表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

1 花を揺らす風

ガチャッ

玄関のドアを開けると—


一面。見渡す限りの花畑が広がっている。

さあっと冷たい朝風に揺れる花は、さながら雪のようだった。


「相変わらずファンシーだね」


そして今の自分の外見も大概だと気づいて、すん…となるまでが1セット。

「二度寝でもしたいところだけど」

私はポストに手を突っ込み、1枚の紙切れを掴んで家に戻った。


「今日の名簿はっ、と」


部屋の中を歩きつつ、しわしわになった紙に目を落とす。

『ケーキ屋の新作が美味しい』

『トムさん家に泥棒が入った』


『公爵令嬢は、婚約者がいるのに浮気をしている』


大抵はたわいもない噂話だけど、たまに誰かの人生を揺るがすような『噂』が入っているのだ。


机に座り、木箱から封筒と便箋を3枚ずつ取り出す。


カッ、カッ、カッ———

ふぅ———。


書き終わった。

誰がこの名簿を書いて投函したのか分からないけれど、私はこの3つの『噂』を届けないと死ぬから。

「行きたくないなあ」


◆◆◆


「行きたくない…生きたくも、ない」


真っ赤なドレスに身を包んだ、とある少女はため息を付いた。

高価な物で埋め尽くされた広い部屋で—ひとり座り呆けている。


「お嬢さま、お時間でございます」

「…今行くわ」


真っ赤なドレスは、少女にとって鎧だった。

気が強そうに胸を張って歩くのも、自分にふさわしくない地位に見合うように背伸びしているだけ。


「公爵令嬢のお越しです」


一斉に貴族たちの視線が集まる。


「ごきげんよう」

少女は優雅に口角を上げた。


◆◆◆


私は薄暗い路地を歩いていた。

この辺りに、『トムさん家』があるからだ。

「ここかな?」

それらしい家を見つけた私は。


「はっ!」

手を振って———


跳ぶ。そして、窓枠にしがみつく。

「バルコニー、が、あったら楽なんだけど」


息を整え、コンコンッ

「こんにちは」


「ん…?うわっ!お嬢ちゃん、どうやって、?」


「『噂』と申します。お手紙を届けに参りました」


『トムさん家に泥棒が入った』


「そうなんだよ…盗まれたのは大した物じゃないけど怖くてね」


「お気の毒に。では、さようなら」

「え」


私はそのまま飛び降り、また何事も無かったように歩き出す。

転生前のアラサーは駅の階段で息を切らしていたというのに。少し陽が傾いてきた。


「最後は…これだね」


手元に目を落とすが、ため息しか出ない。しっかりするんだ。ただ名簿を書き写して届けるだけじゃないか。


私は豪邸のバルコニーにたどり着き、窓をノックした。

レースのカーテンが動き、金色の瞳が隙間から覗く。


「こんばんは」

「あなたは…?」


「『噂』と申します。お手紙を届けに参りました」


ゆっくりと窓が開き、差し出した封筒を白い手が受け取った。

沈黙の10秒。


カサリ


パサッ


封筒を開き、取り落としたであろう音がした。


「そんな…違うわ、私は浮気なんて…」


泣きそうな声がしたけれど、私に、彼女を慰める資格なんてない。


「お気の毒に。では、さようなら」


窓の向こう側。立ち尽くした少女とカーテンの影が、風に揺れていた。

今日はどうでしたか?窓に『噂』ちゃんがプルプルと、しがみついていませんでしたか?いたらそっと、下の☆☆☆☆☆を埋めてください。報告お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ