5 規制音とは
少女は焦点の合わない金瞳で絨毯を見つめる。
シャンデリア、香水、アルコール。目が痛い。息苦しい。めまいがする。
それでも、ここで気張って立つことが私の役割だから。
「ちょっとあなた、聞きまして?エリシア様の噂」
「あら、暴力の事?それとも浮気?本当に…どれだけ問題を起こせば気が済むんでしょうね?」
そんなこと、1つも心当たりがない。
隣に立っている王太子にも、聞こえているはずだけど、彼は何も言わない。
いつも、守ってくれない。
「エリシア、体調が良くないのか?」
「っ殿下」
「うん」
もう、限界。一気に視界が真っ白に染まった。
殿下の馬鹿!私なんて死んだほうがいい。分かってる!私はもう消えるっ!!!
そう、叫ぼうとした瞬間。
「もがっ、#$%&」
殿下の手が、私の口を塞いだ。
「ピ———っ」
ヴァイオリンみたいに澄んだ、麗しい声。そう名高い声は不思議な擬音を紡いだ。
王太子の突然の奇行に、貴族たちは静まり返る。
私は息苦しくなり、なんとか彼の手を剥がした。
「殿下…そ、それは、?」
「規制音だよ。エリシア、ちょっと風に当たろう」
これは助けてくれた、のかな?
◆◆◆
その晩。また現れた白い少女に王太子の奇行を話してみた。
これまであっさりとした返事ばかりだった彼女のことだ。リアクションに期待はしていなかったのだが。
「あはははっ!ふふっ…苦しい…」
窓枠から転げ落ちそうなほど、声にならないほど笑っている。
「ぴぃーって、規制音て、王太子が?ふふっ…」
窓枠に座って爆笑する美少女。こちらも大概の光景だな、と眺めていると急に彼女は真顔になった。
「転生者?」
「てんsいしゃ?」
聞いたことがない言葉。発音が難しい。
白い少女は呆然とする私に手紙を押し付け、窓の外に消えていった。
「変なの」
私は窓を閉め、ベッドに腰掛けて手紙を開封する。
『公爵令嬢は贅沢ばかりしている』
「ふふっ…」
今日は不思議と何も感じなかった。殿下の奇行と、白い少女の珍しい爆笑が頭によぎり、ただただ可笑しかった。
柔らかい布団を抱きしめ、目を閉じる。
規制音ってなんだろう。
ぴー…
ぴー…?
上品に人の言葉を遮るマナーだったりするのかな?
でも私も、周りの貴族も知らなかった。
王家に伝わる、伝説のマナー…?
部屋を通りかかったメイドは、かすかに聞こえる寝息に安堵した。
「お嬢様、今日は眠れたようですね。良かった」
ピーの音は880Hzです。地声で出せるよ、という方はそっと、下の☆☆☆☆☆を埋めてください。報告お待ちしております。




