死ぬはずがない
二章:ベースキャンプ
『嗚呼、ヨミには言っただろ。大した夢じゃない。とっとと前線から退く! 溜めた金でハヤアキツの森の奥にでも引っ越して農場を作る。そこで鬱陶しい人間関係もおさらばだ。晴耕雨読ののんびり生活。……ふっいいだろ』
『待て。俺は今のヨミの言葉を聞き逃したくはない。音量あげるから待て……。よし、いいぞ。ハッキリ言ってくれ。頼む』
『その、農場…………!! 一人だけだと手が足りなくて……大変だと思うんすよねぇ……? だから、よかったら……私は、その、着いてってもいいっすけどね。…………可愛いお嫁さんが欲しいともぼやいてたじゃないすか』
ヨミは無線記録を何度も繰り返し再生した。
意味はない。
ただそうしなければ叫んだり、壁を蹴ったり、部下に悪態をついてしまいそうだった。
「軍曹 サカノユミフネ、作戦行動中行方不明。推定死亡」
まだ三日目だというのに、そんな一枚の書類が届けられて、署名するように命じられている。
それは同時、ユミフネの救助要請が却下されたことも意味していた。
あたりまえだ。戦争をしているんだ。
軍曹が一人墜落し、即死していないから皆で助けに行こうなんてことはありえない。
……わかっているが。
「ユミフネが死ぬわけないっす……」
ヨミは確信をもった様子でぼやいた。
魔王戦争の際も窮地に陥ったことはあった。
前線を押し進めるための拠点が強襲されて、ユミフネと二人だけで、真っ暗な川に飛び込んで、一カ月以上もの間遭難していたことがあった。
魔法の雷撃で腹部に酷い裂傷があったのに、木を倒して家を作って、モンスターを狩猟して血肉を喰って、しぶとく生き延びてみせたんだ。
思い出すと尾が自然と揺れる。
川から這い上がり、体を温めるために触れあった肌の熱を思い出すと、今も熱く火照ってしまいそうなくらいだ。
金の双眸がじっと、壁に貼られた地図を睨む。
何度も、何度も、【鉄竜】の移動経路を、そして墜落地点を指で撫でた。
もし生きて地上に辿り着けたなら、ユミフネはアパポリス川を目指すだろうか。
大陸は鬱蒼とした密林ばかりだが、下流域には前線拠点の跡地が残っている。
【鉄竜】が着陸できる程度のスペースもあるだろう。
けれど魔界は危険な場所だ。
……いや、手つかずの自然そのものが危険な場所だ。
アマツ皇国の歩兵装備や、帝国の魔法があればモンスターにも対抗できるが。
【鉄竜】を操縦する際は軽量化のために、装備は最低限に限られている。
以前に遭難したときとは話が違う。
それに生きていても大きく負傷していたら?
容赦のない高温高湿度はすぐに体力を奪い、蟲は容赦なく血肉を啜り続けるだろう。
「……絶対、助けるっす」
ヨミは決心するように、窓の外の【鉄竜】をじっと見据えた。
「地獄までお供すると、……約束したんすから」
思い出すように頬を赤らめた。




