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赤目守りside1(前タイトル;『狂気の羽 と 炎の羽』)

  

 赤目守り――赤い目をした森の妖怪。おかっぱ頭で、ニコニコ顔。

      目は、くりくりと愛らしい。しかし、お歯黒だ。

      もしも森で出会ったら、頭を下げて申し上げなさい。


      「あなた様のおかげで森は安泰です。どうぞお納め下さい」


     とびきり美味しい牡丹餅を献上しなさい。

     そうしなければ……赤目守りは、どこまでも、どこまでも追って来る。

     その速いこと速いこと。

     あっという間に捕まって、一生森から出られない――― 


  全てが狂ったその晩は、母親の命日だったと、一羽かずはが顔を暗くして、赤目守りに語った。

  その時はまだ、赤目守りは、十羽とわ九羽くわとも出会っていなかった。

 

 「……おかま双子と揶揄されていたのよ」


 一羽が、言いにくそうに口火を切ると、赤目守りは、あっけらかんと答えた。


 「うん、知ってる。おばば様が知ってる事は、何でも知ってる。それで、六羽むつば五羽いつばが、どうかした?」

 

 二人が、巨大なクスノキの根に腰掛けて、なにやら熱心に話し込んでいた時、お盆の森は秋だった。

 昨日は、夏だった。天候も季節も、全てが気紛れの森なのだ。


 「六羽がね、二羽ふたばを襲ったのよ」


 そう言うと、先よりずっと暗い青ざめた顔で話し始めた。



☆ ☆ ☆



  季節は六月、大雨の夕方だった。

 チャイムの音が聞こえた気がして、一羽はキッチンから飛び出した。

 その日は休日で、新しく雇った使用妖怪しようようかいたちは、執事から下働きまで誰もいなかったからだ。


 「もうっ!夕飯の支度で忙しい時間に、一体誰!?」 


 急いで玄関の戸を開けて、一羽は吃驚きっきょうした。


「傘はどうしたの!?ずぶ濡れじゃない!何があったの、七羽なな!」


言い掛けて止めたのは、弟の腕の中で、のそりと何かが動いたからだ。


「人間の男の子じゃない!!!」


 えん宮家みやけの長女の大絶叫に、いちはやく反応したのは、三羽みつば四羽よつばだ。

 双子は、興味津々で部屋から飛び出て来た。


「なになに、人間?」


三羽が、うきうきした調子で問うと、四羽が眉をひそめた。


「下界で拾って来たのか?」


「なあに~?騒々しい~」 


 双子に続いて、間延びした声を出しながら、次女の二羽ふたばが、階段をゆっくり降りてきた。


「お夕飯、もう出来た~?」

 

「あ、二姉ふたねえ、七羽が、人間、連れて来たよ」


三羽が呑気に答えると、四羽は肩をすくめて言った。


「男の子らしい」


「え~、道端に落っこちてたの~?」


「三羽!笑うのは止めなさい!」


 一羽は、面白がる弟を叱り飛ばして、七羽に向き直った。


「話は後で聞きます!とにもかくにも、バスルームに運びなさい」  


 七羽は、男の子を抱きかかえたまま、水滴をボタボタ廊下に落としながら直行した。


「はあ……頭が痛いわ……」


溜息をつく一羽の後ろで、双子が、ひそひそ喋った。


「ねえ、四羽、いいのかな。男の子なのに」


「??何がだよ」


「最近、下界に多いよね、チャイルドハンター。男の子も狙うらしいよ」


「あんなのと一緒にしてやるな。気がしれない連中だ。頭が沸いてる」 


「抵抗できない子供を慰みにするんだって!ちょうど、バスルームだよ。大丈夫かな?」


「だ・か・ら!あんな捕食者どもと一緒にしてやるな!狂った奴らだ。味噌と糞の分別もつかなくらいクソなんだよ!」


弟たちの遣やり取りを聞くうちに、一羽は心配になった。


(七羽に限って、それはないわ。ええ、ないわ、きっと、絶対……)


一羽は、血相を変えてバスルームまで飛んで行った。


「あーあ、お姉さまったら、休日も苦労が絶えないわね~お腹すいた~」 


 二羽は、ふわああと欠伸をしてキッチンへ向かった。

 夕飯の支度は、これからで、まだ何も用意されていなかった。


「何の騒ぎ?二羽ふたばちゃん」


 六羽むつばが、顔だけ姉に向けた。

 四男坊は、朝からずっとシンクの汚れと戦っている。

 騒ぎをスルーしたのも、その為だ。


「あー、なんか、七羽がね、捨て子を持ち帰ったの~って、うん?それ何?また実験してたの?」


二羽が、呆れ顔で、パウンドケーキを一切れ手に持った。


炎の宮家のオープンキッチン、その真ん中に大理石で作られた長い台がある。

その上には、必ず《開発スイーツ》が並んでいた。


 ☆ ☆ ☆


そこまで話して、一羽が一息つくと、赤目守りが苦い顔をして言った。


「おばば様から、《開発スイーツ》の存在は聞かされていたけど、六羽が携わっているなんて、知らなかった。でも、今思い出した。おばば様が、だいぶ前に教えてくれた事だけどね、六羽は、爽やかな見た目と違って腹に一物あるから気を付けた方がいいって、そう言ってた」


「そう、おばば様が、そんな事を……」


 一羽の美しい顔が、悲しそうに歪んだ。


「私は、実の姉だっていうのに、ちっとも気付かなかった。六羽は、携わっているどころか、発明者と言ってもいいくらいよ……」


 沈黙した一羽が、再び話し始めるまでに、昼は朝に変わって、一羽を慰めるかのように、心地よい春風が吹いた。


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