素直でいい子
ふつうにさみしいのでブックマークとか感想とかもらえると嬉しいです。つらみ
水浴びから戻り、トカゲを骨ごと噛み砕いた後に、すぐに仕事に取り掛かった。
なにせ助けは期待できない。
むしろどちらかの救助がくれば、どちらかが良くて奴隷か、殺されるか。
期待しないほうがマシだった。
仕事の内容は至極単純で、シロロンが竹を切っては運び、ユミフネは無心になって土を掘り続けた。
地面の四方を深く掘り進め、川側にまで大きな排水溝を掘っていく。
労力、消費エネルギーは多大だが、これを怠ればいずれベースキャンプは水浸しになる。そうなると火はつけられないし、寒いし、不衛生だし、いいことはない。
「ほう、随分と掘るのが早いのだね。【鉄竜】に乗る前は歩兵として塹壕でも掘っていたのかね?」
「竹で簡易的なスコップを作ったんだ。……というか、塹壕を作るのはそっちだろ?」
アマツ皇国の歩兵は銃を使うから帝国側は塹壕を作るが、帝国の騎士共は皆して魔法ばかり使うから塹壕は意味を成さない。
「なんだ? 役割を逆にしたかったか? 確かに犬は穴掘りが好きそうだな。帝国の犬ともなればなおさらだ」
「ううううう……ガルルルルル……!! 褒めてやっただけなのに!」
生憎、【鉄竜】に乗る前は歩兵として塹壕でも掘っていたのかね。を誉め言葉として受け取る者はいないだろう。
ともあれ、彼女も自分の仕事をこなしてくれた。
大量の竹がどさりと置かれる。ともすればあとは地道な作業だ。
竹枝を切り取り、竹そのものを使う長さに寸断し、棒木を組んでいく。
「……ワタシにできることは他にあるかね?」
作業をしていると、手持無沙汰になったシロロンが顔を覗き込んでくる。
随分と重労働だったはずだが、むしろ休憩をしている自分に罪悪感さえ抱いているようだった。
怪訝そうにユミフネの顔を覗き込んで、ぶんぶんと尾を揺らしていく。
「……休んだらどうだ?」
「ワタシは生憎エリートでね。これぐらいならなんともないが?」
鬱陶しさもあって適当な言葉をかけたが、逆効果だった。
シロロンはふんと鼻息を鳴らして、誇らしげに胸を自慢してくる。
「胸は自慢してない! 勲章だ! 勲章! 蒼鷲勲章が目に入らぬかね!」
「生憎その勲章を今の生活で有効活用する方法はまだ浮かんでいないもんでな」
シロロンは何かを言い返そうとしたが、語彙が尽きて口をパクパクさせるだけだった。だが別に仕事が無くなったわけではない。
「……ならお前にしか頼めないことがある」
「ほう? なにかね? ワタシにしかできないことはきっと山ほどあるだろうね」
体よく働かせるための適当な言葉だったが、シロロンは単純だった。パタパタと素直に尻尾を振るものだから、少しばかり罪悪感が胸を苛んでくる。
「まだこの周囲で何がないかがわからない。だから目についたものとか、使えそうだと、雌犬の勘に触れたものをかたっぱしから持って帰るか報告してほしい。そういうガラクタ集めとか、動物の痕跡探しとかは得意そうだろ。蟲の抜け殻とか集めてそうだし」
「集めていたのは子供のときだけだ! ……まぁわかった。ひ弱なユミフネには難しいだろう。少し見てくる」
シロロンが河川沿いに、密林の奥へと入っていく。彼女の身体能力なら大きな問題は起こらないとは思うが。
「…………心配だな」
何故だか少し後悔した。
なぜ? 人手が足りなくなれば困るからだ。
理然として、乱れた思考を整えていく。
……するべきことはしなくてはならない。
ユミフネはぶんぶんと首を横に振ってから、作業を再開した。
完成した骨組みに竹を並べ、板代わりに固定していく。
見た目だけならそれらしく仕上がった。
周囲が鬱蒼としていなければ茶屋の縁台のようにも見えなくはない。
「……試験役を残すべきだったか?」
ぼやきながら慎重に体重を預ける。
――ぎし。
嫌な音がして、次の瞬間には骨組みが崩壊する形で、背中から地面へ叩きつけられた。
「別に俺は建築家じゃないし」
独り言の言い訳をして呆然と天を見上げる。
日はまだ真上にあり、時間は多くあった。
……なんとか夕暮れ前には寝転がっても壊れない高床式の寝床が完成した。
結局、三回も骨組みから崩壊してしまったが。
幸いシロロンにみられることはなく、彼女が戻ってくるころには、雨避けの屋根まで完成できた。
そして今後も崩壊した際に、下に虫やらがいては困るので灰を撒き、周囲を煙で燻しもした。
二人分を別々に造る余裕はなく、同じ寝台を使う必要はあるが。
……文句を言われたら犬小屋でもつくればいい。黙るはずだ。
「わふっ……!! まぁまぁ……!! 期待していた以上ではないか。体を伸ばして寝てるし屋根もあるし!」
「…………お前は口は悪いが、素直でいい子だな」
あまりにも嫌味で捻くれた想像をしていた自分に、ユミフネは自嘲した。
「それは褒めているのかね?」
「ああ褒めてる褒めてる。それでそっちはなんかあったか?」
「じゃーん!」
シロロンは抱えていたものを広げ、ベルトポーチに詰め込んでいたものをその場でぶちまけた。




