうか?
俺はその答えを必死になって考えた。 ・・・だが、答えは出なかった。
そして、そんな答えの出ない俺を前に、 先輩は涙を拭いながら立ち上がった。
――それも、悲しく小刻みに震える肩を、必死に自分の手で支えながら・・・。
それから、先輩はそっと口を開いた。
蓮:「わたしが逆らえないのは、あいつが・・・」
:「ジュンが、私のビデオを持っているから・・・」
:「だから、わたしは逆らう事が出来ないの・・・」
俺:「ビデオ??」
――俺は そう言いながら、フリーズ寸前の頭をフル回転させる。
蓮:「そう・・・ビデオ・・・」
:「あのビデオは、ジュンがわたしとの初めてのを撮ったモノで・・・」
:「本トに馬鹿だと思う・・・」 「わたしはそれを撮ってた事に気が付かなかった」
:「でね? そのビデオについて知ったのが、撮影された日から二ヶ月経った時で・・・」
:「その頃 私は、ジュンが暴力をふるう人だって知って、ジュンが嫌になったの・・・」
:「だけど、これを機に直してくれればいいと思って、「別れて」って言ったの・・・」
:「けどね? あいつは反省なんか少しもせずに、笑いながらわたしに言ったのよ!!」
:「「お前は俺とは別れられない! このビデオがある限り!」って!!」
そう言って、蓮先輩は再び涙を溢した・・・。
だが、今度は先輩が泣き崩れる寸前で、俺が身体を支える。
――また、泣かれても困るんだ。 せっかくの可愛い顔が台無しになってしまうから。
だから、許せない。 先輩をこんなに泣かすジュンとやらを、俺は許さない・・・。
俺は憎悪の念を心に抱きながら、 先輩が泣き止むまでひたすら支え続けた。