表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

第一話 人魚姫

ちょっと〜な短編集です。

色々なジャンルに挑戦して行きたいと思います。

少しでも、楽しんで頂けたら幸いです。

『王子様は、本当にいるのかしら?』 

 蒼い満月の掛かる夜空を見上げ、人魚姫は思いを馳せる。

 こうして海の上に出られるのは、月に一度の満月の夜だけ。

 幼い頃に聞いた『人魚姫』の童話。

 嵐の夜に、『王子様』を助ける人魚姫。

 そして、王子様に『恋』をするのだ。

 運命の、悲しい、実らぬ恋を……。

「本当に王子様がいるのなら、例え実らない恋でもいいから、会いたいなぁ……」

『例え、海の泡になっても構わない』

 そう思えるような、そんな王子様に会いたい。

「はぁっ……」

 今年十六歳になる姫は、父王の決めた婚約者と結婚しなければならなかった。

 別に婚約者が嫌いな訳ではないけれど、ちょっとくらい、夢見る乙女を演じてみたって、いいと思う。

 姫は一人寂しく、心の中で積もる思いを反芻する。

「姫様! もうそろそろお戻りにならないと、危険でございますよ」

 従者のマンボウに、クリクリとひょうきんな丸い目をむきながら、釘を刺された姫は、小さなため息を一つ吐き出した。

 そんなことは、百も承知だ。危険だと知っていても、来てみたい。

それが乙女心っていうものなのだ。

「何せ、人間のまき散らした『放射能』ってヤツが充満していますからね。いくら中和剤をお飲みになっていても、お体に触ったら大変でございます!」

 眉間にシワを寄せて言う彼に、姫が問う。

「ねぇ? 王子様っていると思う?」

「昔は、あちらこちらに沢山いたようですけど、今はほれ、あの通り。『核戦争』ってヤツで、陸の生物がほとんど絶滅してしまいましたからねぇ。残っているのは、『ゴキブリ』とか言う小さな黒い虫だけですよ」

 彼らの視線の先にあるのは、廃墟。

 昔は『TOKIYO』とか言う『最先端の未来都市』だったらしいが、今は、飾る色のないモノクロームのゴミの山だった。

 人間がまき散らした『放射能』は、少なからず彼ら海の住人の生活をも激変させてしまった。生態系は破壊され、かなりの海の生物が滅んでしまったのだ。

 もし、彼らの科学力がこれ程進んだ物で無かったら、この地球上の生物はすべて滅んでしまっていただろう。

「さぁ、帰りましょう、姫。父王様が心配しておられますよ」

「ええ、そうね。なんだかお腹も空いてきちやったわ」

 姫が、クスリと笑う。

「今日のおやつは何かしら?」

 そう言って人魚姫は、水面に綺麗な波紋を残して、海中に消えた。

 やれやれ、未来の海王様の母君になられるおかたは、まだ、色気より食い気だわ……。

 ちゃぽん――。

 マンボウが軽くため息を付いて、姫の後に消える。 

 後に残るのは、ただ静かに寄せては返す波の音。


 それは、人類が、自らの愚かしさにより滅びの道を選んでより、百年後。

 蒼い満月の掛かる夜、東京湾での出来事――。



   終わり



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ