第四章:三人の夕食
前回ベアトリス叔母さんの作戦は頓挫し、代償として腹痛を患いました。
ちゃんと復活できるのか……
見守ってあげてください。
十メートル以上もある食堂で、
アリシアとシアンの夕食会が始まる。
ベアトリスはそのうち立ち直って、
おかゆを食べにくるだろう。
「ねえシアン」
「本当に叔母さんは殺してないよね?」
いつもの椅子に座りながら、
不安そうな表情で、
シアンに問いかけるアリシア。
「はい」
「亡きカトル様に誓って……」
シアンは両手を、
祈るように握り伝える。
「ベアトリス様は……」
「長旅でお腹を壊してしまったのです……」
わざとらしく辛そうな表情をするシアン。
「それで屋敷をウロウロしたいと言ったの?」
「その通りです」
「さすがアリシア様」
「実はトイレに駆け込みたいのを……」
「レディとしてはしたないと……」
「我慢していたのです……」
なぜか今にも泣き出しそうな顔をするシアン。
演技力は高いようだ……
「そんなベアトリス叔母さん……」
「私気づかなかったわ……」
「あ!」
「だからおかゆにしたの?」
アリシアは手をパチンと叩き納得する。
「アリシア様にはかないませんね」
「ベアトリス様は腹痛で冷や汗をかいてましたので……」
「さすがに豪華なご馳走を振る舞うのは……」
「良くないと気が引けたのです」
主を褒めたたえるシアン。
「実は私以外にもちゃんと優しいのね」
「シアンは!」
「安心したわ」
「ごめんなさい」
「昼間はいじわるをいって……」
「そんなアリシア様」
「謝らないでください」
「私が気を回しすぎた結果です」
「じゃあ夜はご褒美ね」
「本当ですか!?」
アリシア様……
もうババアなど放り出しましょう……
シアンは嬉しすぎて、
内心おかしくなっている。
「なんと添い寝も追加よ」
小悪魔のような笑みを浮かべる。
「もはや何と言ったらよいのか……」
「ありがたき幸せです」
顔がとろけそうになっているシアン。
「いいのよ」
「今日のホワイトシチューと、」
「手作りのパンも最高だわ!」
右手に持ったフォークでパンを刺して、
食べ始めるアリシア。
「野菜も美味しいし」
「シアンの愛を感じられるの……」
フォークをスプーンに持ち替えて、
シチューを飲み始める。
「ありがとうございます……」
このままでは理性が……
持たない……
鋼の心は砕け散ったシアンであった。
「ふう……」
暴露の衝撃から立ち直ったベアトリスが、
食堂に入ってきた。
「あ、叔母さん!」
「来てくれたのね?」
「腹痛は大丈夫?」
シアンは上手く合わせろ!ババアという顔をしている。
「ええ……」
「なんとか治ったわ」
少しだけ苦しそうな顔をするベアトリス。
さりげなくアリシアの右側の椅子に座る。
「ベアトリス叔母さん」
「ごめんなさい」
「私辛かったのに……」
「気づかずに追い詰めてたの……」
アリシアは落ち込んでしまう。
「そ、そんな気にしないで」
「黙ってた私が悪いし」
普段は諜報員として騙すのは当たり前なのに……
なぜかこの子の前では苦しいわ……
ベアトリスはなぜか罪悪感を感じる。
「さあ、ベアトリス様」
「愛を込めて作ったドクダミおかゆです」
「全部残さず食べてください」
おかゆは禍々しい色になっている。
もはやマンドラゴラでも、
入っているのではないか?
「おかゆ美味しそうね!」
「私にも一口ちょうだい!」
アリシアは今にも横取り、
しそうな勢いでおかゆを見つめている。
「いいわよ」
「はい、あーん」
スプーンでおかゆをすくい、
アリシアの口に入れる。
「わーい、叔母さんありがとう!」
「シアン!美味しいわよ」
「なんだか色は凄まじいけど……」
「はい、心を込めて元気になって欲しかったので……」
「色々な物を入れました」
「例えば……」
「それ以上は聞きたくないわ」
「どうせ毒サソリとか言うんでしょう?」
ベアトリスはシアンの説明を、
無理矢理中断する。
「アリシア様が食べる可能性があるのに……」
「毒サソリなどは入れません」
最愛の主の左側に立って、
その頭を優しく撫でるシアン。
「シアン!」
「今度ジャイアントロブスターを、」
「倒してきてくれる?」
「姿作りが忘れられなくて……」
「余ったら近隣の人に分けられるし」
なでられることに恥ずかしくなったのか、
急に話題を変えるアリシア。
ベアトリスはついていけない。
「あなたのためなら……」
「どんな怪物でも……」
「倒して料理しますよ」
たくましすぎる上腕二頭筋を掲げるシアン。
「ジャイアントロブスターって……」
「百メートル以上あるわよ?」
「世界最強クラスの外骨格があるし……」
「生半可な攻撃では傷がつかないわ……」
ベアトリスはため息をついてしまう。
「シアンはね!」
「私がジャイアントロブスターを食べたいと、」
「言ったら持ってきてくれたの!」
「は?」
ベアトリスは素の反応をする。
「裏庭にまだ骨格が飾ってあるわ!」
「明日見に行きましょう?」
アリシアは巨大怪獣の話題で、
テンションが爆上がりする。
「え?」
「理解が追いつかないわ……」
「あと食べきれないと思うの……」
ベアトリスは完全に混乱している。
帝国の諜報員がそれでいいのか……
「大丈夫?」
「……叔母さん」
「もしかしてまたお腹痛い?」
心配した表情でベアトリスの顔を、
のぞき込むアリシア。
「大丈夫よ……」
「スケールの次元が違いすぎて……」
情報量の多さに、
胃もたれしたベアトリス。
「明日は希望に満ちた素晴らしい一日になるわ!」
「だから今日は皆で寝ましょう?」
アリシアは笑顔で二人に告げる。
「え?」
「はい?」
アリシアの爆弾発言に、
動揺を隠せないシアンとベアトリスであった。
やはり似たもの同士なのである。
シアンとベアトリス叔母さんは完全に年下のアリシアに翻弄されています。
次回は修羅場になりそうな幸せな就寝会です。
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