七人目 〜花乃目 桜①〜
第一章 崩れる日常
私の名前は花乃目 桜
両親が出て行って今は一人暮らしをしている
ごく普通の高校生である
昔は両親とも仲良く暮らしていたのだが、しっかり者の私はあまり愛情を注がれなかった
それがとても悲しくて心を病んだ時だった時に
「接し方が分からないの…」
そう言い残し両親は家を出て行った
生活費は払ってくれるが一切の接触をしてこない
それが改めて両親から直接、愛情がないと叩きつけられた最終通告に感じた
そんな事があったから、私は何かを埋めるように、なるべく周りの人と沢山関わる様になって行った
ある日、高校で一人のクラスメイトと出会った
彼女の名前は神谷 光
世界人口九割超えの信者数を誇る信仰団体
【幸福信仰団体〝HFG機関〟】のトップ
宗教信仰団体総団体団隊長の神谷 御業を父に持つ、住む世界が違う高校生である
そんな桜と出会った私は、最初周りの人間関係を見て生きづらそうに感じていた
私にとってはそんな事はどうでも良かったから、女同士の派閥などには興味が無く普通に過ごしていた
そうしてるうちに周りからは良く可愛がられている
そんな私の性格なのか雰囲気なのか分からないが、光とは自然と〝親友〟になって行った
そんな光が初めて私の名前を呼んでくれたのは、親について話す機会の時だった
「私の親って、HFG機関トップな訳で、みんな権力狙いで近づいてくるのよね
そのせいで父の拘束もひどいって!
はぁ、本当にあり得ないよね」
と私に光が愚痴を溢した
私はそんな光の言葉に〝桜は愛されて育ったんだな〟と感じた
だからだろうか、つい口から言葉が出てきていた
「ふふ、羨ましいね
…私の親はね、私に〝接し方が分からないの〟と怯えた目で言ってから距離を置く様になっちゃって、私を置いて出ていっちゃったの
ただ生活費だけ振り込んでくれるけど、全く関わりを持とうとはしないのよね…」
それを聞いた光が
「桜!私これからはあなたの味方よ!
ずっと一緒、親友だから私たち!」
と初めて私の名前を呼んだ
それが私には〝認められた〟様で嬉しかったのを覚えている
そんなある日、まるで私の周りを常に見ている様な、得体の知れない視線を感じた
それは私を通して何かを見ている様な視線で、私自身を見てない様な視線だったから、得体の知れないその視線に恐怖を感じていた
だから私は思い切って、いつも一緒にいた光に
「実は、話したい事があるの、、、」
そう言って相談を持ちかけた
滅多に相談しない私からの頼みとあり、光は親友のよしみでそれに乗ってくれた
私は〝ありがとう〟とお礼を言いながら
「実はここ最近ずっと視線を感じるの
まるで私の周りを常に見ている様な、得体の知れない視線を、、、」
と話し始めるとすぐに光は
「もしかして、いや、もしかしなくても
それって、ストーカーじゃない!」
と言い放つ、それを聞いた私は〝ストーカー…なるほど確かそうかもしれない…〟と感じながら
「やっぱりそうかな?」
と不安そうに聞き返した
それに〝絶対そうだって!〟と言わんばかりに光は肯定する
そう聞いて私は
「ならやっぱり…
警察に相談したほうがいいよね、、、」
と言う結論に至り、二人で一緒に警察署に行く事となった
警察署へ着くと私と光は担当の人に、ストーカー被害に遭っている可能性がある事を伝える
それに対して担当してくれた警察官は、とても親身に対応してくれた
しかし結局これと言った形跡が全く出る事がなく、調査は打ち止めになってしまった…
そんな状況が続いた私は、精神的に病んで少しづつ衰退していった
そんなある日、両親が家に帰って来た
理由を聞くと光が説得してくれたらしい
光がそんな事をするのは、自分がいない時間も誰かと一緒に居られる様にしたかったのか、または家族との間を取り持ってくれたのか、もしかしたらどちらもかも知れない…
そんな光の優しさを感じながら私は両親と一緒に住む事となった
住む事になって最初はぎこちない日が続いた
これまで一人暮らしだったこともあったから当たり前だが、そんな時に父が優しくフォローしてくれて少しづつ家族の形を取り戻してきた気がする
ストーカーの件はまだ怖いけど、両親の光や両親の支えもあり、お陰で少し楽になった気分である
その影響もあって私でも気づかなかったが、自然と笑顔も増えていたのだった
そんなある日、父が〝憩いのカフェ〟を開いた
父がコーヒーを専門に扱う職に就いていた事もあり、周囲の評判も良く大繁盛している
最初は距離を置いていたが、両親の楽しそうな姿を見て少しずつ手伝う様になっていった
そのうち、父にコーヒーの淹れ方を教わった
一部の常連さんは父より私の淹れたコーヒーやカフェ・ラテが好みの様で、それ目当てでよく飲みに来てくれる様になったくらいだ
そんな毎日を送る中で、ストーカー被害の事などはすっかり忘れて楽しい毎日を過ごしていた
そんなある日、常連の若い夫婦が友達のシングルマザーの人を連れて来られた
しばらくしてその人も常連となり、時より息子の紫耀くんを連れて来店する様になった
そんな紫耀くんが来店したある日の事、いつもの様にカフェオレを注文した後で
「ねぇ、お姉さんを通して見てる君は誰?」
と私を透過して誰か別の人に疑問を投げかける様に問いかけてきた
私はその言葉を聞いた瞬間に、あの得体の知れない視線の事を思い出す
すぐに気分が悪くなるのを感じながら
「紫耀くんごめんね
ちょっと何言ってるかわからないかな?
注文したカフェオレ持ってくるね…」
そう告げるとカウンターの父にオーダーを通して、ニ階の寝室へと戻った
部屋に戻ると、どんどんと強くなる視線に寒気と嫌悪を感じて、布団にうずくまる形でその日は床に着くのだった