水浴び(挿絵有)
――――遭難三日目。
魔界制限自治領
マジェラ樹海南部。アパポリス川上流支流。時刻は朝。天気は快晴。
大量の食糧を放棄しても河川の捜索を優先したのは正解だった。
でなきゃ脱水症状で倒れているだろう。それほどまでに高温多湿の環境は暴力的だ。
それでも河川に近いおかげで風通りが良くマシではあった。
この辺りの環境は墜落地点とは大きく異なっている。
対岸は鬱蒼とした木々が水中にまで深く根を張っていて、魚や甲殻類の隠れ家になっているだろう。
水面から鋭いヤシの葉を伸ばしているものもある。アマツ皇国では見たことのない種類だった。
対して拠点側は鋼樹が深く根を広げ地面を固め、隙間を埋め尽くすように竹が生え揃っていた。
特に竹は革新的だ。何にでも使えるだろう。
容器、罠、武器、寝床……。今日は竹を伐採し続けることになるかもしれない。
「…………シロロンはどこに行ったんだ?」
珍しく彼女のほうが早く目を覚ましたらしい。周囲を見渡しても見当たらなかった。
だが彼女もバカではない……はずだ。無茶なことはしていないだろう。
ユミフネは作業の前に体を洗い流すことにした。最後に湯浴みをしたのは【鉄竜】に乗る前日だ。
実に四日ぶり。日夜泥と汗と血に濡れた体はハッキリ言って不快だった。
幸運なことに支流の流れは穏やかだ。
川は幾つにも枝分かれしているようだったが、茂みの向こうから覗く水場は、少なくとも拠点周りは透き通っているようだった。
「はぁ……。まだクソ痛えな」
服を脱いで、腹部の傷口を押さえる。膿んでいないことが奇跡だった。
そうやって俯きながら水場に向かっていくと、チャポンと、水の流れに反した音が響いて、ユミフネは顔をあげた。
――――シロロンが素っ裸で水浴びをしていた。
目と目が合う。言葉が出るよりも先に耳が倒れた。
「っ――――………………」
「あーーー…………いや、悪い。俺が不用心だった」
硬直したまま口だけが謝罪をぼやく。
目は素直に、シロロンをずっと捉え続けていた。
服越しでも理解できた大きな双丘が揺れる。
視線を下に向けると、昨夜手の触れた臀部から、尻尾が映り込んでくる。
泥に汚れて虫の住処になりかけていた薄汚い尾は、水を吸って細まりながらも、純白の毛並みを取り戻していた。
良くみると水面でダニが溺れていた。
虫にまで視線が向かうと、シロロンは我に返って、牙をあらわにした。
「い、いつまで見ているのかね……? 人の体にくっついていた虫にまで欲情して……はっ、ワタシがいくら美し可愛綺麗とがいえ、ガン見は……紳士的ではないと思うがね」
わなわなと腕が震える。恥ずかしさで顔が真っ赤になっていくのがわかる。
――異性に見られた。それも敵に! 一つ口をひらけば嫌味ばかりのやつに! いや?
だが雨曝しの際に一度裸は……いやいや、これは緊急時ではない……!
ぐるぐると思考が巡って、開いた口はぱかーとしていった。尾が激しく水飛沫を飛ばしていく。
それでもシロロンにとっては、女々しく悲鳴をあげたりだとか、動揺して体を隠すのはなんだか負けた気分になる行為だったから。
「別に、ワタシは平気だがね? そちらの倫理を問うているのだが?」
って感じで振る舞って誤魔化すことにした。
「ああ……? そっちが平気なら別に俺は気にしないが」
ユミフネは僅かに首を傾げすっとぼけると、すぐ横で自分も体を洗い流し始めた。
「えぇ……? ええ? 君はもしかしてとてつもなく鈍感なおとぼけ野郎なのかね?」
「嗚呼、そうだ」
「ガルルル……! すっとぼけるな! 本当にそうなら、嗚呼、そうだ! なんて返事はしないだろう……!」
現状に余裕があるわけではなかったが、それはそれとしてユミフネは見れるものはしっかりと目に刻んだ。
「それより今日は竹を可能な限り沢山集めておいてほしい。ずっとハンモックじゃ体が曲がるから、高床の寝床を作る。屋根付きでな」
そのくせして、まるで興味がないかのように振る舞って、全く関係のない話題を振ってみせる。
生きるか死ぬかの話なら最低限の譲歩はするが、別に紳士ではなかった。
「……その間ユミフネは何をするのかね?」
「溝を掘る。初日みたいな雨が降ったら水浸しになるからな。そろそろ朝食に戻ろうか」
「昨日の肉は食べきってなかったかね?」
「いや、通りがかりに蜥蜴からいたから数匹頭を潰しておいてあるのと、今、足の指で一匹、ドジョウらしきものを掴んでいる」
「君は実はここで暮らしていた経験でもあったりするのかね……?」
シロロンは引き気味に顔を引き攣らせた。
全体イラストが視たい?
まぁ健全な範囲でだが……なぜだか皆ピクシヴに向かっていくね




