人生こんなもんだよ
どうも、帰上空路です
この物語は映画「JOKER」に影響を受けて執筆しました
あの映画を隅々まで完璧に理解したわけではありませんが、近い物は書けたのかなと思います
(・・・そうでもないかも?)
まぁともかく、それに近い世界観という事を知っておけば問題はないと思います
もちろん映画を知らない人も雰囲気くらいは楽しめるかと
それではご覧ください
あなたが持っている中で一番古い記憶はなんだろうか、私の場合は小学生の時に先生から聞いた話だ
先生の名前はもうとっくに忘れてしまったが、話の内容は今でもはっきり覚えている
???「世の中には二種類の人間がいると先生は思っています、どんな困難があってもそれを真っすぐに受け止め苦労しながら生きていく人と、どんな困難があっても人生こんなもんと受け流す軽い人、この二人を比べてどちらが悪いなんて決めるものではありませんが、先生は困難を・・・」
そこから先は寝てしまったので聞こえなかったが、気付けばこの二種類の人間という言葉は私の人生のモットーになっていった
そして大人になった私は自身を持ってこう言える
「人生なんてこんなもんだよ」
私の中で二番目に古い思い出は小学校四年生の時だった
その日は三限目にプールがあり、その後にある算数の授業なんてまさに寝るためにあるような時間だった、そして案の定私は眠っていたのだが、一つの校内放送で目が覚めた
???「お知らせします、402に問題発生、職員は直ちに向かってください」
一見何を言っているのか分からない放送だが、これはいわゆる隠語であり、402というのは4-2、つまり私がいる教室に何かしらの問題が起きたという事だ
そしてその放送を聞いた担任の先生は寝ている生徒を全員起こし、机を教室にある二つのドアの間に集めさせた
浅賀「いきなりで信じられないでしょうが、今この学校には不審者が入り込んでいます、ですが先生の言葉に従っていれば大丈夫ですので安心してください」
寝起きの私には到底理解できない物だったがこの空気感と先生のピリついた表情が今いる状況を物語る
浅賀「机をこのように配置させたのは意味があります、不審者は一人という情報なので必然的に二つあるドアの片方からくる事になります、生徒の皆さんには不審者が入ってきたドアのもう片方のドアから逃げることが出来るというわけです」
そう言いながら先生はさすまたを構え、生徒を守るという事に一生懸命なその姿に少しだけカッコいいと思った
いつ何が来てもおかしくないこの状況、怖いという感情と共に、今までの学校生活とは違う刺激に少し楽しみを感じている自分もいた
その時だった、黒い帽子、黒いサングラス、黒いマスク、その他にもありとあらゆる物が真っ黒な、いかにも怪しい人間が教室に入ってきた
その男は教室に入るや否や物凄いスピードでこちらに駆け寄ってくる
追ってくる足音、生徒たちの叫び声、雄たけびをあげながらさすまたを手に男を取り押さえようとする先生、色んなことが一気に起こりすぎたせいで私の頭はショック状態になり体が動かない
しかしそんな中でも目の前で一人の生徒が男に手首を掴まれ、男の強靭な力によって身動きがとれない状態になったことには気付いた
その生徒の名前は江本 星奈、名前の通り女生徒であり、認めるのも悔しいが人質として選ぶのにはうってつけだった
男は隠し持っていた包丁で江本の首元に突き付け、一喝した
???「動くなァッ!このガキの首元も掻っ切るぞォッ!」
そんなことを言われてしまっては生徒も先生も動くわけにはいかない、この一瞬だけ時間が止まったようだった
そんな事は知らない他の先生が教室へ一気に流れ込んでくる、だがしかし男と江本の姿を見た瞬間に動きが止まり、不審者がいるのになぜ物音がしなかったのかというのを理解する
だがその足音やたくさんの教職員という光景に紛れ、一つだけ動く影があった
それが私だ
私は10歳という小さな体を活かし、机の影に隠れ、机を移動させる際に落としたであろう筆箱の中から一つのハサミを取り出した
そしてハサミを握りしめながら机の隙間を通り、男の足元に近づいた
???「いいかァッ!?車だッ!車を用意しろッ!あとは・・・金だッ!」
騒ぐ男と恐怖で怯える女子、合計四つの足が小刻みに揺れ、狙いが定めづらい
その時だった、江本が暴れるせいで包丁の刃が首を少しだけ切り付ける
それを見た全員の動きが再び静止する、しかしそれを見ていなかった私だけが即座に動き出し、手に持っていたハサミを男の足に向けて突き立てる
ハサミは異様に鋭くなっているようで、男の靴を抵抗なく突き抜けた、その姿はまるで革ではなく、薄紙でも切っているかのようだった
???「オオオオォーーーッ!」
突き立てた場所からは血が噴き出し、男の断末魔も相まって、どれほどのダメージを与えたかは一目瞭然だった
浅賀「今だァーッ!」
その言葉で状況は一気に動き出した
何とかして逃れようと抵抗する男、必死の形相で捕まえようとする先生、野次を飛ばす男子、悲鳴をあげながら手で顔を覆う女子、阿鼻叫喚という言葉がこれほど似合う場面もそう珍しくない
そこから進展は早かった、男は声にもならない音を口から出しながら警察に連れていかれ、私は生徒を守るという勇気ある行動を評され、特別な賞状を受賞することになった
しかも全校生徒の前で受賞するという事なので、賞状を受け取る直前は緊張感でMAXだった
そして受賞する当日、心臓の音が耳元で聞こえるくらい緊張し、体が思うように動けなかったが、そこへ浅賀先生が明るく手を振りながらこちらへやってきた
浅賀「すごいですよ、最前列に並んでいるのはあの有名な孔官新聞の人たちですよ、いやぁ~まさか古徳君がこんなすごい人だなんて思いもしませんでしたよ」
古徳 常我,これが私の名前だった
常我「まぁ・・・たまたまですよ・・・」
浅賀「そんな謙遜する必要ないんですよ?たまたまでも君は一人の命を守ったんですからね、少しフライングかもしれませんが先に言っておきます、おめでとう!古徳君!」
常我「はい・・・ありがとうございます!」
その時、私の名前が大音量で響き渡り、前に出る合図だという事を知らせた
浅賀「それじゃ・・・行っておいで!」
私が表舞台に現れると割れんばかりの拍手が私を歓迎した
その拍手が作り出す音の波動は私の心臓に心地よい刺激を与え、私は今ここにいるということを実感させてくれた
しかし何か妙だった、足を一歩動かすたびに涙が溢れ出てくる
最初は感動のせいで自分は気づかぬうちに泣いているのかと思った、だがそれと同時に聞こえてくる音がだんだんとくぐもっていく
あの拍手喝采の音も、水の中にでも落ちたかのように遠のいていく
常我「何だ・・・これ・・・は・・・」
周りの様子を見ても自分の異変に気付いていないようだった、賞状を持っている校長先生も笑顔のままこちらを見続けている
やがて涙は大粒になり、頬を伝い、手の甲に落ちていく
その涙が落ちてきた感覚は予想していた感覚とは少し違うものだった
何か・・・涙というよりかは・・・鉛筆のような・・・
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私は目を覚ました
私の手の甲を鉛筆で突っついていた男子が、私の起床に気が付くと大きな声で浅賀先生に言った
???「せんせーい!眠っていた古徳が目を覚ましましたー!」
浅賀「なんですって?そうですねぇ・・・授業を潰すわけにもいかないから・・・そうだ、給食を食べ終わったらすぐに私のいる職員室へ来なさい、いいですね?」
そう言う浅賀先生の顔はいつもより怖く見えた、寝ている生徒が多いとかそんな事できっと虫の居所が悪かったのだろう
そんな状態の先生に言える言葉は「はい」の一択しかない
私がはいと答えると周りの生徒はみんなクスクスと笑い始め、自分がその対象であると理解する
さっきまで私が見ていた物は所詮夢、その夢と現状、そしてこれから怒られるんだろうなぁという事も踏まえて、私は誰にも聞こえないような小さい声でボソッと言った
常我「人生なんてこんなもんだよ」
そう語る私の顔は恐らく死んでいたのかもしれない
黒い制服に袖を通し、腰にベルトを締め、自転車に荷物をのせ、学校へと向かう
私は中学生になった、家から近いという理由だけで選んだ学校だが、それなりに満足していた
少しだけ難しくなった勉強、風を切る自転車、少しだけでも大人に近づいた自分にちょっとだけ自身がついてくる
そんな中私は自転車に乗りながら家に帰っていたところ、とある事に気づいた
カランカランという普通では聞かない音、そしてその音は自分の自転車から鳴っている
チェーンが壊れていたのだ
常我「おっと・・・まだ買ってから半年も経ってないぞ?」
このまま乗るわけにもいかないので、私は仕方なく手押しで帰宅しようとしたその時だった
数メートル先にある住宅街で叫び声が聞こえた、何かと思いその場に自転車を止め、近寄ってみると家の住人と思わしき人が凄まじい勢いで飛び出してきた
???「あぁっ!あぁーーーッ!将極さんッ!」
将極と呼ばれた人の妻らしき人が叫ぶ、見てみると開け放したドアからおよそ常人とは思えないようなおぞましい姿をした男が現れた
将極?「でらぁ・・・っ・・・」
顔の皮膚が剥がれ、目の焦点が合わず、しかしこちらを確実に見ている、これは明らかにゾンビだ
私はそれを見た瞬間、近くに植えてあった花壇を掴み、ゾンビの頭に食らわせた
頭蓋骨が割れたのかそこらじゅうに血をまき散らし、数歩動いた末にゾンビは死んだ
???「うっ・・・将ご・・・あぁ・・・」
常我「あの・・・大丈夫・・・じゃないですよね」
あまりのショックだったのか、その場にひざをついたまま動く気配がない
しかしそんな感傷に浸っている場合ではなかった、また別の家から叫び声があがりはじめた
それを聞いた途端私はこの後起こる最悪の事態を想定し、この女性に話しかけた
常我「お姉さん、この場所はまずいかもしれません、早くここから移動させましょうッ!」
美奈子「う・・・美奈子です、私の名前・・・」
その時横の家の中から大きな爆発音が聞こえ、家そのものが崩壊した、崩れる瓦礫の隙間から見えるのは人の喉元を嚙み千切るゾンビの姿
常我「美奈子さんッ!早くッ!」
そう言い手を伸ばす、その手を美奈子と名乗る女性は掴み、泣きながら走り出す
すると行く手を阻むかのように三体ほどのゾンビが現れ、後ろからも家を爆破したゾンビが忍び寄り、挟まれてしまった
誰がどう見ても絶体絶命の中、私はとある無謀としか言えない賭けに出ることにした
ポケットに入れていたスマホを取り出し、音楽アプリを開いて大音量で流し始める
スマホのスピーカーが壊れるのではと疑いたくなるほど震えだし、それと同時に大音量で聞くマイケル・ジャクソンは最高だった
そこら中に響くbeat itは聞く者に心地よい振動を振動を送る
そんなスマホを右に左に揺らすとゾンビの頭もそれに釣られて首を振る、それを見た私は意を決し、スマホを遠くにある田んぼの方へと思いっきり投げた
移動した音源に反応したゾンビは投げられたスマホの方へと一心不乱に走り始めた
ゾンビが田んぼに入っていく様子を見ながら美奈子は小さな声で聞いてきた
美奈子「あの・・・助けてくれたのは本当にありがたいんですけど・・・スマホ・・・大丈夫なんですか?」
常我「今はそんな事を気にしている場合ではありません、静かに・・・物音を一つも立てずに逃げましょう」
美奈子「はい・・・分かりました」
二人はゆっくりと慎重に歩き始めたが、ここで一つの問題が起こった
私の頭に突然激痛が走ったのだ、頭痛とはまた違う痛み、思わず膝をついて倒れてしまう
幸いにも頭の痛みはすぐに治まったが、胸の奥になんとも言えないどす黒い感情が現れ、目頭が熱くなってくる
美奈子「大丈夫ですかッ!?」
倒れた私を見て美奈子が心配し、肩をゆするが、返事をする気力が沸かない
その時だった、喉の奥から液体のような物が出てくるのを感じた
反射的にその液体を吐き出してしまう、そこには酷く汚れた液体があり、それが泥水であると気づくのに時間はかからなかった
美奈子「ああっ!?・・・え・・・ええッ!?」
目からは涙が流れ、口からは泥水を吐き出し、怒りや嫉妬に近い感情が体中を駆け回る、これほど奇妙な光景というのはきっと見たことがないだろう
涙で視界が覆いつくされ、目の前が何も見えなくなる、そうして視界はやがて真っ暗になっていく
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そうして目を開けると私は田んぼの中に埋まっていた、体中は泥と泥水にまみれ、口の中にも泥水が入っている
何が起こったのか分からないまま茫然としていると、一つ上の先輩たちが肩を軽く叩きバカにするような口調で話しかける
???「ふふっ・・・お前・・・大丈夫か・・・はっはっはっはっは!」
???「おーいーちゃんと前見て歩けよ・・・ふっ・・・だーはっはっは!」
心配しているような素振りで相手をあざ笑う、一番タチの悪いいじめだ
常我「・・・だい・・・じょうぶです・・・」
私がそう言うと先輩たちは満足したような表情で何も言わずに歩き去って行った
口の中にある物をすぐさま吐き出し、汚れ水だらけの体を絞りながら倒れてた自転車を起こす
濡れた体で自転車に乗ろうとするが、どうも乗る気力が沸かない、そうして気付けば私は思わず口からあの言葉を漏らしていた
常我「・・・私の人生なんてこんなもんか」
きっとこの時の私は、極限まで絶望しきった顔をしていただろう
ご覧いただきありがとうございます
多分半分ほど何を言っているのか分からなかったと思いますが安心してください、これを書いている自分も理解しきれていないんですから
これから完結編を書き始めますがこれを上手く綺麗に終われるのか・・・