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【完結・連載版】亡き姉が残した「生後8ヶ月」の娘を引き取った俺と家族になってくれませんか?  作者: 文月ナオ


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番外編

 

 休日の午後。


 佐伯家のリビングには、生後5ヶ月になる達也(たつや)の、元気いっぱいの泣き声が響き渡っていた。


「ふぎゃぁぁぁっ! あぁぁぁん!」


「ああっ、ごめんねたっちゃん! ママ、今急いでミルク冷ましてるからね!」


 キッチンから、詩の焦った声が聞こえてくる。


 俺も慌てて取り込んだ洗濯物を放り出し、ベビーベッドへと駆け寄った。


「よしよし、達也。パパが抱っこしてやるからなー」


「だめっ!」


 俺が達也を抱き上げようと手を伸ばした瞬間、小さな両手が俺の前に立ちはだかった。


 陽菜だ。


 陽菜は、ベビーベッドの柵にへばりつくようにして背伸びをし、自分の顔より大きなウサギのぬいぐるみを持って必死に達也をあやしている。


「パパ、だめ! ひながおねえちゃんだから、ひながやるの! ……たっちゃん、ほら、ウサギさんだよぉ。泣かないでぇ」


 陽菜は一生懸命にウサギを達也の顔の前で揺らすが、達也はますます顔を真っ赤にして泣き叫んでしまう。


「……たっちゃん、なきやまないな……」


 泣き止まない達也を見て、陽菜の眉尻が八の字に下がっていく。


「……陽菜ちゃん」


 その時、俺の足元で、冷静な子供の声がした。


 今日、有馬に連れられて遊びに来ていた、有馬の息子――奏太(かなた)くんだ。


 銀縁の小さな眼鏡をかけた彼は、泣き叫ぶ達也と、焦る陽菜をじっと観察してから、ポツリと言った。


「ぬいぐるみ、近すぎるんじゃない? 視界が塞がれて、余計に怖がってると思うよ」


「そ、そんなことないもん! たっちゃんは、このウサギさんがすきなんだもん!」


 陽菜はムキになって言い返すが、達也の泣き声は一向に収まらない。


 奏太くんは小さくため息をつくと、陽菜の手からそっとウサギのぬいぐるみを受け取り、代わりにベビーベッドの端に置いてあった、淡い音の鳴るオルゴールのおもちゃを陽菜に手渡した。


「こっちのほうが、音で気が紛れるはずだよ」


「……うぅ」


 陽菜は渋々おもちゃを受け取り、カランコロンと鳴らしてみる。


 しかし、空腹が限界に達している達也には効果がなく、泣き声はさらに大きくなってしまった。


「ほらね! だめじゃん!」


「お待たせ! ミルクできたよ!」


 そこへ詩が小走りで駆けつけ、手際よく達也を抱き上げて哺乳瓶を口に含ませた。


 すると、あんなに泣き叫んでいた達也が、嘘のようにピタリと泣き止み、コクコクと必死にミルクを飲み始めた。


「よしよし、お腹空いてたのねぇ」


 詩が優しく微笑みながら達也の背中をトントンと叩く。


 俺もホッと胸を撫で下ろし、詩の肩を優しく撫でた。


「詩、ありがとう」


「ううん。優真も、洗濯物ありがとね」


 俺たち夫婦が達也を中心にして笑い合っていると、ふと、視界の端で小さな背中がくるりと踵を返した。


「……ひな、あっちでえほん、よんでる」


 陽菜が、うつむき加減でポツリと呟き、リビングの隅にあるキッズスペースへとトコトコ歩いていってしまった。


 その小さな背中が、なんだかひどく小さく見えて、俺の胸の奥がチクリと痛んだ。


「……」


 奏太くんが、そんな陽菜の後ろ姿を、眼鏡の奥の瞳でじっと静かに見つめていた。


 彼は陽菜が置きっぱなしにしていたウサギのぬいぐるみを拾い上げると、トコトコと陽菜の元へ歩いていき、無言で彼女の隣に座って一緒に絵本を覗き込み始めた。


 陽菜は奏太くんに気付き、そっと、その小さい手を握った。


(……ほんと、優しいよな奏太くん。……でも、娘はやらんぞ)




 ◇◆◇




 その日の夜。


 有馬の迎えで奏太くんが帰り、達也も寝室でスヤスヤと眠りについた後のこと。


 俺がリビングの片付けをしていると、ソファーの陰で、小さな影が膝を抱えて丸まっているのを見つけた。


 いつもなら、とっくに俺の布団に潜り込んできて、腕枕で眠っている時間なのに。


 俺は小さなマグカップにホットミルクを注いで、少しだけハチミツを溶かした。


「陽菜」


 俺がソファーに腰を下ろし、優しく声をかけると、陽菜はビクッと肩を揺らして顔を上げた。


「……パパ」


「こんなところで、どうした? 眠れないか?」


 俺が隣をポンポンと叩くと、陽菜はもそもそと這い上がってきて、俺の膝の上にちょこんと座った。


 あの頃と比べて、ずいぶん重くなった、俺の大切な宝物。


「ほら、これ。陽菜の好きな、甘いミルクだぞ」


「……ありがとう」


 陽菜は小さな両手でマグカップを受け取ると、フーフーと息を吹きかけ、一口だけコクンと飲んだ。


 けれど、いつものような「おいしい!」という笑顔はない。


 ただ、マグカップの中の白い水面を、じっと見つめているだけだ。


「……陽菜。今日、たっちゃんを泣き止ませられなくて、悔しかったか?」


 俺が頭を撫でながら静かに尋ねると、陽菜の小さな肩が、ピクリと震えた。


「……ちがう」


「ちがう?」


「……ひなね。おねえちゃんなのに、なんにもできないの」


 ポツリとこぼれ落ちたその言葉は、震えていた。


「かなたくんは、あたまがいいから、たっちゃんのことわかるのに……。ひなは、だめだめなおねえちゃんだから、たっちゃん、泣いちゃった」


「そんなことないよ。陽菜は一生懸命たっちゃんをあやしてくれてただろ? パパもママも、すごく助かってるんだぞ」


 俺が励まそうとすると、陽菜はふるふると首を横に振った。


 そして、マグカップを持ったまま、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。


「だって……パパもママも、たっちゃんばっかりだもん……っ」


「……っ」


「たっちゃんがきてから、パパとママ、ずっといそがしそう。ひな、いいこにしてなきゃって、おねえちゃんにならなきゃって、がんばってるのに……」


 陽菜の言葉が、鋭い針のように俺の胸を刺した。


 陽菜を引き取ってから、俺と詩は、この子にありったけの愛情を注いできた。


 血の繋がりがないからこそ、絶対に寂しい思いなんてさせないように、世界一幸せな女の子にするんだと誓って育ててきた。


 けれど、達也が生まれてから、どうしても手のかかる赤ん坊の方に時間と気を取られてしまっていた。


 小さな胸の中で、陽菜は「お姉ちゃんだから」と、無意識のうちに自分を押し殺し、我慢を重ねていた。


「……ひな、いいこじゃないと、パパとママ、たっちゃんのことばっかりすきになっちゃう……? ひなのこと、いらなくなっちゃう……?」


「――陽菜ッ!!」


 俺は、陽菜の手からマグカップをテーブルに取り上げると、その小さな体を、痛いほど強く抱きしめた。


「パ、パパ……っ?」


「ごめんな……ごめん、陽菜。寂しい思いをさせて、本当にごめん」


 俺の目から、ボロボロと涙が溢れてくる。


 悲しい涙じゃない。

 嬉しい涙でもない。


 ただただ、自分が情けなくて仕方ない涙。


 陽菜の小さな背中を包み込むように撫でながら、俺は必死に言葉を紡いだ。


「陽菜。無理して良いお姉ちゃんになんて、ならなくていいんだよ」


「……え?」


「パパとママの前では、ずっとワガママで、甘えん坊の陽菜でいていいんだ。いい子じゃなくたって、パパは陽菜のことが世界で一番大好きだよ」


 俺の首に、陽菜の小さな腕が回される。


「……ほんと?」


「本当だ。……たっちゃんが生まれても、パパの初めての子供は、陽菜なんだから」


「陽菜に、お姉ちゃんを押し付けてごめんな。パパ、全然周りのこと見えてないよな」


 俺は少しだけ体を離し、涙でぐしゃぐしゃになった陽菜の顔を、両手で優しく包み込んだ。


「でもな、パパを『パパ』にしてくれたのは、陽菜なんだよ。だから、陽菜はパパにとって、世界で一番最初の大切な宝物なんだ。……誰がなんと言おうと、陽菜はパパとママの、一番大好きな娘だから」


 その言葉を聞いた瞬間。


 陽菜の大きな瞳から、せき止めていたものが決壊したように、わあっと大粒の涙が溢れ出した。


「うぇぇぇぇんっ……! パパぁ……っ! パパぁぁっ……!」


 陽菜は俺の胸に顔を埋め、子供らしく、思い切り声を上げて泣きじゃくった。


「パパ、だいすきぃ……っ! ひな、ママも、たっちゃんも、だいすきぃぃっ……!」


「ああ。パパも大好きだし、ママもたっちゃんも陽菜が大好きだよ」


 俺は、泣きじゃくる陽菜を何度も何度も強く抱きしめ、その小さな背中をトントンと優しく叩き続けた。


 やがて、泣き疲れた陽菜の呼吸が、少しずつスースーという寝息に変わっていく。


 俺の胸にしがみついたまま、安心しきった顔で眠る愛娘。


(……また、姉ちゃんの言う通りだな。育児をしてたら、自分も育つ。こんな小さな子に、何回分からされるんだろう)


「優真」


 隣の部屋から詩が出てくる。


「詩……」


 詩は俺と陽菜の姿を見て、全てを察したようだった。


「私たち、まだまだだね」


「……うん」


「一緒に成長していこう。みんなで」


「家族、か。難しいな、やっぱり」


「大丈夫。大切な気持ちだけ忘れなければ、何回でもやり直せるよ」


「……詩、おいで」


 ソファの隣をポンポンとすると、詩は吸い込まれるようにやって来て俺に抱きついた。


「落ち着く……」


「俺も」


「……たっちゃん……だいすき……」


 陽菜が幸せそうな顔をして寝言をもらす。


「……ふふ」


「陽菜がお姉ちゃんで良かった」


「そうだね。こんなに可愛くて優しい子、どこにもいないもん」


「明日は、陽菜の大好物作っちゃおうかな」


「お、いいね。俺も手伝う。ハンバーグ? カレー? どっちにする?」


「うーん……。頑張ってるから、どっちも!」


「3人で作ろうか」


「ふふっ。賛成!」







【2/13追記】

こんなこと、追記で言うことでもないんですけど、『弟ならどらごん』覚えていますでしょうか?

弟、達也、ですね。

どらごん、竜、龍、たつ……。

──────────────────



皆様、こんばんは。


昨日ぶりですね。


本日は、最終話あとがきでもお話しました陽菜の短編の投稿についてお知らせします。


まずは、こちらの連載版、皆様の応援のおかげで完結済みの日間ランキングで1位にさせていただきました。

本当にありがとうございました。


ポイントのためにチマチマ〜と、失礼なことを申し上げておりましたので、この事態は正直想定しておりませんでした。

私の中で、この作品は是非読んで欲しい。

だけど、1話ずつ、毎日更新してモヤモヤさせるのは何か違う。

と思っていたので、一日完結という、あの暴挙に出ました。


いただいた評価は、この作品に何かを感じて入れてもらえたと思っているので、私はそれだけで満足です。

それだけでも幸せなことなのに

短編とともにランキング1位に載せてもらえるなど、もう、ビックリ!!ですね。


正直なところを申し上げますと、ポイントはつかなくてもいい。

短編にポイントを入れてくださった方が、もっと読みたいと思ってくださって、それに応えられるなら、ポイントなんてどうでもいいや。

それより早く続きを投稿して、いつでも好きな時に読める状態にしておきたい!

と思っていましたので。


今回のことを受けて、私なりに、陽菜の短編を最終話のあとがきで、

投稿したので見てください!

だけで済ませたくない気持ちが強くなり

どうしたら、皆様に恩返しできるかな、と思い今回、このように1話分更新した次第です。


蛇足になるかもな、とも思いましたが、私はこの話の出来に満足してます。

自分が面白いと思えないものを他の誰かが面白いとなんて思ってくれるわけないので。

特に、目の肥えた皆様なら尚更。


またまた長くなってしまったので、この辺にしますが、何が言いたいかと言うと

ありがとうございます。

これだけです。要約すると笑


陽菜主人公の短編はこちらです。

陽菜の未来を、是非見届けてください。


私の世界の中心も、ずっとあなただったから。

https://ncode.syosetu.com/n5102lt/



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