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【完結・連載版】亡き姉が残した「生後8ヶ月」の娘を引き取った俺と家族になってくれませんか?  作者: 文月ナオ


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 俺たちはひとまず部屋に戻り、玲奈に事情を説明した。

 そして、開口一番。


「よくやった! いやー! 見直したわお兄ちゃん!」


 バシン、と背中を叩かれる。

 結構痛い。


「へっ?」


「えっ? なによ、その間抜けな顔」


「いや……てっきり、『何勝手なことしてんのよ』って怒鳴られるかと」


 俺が恐る恐る言うと、玲奈はケラケラと笑い飛ばした。


「あーないない。私がその場にいたら、そのステッキへし折って、車の窓ガラスにぶっ刺してるからね」


「……ギャングかよ……」


 妹の過激な発言に、俺は苦笑するしかなかった。

 でも、その明るさに救われた気がする。

 さっきまでの重苦しい空気が、一気に霧散していくようだ。


「ねぇ、小日向さん」


 玲奈が、俺の後ろで縮こまっている小日向さんに声をかけた。


「は、はい……」


「ようこそ! 佐伯家へ! 大歓迎だよ!」


 玲奈は両手を広げて、小日向さんに抱きついた。


「……玲奈ちゃん……」


 小日向さんの目から、また涙がこぼれそうになる。


「お前の家じゃないぞ。……というか、そろそろ出ていったらどうだ?」


 俺が茶々を入れると、玲奈はパッと離れて俺を睨んだ。


「私のことは追い出すの!?」


「そ、それはその……部屋も手狭になるし……」


「……んー?」


 玲奈は目を細め、俺と小日向さんを交互にジロジロと見た。

 探偵のような目つきだ。


「……よし、やっぱり私がいなきゃダメだな。なんか不純な波動を感じた」


「なっ……!」


 俺は思わず声を上げた。

 小日向さんも顔を真っ赤にして俯いている。


「ま、まあまあふたりとも……」


 小日向さんがオロオロと仲裁に入ろうとするが、玲奈の勢いは止まらない。


「だー! とにかく、私はまだここにいるからね! 監視役兼、陽菜ちゃんのお世話係として! それに、むしろいた方がそっちも都合良いんじゃない? 陽菜ちゃんを預けてデートに行けるんだからさ!」


 玲奈は高らかに宣言した。

 まあ、正直なところ、引っ越しの手伝いや陽菜の世話を考えると、いてくれた方が助かるのは事実だ。


「……分かったよ。でもとりあえず、玲奈にも小日向さんの引越し手伝ってもらうからな」


「こんな近距離で引越しするとこ見るの初めてだわ」


「私もです……」


「俺もだけどな」


 隣の部屋への引っ越し。

 距離にして数メートル。

 世界一短い引っ越しだ。


「あ、私とりあえず荷物まとめてきます! 明日にはライフライン止まっちゃうかもしれないし、時間もないので!」


 小日向さんが慌てた様子で立ち上がった。


「俺も行きますよ」


「いえ! し、下着とか……その、見られたくないものもあるので! とりあえず自分の身の回りのものだけまとめてきます!」


「あっ……はい」


 彼女は顔を赤らめて、逃げるように玄関へと走っていった。

 パタン、とドアが閉まる。


 部屋には、俺と玲奈、そして眠っている陽菜だけが残された。


 静寂が戻る。

 玲奈が、ニヤニヤしながら俺の顔を覗き込んできた。


「で? なんて告った?」


「……え?」


「プロポーズみたいなこと言ったんでしょ? 『同棲しよう』って」


「……まあ、なりゆきでな」


「で、好きです、付き合ってください、は?」


「……」


 俺は視線を逸らした。


「……告ったというより、色々すっ飛ばしてしまって……飛び級、的な」


「はあ!?」


 玲奈の声が裏返った。


「ダメでしょ!! そこ一番大事なとこじゃん! 順序!!」


「……だよな。わかってる」


 俺は頭を抱えた。

 あの時は必死だった。

 彼女を繋ぎ止めること、父親から守ること。

 それだけに全神経を注いでいて、「付き合ってください」という基本的なプロセスをすっ飛ばして、「一緒に住もう」と言ってしまった。


「まあ、小日向さんもOKしてくれたんだから、気持ちは通じてるんだろうけどさぁ……」


 玲奈は呆れたように息を吐いた。


「……ちゃんと考えてんだね?」


 妹の声色が、真面目なトーンに変わった。


「なし崩し的に同棲して、なんとなく夫婦みたいになって……じゃなくて。ちゃんと言葉にして、ケジメつける気、あるんだよね?」


 俺は顔を上げた。

 そこには、兄を心配し、同時に小日向さんのことを本気で思いやる妹の顔があった。


「ああ。大丈夫だ」


 俺は力強く答えた。


「今はまだ、彼女も混乱してるし、生活の基盤を整えるのが先だ。……でも、落ち着いたら、ちゃんと伝えるつもりだ」


 言葉にしないと伝わらないことがある。

 それは、ここ最近のすれ違いで嫌というほど学んだ。

 だから、次は絶対に間違えない。


 最高のタイミングで、最高の言葉を贈るんだ。


「……ふーん。まあ、信じてあげる」


 玲奈はニカっと笑った。


「お兄ちゃん、腰やらないようにね」


「誰に言ってるんだ。まだ32だぞ」


「運動不足の32歳でしょ」


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