5.虹
創作お題20
L'Arc-en-Ciel編参加中
5.虹
「そうちゃん、にじをさがしにいこうよ」
はるちゃんは僕にそう言った。
「にじ?」
「うん。にじ。さがしにいこう?」
「でもにじなんてさがしたってみつかるものじゃないんじゃない?」
僕がちょっと渋ったら、はるちゃんは泣き出しそうになって言った。
「いっしょにさがしにいってくれないの?そうちゃん」
僕はあわてて言った。
「はるちゃん、いっしょにいくよ。いくからなかないで!」
「ほんとう?」
さっきまで泣きそうにくしゃくしゃにしていた顔をぱぁっと明るくさせて、
はるちゃんは言った。
そして僕たちは虹を探しに出かけたんだ。
どこにあるかも分からないのにあてもなく。
当然虹は簡単には見つからなかった。
言い出しっぺのはるちゃんはもう泣きそうだった。
「そうちゃん、にじみつからないね」
何度も何度もはるちゃんははるちゃんはそう言った。
そのたびに僕ははるちゃんを励ました。
「はるちゃん、ぜったいみつかるよ」
でも歩いても歩いても虹は見つからなかった。
気が付くとそこは知らない場所。
とうとうはるちゃんは泣き出してしまった。
とりあえず僕は来た道を引き返すことにした。
でも。
「あれ、みぎだっけ、ひだりだっけ…?」
僕も来た道がわからなくなってしまった。
はるちゃんはまだ泣いている。
そこで僕はひらめいた。
だれかに道を聞こう。
でも夏の昼下がり。
外を散歩しているひとなんかいるわけがなかった。
それでも僕たちはとぼとぼと歩き続けた。
そして。
外で鉢植えに水をやっているお姉さんを見つけた。
僕はお姉さんに声をかけた。
「なのはなようちえんのみなみそうたです。ここはどこですか?」
迷子になったときはこう言えってお母さんに教わったとおりにいう。
「あら菜の花幼稚園?ずいぶん遠くから来たのねぇ。ここは隣町だよ。
君たち、ちょうどいいや、私も隣町に行く用事があるから、幼稚園まで送ってあげるよ。
幼稚園からは自分たちで帰れるね?」
僕たちはうなずいた。
それをみてお姉さんは、
「じゃあちょっと用意してくるからこの霧吹きでこの花に水をやっていてくれるかな?」
と言って、家の中に入っていった。
シュッシュッ。
言われたとおりに水をやっていると、
「あっ、にじ!」
いつのまにか、泣き止んでいたはるちゃんが叫んだ。
「え、にじ?」
僕には見えなかったのでそう聞き返した。
「そうちゃんのもってるきりふきからにじがでてきた!ほらっ。」
シュッ。
「わぁ。」
確かに虹だった。
シュッシュッシュッ。
「大体なんでこんなとこまで来ちゃったんだい?」
「虹を探しにきたの」
お姉さんの問いかけにはるちゃんが答えた。
「へぇ。虹は見つかったかい?」
「うん!」
満面の笑みを浮かべてはるちゃんが言った。
「そうか。それはよかったね」
お姉さんは本当に僕たちを幼稚園まで送り届けてくれた。
「「ありがとうございました」」
「もう二人だけで遠くにきちゃだめだよ」
お姉さんはそういって去って行った。
「にじ、みれたね」
「うん、そうだね」
僕たちはちょっとだけ大人になったようで、うれしかった。
その1か月後。
突然決まったはるちゃんのお父さんの転勤ではるちゃんが引っ越してしまうことになった。
引っ越しの日。
またはるちゃんは泣いていた。
僕は泣かなかった。
「そうちゃん、またにじをさがしにいこうね」
「うん」
「ぜったいだよ」
「うん」
はるちゃんを乗せたトラックは去って行った。
「また…?」
お母さんがいぶがしげに首をかしげた。
それ以来はるちゃんには会っていない。
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今でも虹を見るたび思い出す。
僕とはるちゃんだけの秘密の思い出を。
そして…おそらく僕の初恋を。