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【完結・連載版】亡き姉が残した「生後8ヶ月」の娘を引き取った俺と家族になってくれませんか?  作者: 文月ナオ


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3/30

3

 

 2104号室に入った瞬間、ふわりと柔らかな空気が俺を包み込んだ。


 俺の部屋と同じ間取りのはずなのに、そこは全く違う世界のようだった。

 荒れ果てた俺の部屋が戦場だとしたら、ここは静寂な聖域だ。


 玄関には可愛らしいドライフラワーが飾られ、ほのかに柑橘系のいい香りが漂っている。

 床には塵一つなく、家具も温かみのある木目調で統一されていた。


「どうぞ、入ってください。散らかってますけど」


「い、いえ。俺の部屋に比べたら、モデルルームみたいです……すみません、お邪魔します」


 リビングに通されると、彼女はすぐに俺にソファを勧め、自分は洗面所へと走った。


 戻ってきた彼女の手には、タオルと体温計、そして保冷剤が握られていた。


 その瞳は、先ほどまでの隣人としての遠慮が消え、凛とした光を宿していた。


「赤ちゃん、私に貸してください」


「えっ?」


「私、保育士をやってるんです。それに兄が小児科医で、子供の急病の対応とか、よく聞いてて」


 保育士。

 そして、医師の妹。


 その言葉を聞いた瞬間、俺の中で張り詰めていた何かが、ぷつりと切れた気がした。


 プロだ。


 この人は、プロなんだ。

 ネットの不確かな情報でも、俺の頼りないマニュアル知識でもなく、確かな「経験」を持った人だ。


「お、お願いします……! 陽菜を……助けてください……!」


 俺は縋るように陽菜を差し出した。


 彼女は、泣き叫ぶ陽菜を慣れた手つきで受け取ると、優しく、しかし力強く抱きかかえた。

 その抱き方は、俺のぎこちないそれとは全く違っていた。

 赤ちゃんの背骨をしっかりと支え、包み込むような安定感。


「陽菜ちゃんって言うんだね。可愛いお名前だね〜。よしよし、びっくりしたねぇ。パパが慌ててるから、怖くなっちゃったかな?」


 彼女が背中をトントンと一定のリズムで叩きながら、あやし始める。


 その手つきは魔法のようだった。


 俺が何時間揺すってもダメだったのに、陽菜の泣き声が、少しずつ弱まっていく。


 彼女は陽菜をソファに寝かせると、迷うことなくその分厚いフリースのジッパーに手をかけた。


「あ、あの! それは……!」


 俺は思わず声を上げた。


「母が風邪を引かないように、温かくしろって……」


「今は逆効果です」


 彼女は手を止めず、静かに、けれどきっぱりと言った。


「その『温かく』が、この子の熱の原因です」


「……え?」


「これは『うつ熱』の可能性が高いです。厚着させすぎて、熱が体の中にこもっちゃってるんです」


 うつ熱。

 初めて聞く言葉だった。


「赤ちゃんは大人より体温が高いんです。それに、泣いて興奮するとすぐに体温が上がる。……さっきエレベーターでお会いした時も、実は少し気になっていたんです」


 彼女はそう言いながら、フリースを脱がせ、中に着ていた肌着のボタンも外していく。

 ムッとした熱気が、服の中から放出されるのが分かった。


 彼女は濡らしたタオルで、汗ばんだ陽菜の首元や脇の下を優しく拭いてやる。


「ほら、涼しくなったねー。気持ちいいねー」


 するとどうだろう。


 火がついたように泣き叫んでいた陽菜が、嘘のように静かになり、ほうっと息を吐いたのだ。

 赤かった顔が、みるみるうちに元の健康的な桜色に戻っていく。


 そして、彼女の指をぎゅっと握りしめ、キャッキャと小さな笑い声を上げた。


「……あ」


 笑った。


「服を脱がせる」という、たったそれだけのことで。

 陽菜の笑顔を見た瞬間、心の底からホッとした。


 そして同時に、思った。

 俺は何をしていたんだ?


 ロジックだ、完璧だと言いながら、俺は陽菜を苦しめていただけじゃないか。

 俺の独りよがりな「正解」が、この子を泣かせていた。


 情けなくて、悔しくて、申し訳なくて。

 視界が歪んだ。


「……よかった……本当によかった……」


 俺は両手で顔を覆い、その場に崩れ落ちた。

 30過ぎた男が、他人の家で、それも人前で声を上げて泣くなんて。

 でも、止まらなかった。


 張り詰めていた緊張の糸が切れ、感情が決壊した。


「ごめんなさい、陽菜……ごめん……」


 俺の懺悔を聞きながら、小日向さんは何も言わず、ただ陽菜をあやし続けてくれた。



 ◇◆◇



「落ち着きましたか?」


 しばらくして、俺が鼻をすすりながら顔を上げると、テーブルの上に温かいマグカップが置かれていた。

 湯気を立てる、ココアだ。


「……すみません、取り乱して」


「いえ。相当参っていたみたいですから」


 彼女は向かいの席に座り、申し訳なさそうに眉を下げた。


「あの……私の方こそ、ごめんなさい」


「え?」


「さっき、エレベーターでちゃんと言うべきでした」


 彼女はココアのカップを両手で包み込み、視線を落とした。


「でも、言えませんでした。私なんかが口出ししたら迷惑かなって。余計なお世話だって思われるのが怖くて……」


 彼女の声が震えていた。


「私が臆病だったせいで、陽菜ちゃんを苦しませてしまいました。……もっと早く言っていれば、こんなことにはならなかったのに」


「……違います。あなたが謝る理由なんてなにもない」


 俺は首を振った。


「俺が……俺が傲慢だったんです。自分の知識だけで完璧だと思い込んで、周りが見えていなかった。陽菜のことを一番大切にして、一番見てなきゃいけなかったのは俺なのに」


 これは俺の独りよがりな自信が招いた結果だ。


「……ありがとうございます、あなたがいてくれて、本当によかった」


 俺の言葉に、彼女は驚いたように顔を上げ、それから恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んだ。


「……私も、お役に立ててよかったです」


 その笑顔を見た時、俺の胸の奥で、何かが温かく溶けていくのを感じた。


「……あ、そうだ、申し遅れました。俺、佐伯優真と言います。この度は本当に、本当にありがとうございました。後日、必ずこのお礼はします」


「私は小日向詩(こひなた うた)です。気にしなくて大丈夫ですよ。大したことはしてませんから」


「い、いや! そういうわけにはいきません! 小日向さんは陽菜の命の恩人で……!」


 俺がそこまで言った時。


 ――グゥゥゥゥ……。


 盛大な音が部屋に響いた。

 俺の腹の虫だ。

 ここ最近、まともな食事をしていなかった胃袋が、緊張の緩和と共に主張を始めた。


「あ、すみま……!」


「ふふっ」


 小日向さんが吹き出した。


「佐伯さんも、限界だったんですね。……何か、食べますか?」


「えっ、いえ、そんな!」


「実は私、今日ちょっと落ち込むことがあって……夕飯、作りすぎちゃったんです。豚汁とおにぎりなんですけど、一人じゃ食べきれなくて」


 彼女は少し寂しそうに笑った。


「よかったら、付き合ってもらえませんか? 陽菜ちゃんも気持ちよさそうに眠っていますし、まだお部屋、入れませんよね?」


 それは、彼女なりの気遣いだったのかもしれない。

 でも、今の俺には、それが何よりもありがたかった。


「……はい。では、お言葉に甘えさせていただきます」


 俺は深く頭を下げた。


「それとこれを使ってください」


 小日向さんが俺にロック解除されたスマホを差し出してくれた。

 

「え? これは?」


「管理会社に連絡しないと、お部屋のロック解除してもらえませんよね?」


「……何から何まで……お世話になりっぱなしですね」


「ふふ。豚汁あたためますね」




 ◇◆◇




 テーブルに並べられたのは、湯気を上げる大きなおにぎりと、具沢山の豚汁だった。


「たいしたものじゃないんですけど」


「とんでもない! ごちそうですよ!」


 小日向さんは恥ずかしそうに言うが、今の俺にはミシュランの三ツ星料理よりも輝いて見えた。


「い、いただきます……」


 俺は震える手でおにぎりを掴んだ。

 ほんのり温かい。

 海苔のいい香りが鼻孔をくすぐる。


 一口、齧る。


 塩加減が絶妙で、米の一粒一粒が立っている。

 中に梅干しが入っていて、その酸味が疲弊しきった体に心地いい刺激を与える。


 美味い。

 涙が出るほど、美味い。


 続けて豚汁を啜る。

 大根、人参、ごぼう、豚肉。

 野菜の甘味と味噌の風味が、冷え切った五臓六腑に染み渡っていくようだ。


 これが、人の営みの味か。


「……美味しいです。すごく」


「よかった。おかわり、ありますからね」


 俺は無我夢中で食べた。

 食べている間、小日向さんはソファで眠る陽菜の頭を優しく撫でていた。


 その横顔が、あまりにも穏やかで。

 まるで聖母のように見えた。




 ◇◆◇




「ごちそうさまでした。とても美味しかったです」


「ふふ、よかったです」


 小日向さんはまだ陽菜を撫で続けていてくれた。


「陽菜ちゃん、何ヶ月ですか?」


「えっと……生後8ヶ月です」


「……8ヶ月。一番目が離せないし、人見知りも始まる大変な時期ですね。陽菜ちゃんって、どんな字を書くんですか?」


「太陽の陽に、菜の花の菜で陽菜です」


「いいですね。素敵。奥さんが決めたんですか? それとも、お二人で?」


「……あ」


 答えに詰まってしまった。


 そりゃそうだよな。


 こんな小さな子がいれば、奥さんがいると思うのは当たり前。


 彼女は、俺と陽菜を中に入れてくれた。

 物騒な世の中で、女性一人なのに、迷わず。


「……実は」


 俺は、正直に話すことにした。

 この人には、嘘をつきたくなかったから。


「……1ヶ月前に、姉が事故で亡くなって。陽菜は、姉の子で……俺が引き取ったんです。俺は独身なので、妻はいなくて……」


「…………そう、だったんですか」


 彼女の目が見開かれる。

 同情の色よりも、納得の色が強かった。


 俺の不慣れな手つきや、限界ギリギリの様子を見て、合点がいったのだろう。


「両親は介護もあって……陽菜を施設にやるしかないって話になったんです。でも、俺にはできなかった。姉ちゃんたちが何よりも大切にしていた宝物を手放すなんて」


 俺は拳を握りしめた。


「仕事なら何でもできるつもりでした。金もあるし、環境も整えた。……でも、一番大切な『安心』を、この子にあげられていなかった。俺は、父親になった気になってるだけで、なんにもできてない」


「子育てって、大変ですからね。でも……私、佐伯さんがなにもできてないなんて思いません」


「え?」


「……気持ち悪いって思われるかもしれないんですけど、私、実はいつも見てたんです。すぐそこの公園に、いますよね? 陽菜ちゃんと」


「あ、はい……」


「毎日、お散歩に連れて行ってあげて凄いなあって、思ってました。仕事帰りに必ず通るので、その姿を見て、私は帰ってきたんだなぁっていつも実感してました」


「……な、なんか恥ずかしいですね……」


「だから、家に入れることもすんなり受け入れられたのかも」


「あ……」


 保育士だと聞いた時から、少し違和感はあった。


 ここはタワマン。


 言い方は悪いが、とても保育士の給料で住めるような場所じゃない。


「……変、ですよね。保育士が、こんな高級なところに住んでるの」


「え!? い、いや……」


 この人……心が読めるのか!?


「父が心配性で、ここの家賃も払ってくれてるんです。私はもっと安いアパートでいいって言ったんですけど」


「……いや、お父様は正しいと思いますよ。最近は物騒だし…………って、上がり込んでる俺が言うなよって話ですよね……」


 彼女はクスッと笑って俺の方に向き直った。


「ふふ。ほんと、怒られちゃいますね」


「はは……ほんとすみません……」


「……私、感謝してるんです。佐伯さんに」


「感謝? 俺に、ですか?」


「はい。いつも……救われてました。公園で見かける佐伯さんと陽菜ちゃんに」


 そう言って微笑む彼女の顔を見た時、何故か分からないけれど、俺の胸の奥がじんわりと熱くなった。


「……そう言ってもらえると、こっちも救われます」


「いいえ。佐伯さん。いつも、育児お疲れ様です」


 ……また、泣きそうだ。


 世の中の母親って凄いよな。


 俺は一ヶ月でもうこんなに音を上げてるのに……お母さんたちはこれを何年も何十年も続けるんだ。


 子育てお疲れ様って、その一言がこんなに嬉しいんだ。


 なんなんだろうな、この胸のあたたかさ。


 こんな穏やかな時間を過ごしたのは、いつぶりだろう。

 姉ちゃんが死んでから、俺はずっと気を張っていた。

 悲しむ暇もなく、ただ「責任」という鎧を着込んで、独りで戦っていた気になっていた。


 でも、それは間違いだったんだ。


 今なら分かる。

 俺は、多分……限界なんだろう。

 一人では無理だ。


 ロジックも、金も、最新グッズも、この「経験」と「慈愛」の前では無力だった。

 陽菜を幸せにするためには、俺が変わらなければならない。

 そのための「(こたえ)」は、きっと目の前にいる彼女だ。


 俺は姿勢を正した。

 今できる精一杯の誠意を込めて。


「あの、小日向さん」


「はい?」


「お願いがあります」


 俺はテーブルに手をつき、深々と頭を下げた。


「俺に……育児を教えてくれませんか」


「え?」


「お金は払います。相場の倍……いや、言い値で構いません。ベビーシッターとして知恵を貸してほしいんです」


 小日向さんが目を丸くする。

 俺は畳み掛けるように続けた。


「もちろん、シッターと言っても、あなたの生活を縛るつもりはありません。あなたの空いた時間、スキマ時間で構わないんです。俺に、あなたの知識と経験を貸してほしいんです」


 これは、ビジネスじゃない。

 けれど、俺にとっては何億円のプロジェクトよりも重要な案件だ。


 陽菜を幸せにするための。


「俺は、この子を自分の手で育てたい。でも、今のままじゃダメだということも分かりました。独学のロジックじゃ、この子を殺しかねない」


 俺は顔を上げて、彼女を真っ直ぐに見た。


「俺が一人前の父親になれるように、ご指導いただけないでしょうか」


 全部丸投げするんじゃない。

 俺が、やるんだ。方法を教えてもらって。

 陽菜の、父になるために。


 小日向さんは驚いた顔をしたまま、しばらく瞬きをしていた。

 やがて、困ったように眉を下げ、優しく微笑んだ。


「……お金はいりませんよ」


「えっ? いや、ですが、プロの技術を教わるわけですし、貴重な時間を割いてもらうわけですから、対価を払うのは当然の義務で……」


「お隣さんじゃないですか」


 彼女の言葉は、俺のガチガチに固まった思考を、ふわりと解きほぐした。


「それに、陽菜ちゃんの笑顔、私も、もっと見ていたいですし。私、子供大好きなので」


 彼女はそう言って、また陽菜の頬を指先で優しく突っついた。


「私、少し悩んでいたんです。自分は保育士に向いてないんじゃないかって。でも、佐伯さんと陽菜ちゃんのおかげで、少し自信が持てました」


「小日向さんが……?」


「はい。さっき、佐伯さんが『救われた』って言ってくれた時、すごく嬉しかったんです。私でも、誰かの役に立てるんだって」


 彼女は恥ずかしそうに笑った。


「だから、これはギブアンドテイクです。お金とか契約とかじゃなくて……ご近所さんとしての助け合い。……じゃダメですか?」


「……分かりました。では、お言葉に甘えさせてください」


「はい! こちらこそ、よろしくお願いします」


 彼女は自分のスマホを取り出した。


「連絡先、交換しましょう。困ったことがあったら、いつでもLINEしてください。IDと電話番号書いておきますから、いつでも連絡ください」


 そう言って彼女は俺にメモを渡してきた。


「ありがとうございます……! 本当に、ありがとうございます……!」


 光明が見えた気がした。


 ワンオペ育児の、長いトンネルの中に一人だけ立っていた俺の視線のその先に、光り輝く、強くて優しい天使が舞い降りたみたいに。


 ――ピンポーン。


 その時、インターホンが鳴った。


「あ、多分管理会社の人ですね」


「……じゃあ、行きますね。本当に、何から何までありがとうございました。本当に……助かりました」


 俺は眠る陽菜を慎重に抱き上げた。

 さっきまでの、絶望的な重さはもうない。

 温かくて、柔らかい、愛おしい重みだ。


「佐伯さん。……頑張りすぎないでくださいね」


 玄関で見送ってくれる彼女の言葉に、俺は一度だけ振り返り、深く頷いた。




 ◇◆◇




 管理会社の人に鍵を開けてもらい、俺はようやく自分の城――2102号室へと戻った。


 小日向さんの部屋を見たあとだと、この部屋がどれだけ散らかってるかが分かる。

 床には粉ミルクが散乱し、空気は淀んでいる。

 数時間前までは、ここは絶望の牢獄だった。


 けれど。


「……まずは、換気だな」


 俺は陽菜をベビーベッドに寝かせると、遮光カーテンを開け放ち、窓を開けた。

 冷たい夜風が入ってくる。

 でも、今の俺にはそれが心地よかった。


「……生まれ変わるぞ、俺は。陽菜のために、全部を捧げて最強のパパになってやる!」


 ――ピコン。


 スマホの通知音。


「あ……」


 ポケットから、小日向さんのLINEのIDが書いてある紙を取り出す。


 スマホを見てみると、いくつかのメールと、妹の玲奈からのLINEが入っていた。


『今度帰るから。お兄ちゃんの家泊めて。それから、陽菜ちゃんに会いたい。写真送って』


俺は玲奈からのLINEを既読無視し、小日向さんを友達登録した。


 『小日向 詩』


 その文字を見ているだけで、不思議と力が湧いてくる。

 一人じゃない。

 壁一枚隔てた隣に、強力な味方がいる。


「陽菜。……パパ、頑張るからな」


 俺は陽菜の小さな手を握った。

 陽菜は答えるように、むにゃむにゃと口を動かし、微かに笑った気がした。


「かわい。写真撮ろ」


陽菜の可愛すぎる寝顔をしっかりとカメラロールに保存し、俺はそれを小日向さんに送った。


『佐伯です。よろしくお願いします。可愛い寝顔が撮れたので、おすそ分けします。今日はありがとうございました。おやすみなさい』


送った瞬間、既読がついた。


それが……無性に嬉しかった。


『可愛い! 陽菜ちゃんの写真、いつでも大歓迎です! 私の方こそ、今日は気分転換になりました。またいつでもLINEください。おやすみなさい』


「ふふっ」


自然と、笑みがこぼれた。


「……あ。一応玲奈の奴にもこの写真送ってやるか……」


 この日から、俺の本当の「育児」が始まった。


 ロジックなんかじゃない。

 誰かの手を借り、頭を下げ、泥臭くあがく。


 エリートコンサルタント・佐伯優真の、プライドを全て捨てた、パパとしての闘いの日々が。

 

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