四人目 〜紫輝 実来〜
第一章 崩れる日常
私の名前は紫輝 実来
ごく普通の家庭で育った一般人である
今は夫の紫輝 朽実と暮らしている
自分で言うのもなんだが、本当に何か特別な事もなく生きてきた
沢山の事を夢見たりしたけど、何も無い事はそれはそれで幸せな事だと今では思う
いろんな葛藤もあって親とはすれ違いもあった
それでも今は親の有り難みをすごく感じている
夫の紫輝 朽実とは初恋で、そのまま結婚した
二人とも早くに結婚した事もあり、なかなか大変な事も多い毎日を送っている
ある日近くに住む花乃芽さんが〝憩いのカフェ〟を開いた
とてもおいしいコーヒーを入れると、周りからの評判で繁盛している店である
私も気になって朽実さんと一緒に訪れた
初めて入った時は、入り口から木の香りの心地の良い雰囲気が漂う、とても良いお店に思えた
カウンターで働くのは花乃芽夫婦、たまに娘さんである桜ちゃんと言う子もお手伝いをしている
私と朽実さんは、とても居心地の良いその雰囲気をすぐ気に入りよく来るようになった
中でも私たちは花乃芽さんが入れてくれるカフェ・ラテが気に入っていた
そんなある日、常連客となってきた私たちに花乃芽 堅太さんが、桜ちゃんの事について話をしてきた
常連客にはいつもしているそうだ
なんでもストーカー被害にあっているのだが、全く証拠がなく捜査打ち切りで落ち込んでいたらしい
そこで〝娘である桜の事を気にかけてやってください〟と頭を下げられたのだ
私はその話を聞いて少し困った
この〝憩いのカフェ〟にはあくまで客で来ている私たちが、そんな事情を聞いてどうしろというの?
そんな困った私に
「実来、見守ってあげようじゃないか
良い店だし桜ちゃんも良い子なんだし」
と朽実さんが言ってきた
頷きはしたが、それでも何か違和感が残る形で私も同意した
それからも〝憩いのカフェ〟には良く足を運んでいる
そんなある日、私がまだ気持ちの整理が付いていなかった時に、お手伝いをしていた桜ちゃんがカフェ・ラテを持ってきてくれた
それを飲んだ私はいつもと味が違って感じた
もちろん悪い意味ではなく、とてもおいしいと感じたのだ
だからつい口から
「今日のカフェ・ラテ、凄くおいしい」
と溢すとそれに呼応する様に
「そうだね、僕もこのカフェ・ラテの味は好きだな」
と朽実さんが答えた
するとカウンター前にいた桜ちゃんが
「じ、実はこのカフェ・ラテ、私が淹れたんです」
と照れくさそうにお盆で顔を隠しながら言ってきた
私はそれに対して
「そうだったの?」
とビックリしながらも聞き返すように答える
それに笑顔で一つ頷く桜ちゃんを見て〝助けてあげたい〟気持ちが溢れてようやく整理がついた
それからと言うもの〝憩いのカフェ〟で私たちは桜ちゃんの入れた、カフェ・ラテをもらって飲むようになった
そんなある日、近くに住むシングルマザーの、花苑 火芽さんを誘って〝憩いのカフェ〟を訪れた
火芽さんもシングルマザーという事で疲れていたのか、その雰囲気を凄く気に入ってくれたみたいだった
それからも何度か一緒に訪れることもあった
しかし時間が合わなくなっていき、しばらくして一緒に行く機会は減っていった
そんな中、一度だけ息子の紫耀くんにあった事がある
その時はたまたま〝憩いのカフェ〟で一緒になったのだが、その時は何故か一緒に座らず別々で座っていた
その時ちょうど〝堅太さん〟が〝紫耀くん〟と話し込んでいた
その日から少ししたある日
いつものようにお店に寄った
もちろんお目当ては桜ちゃんお手製のカフェ・ラテである
しかしその日は何故か開店時間帯になっても開いていなかった
仕方なく時間をずらして来てみたが、それでも〝憩いのカフェ〟は閉まっていた
それを見て
「今日はやってないのかしら?
どうしましょう、、、帰る?」
と朽実さんに問いかけた時だった
〝ガチャガチャ〟と音を立てて鍵を開け、〝憩いのカフェ〟から桜ちゃんが出てきた
話を聞くと花乃芽夫婦はちょうど買い物にいってるらしい、だから私たちは
「じゃあ、出直しますよ」
と告げて去ろうとしたが
「少し待ってください、もしよろしければ中でカフェ・ラテ飲んで行かれませんか?」
と桜ちゃんに言われる
私たちはそのお言葉に甘えさせて貰い、桜ちゃんからいつものおいしいカフェ・ラテをもらった
その時だった〝ふと〟眠気に襲われて机に突っ伏すように倒れ込む
その横でも朽実さんが突っ伏していた
「いっ、、たい、なにが、、、、ねむ、い」
そう呟きながらウトウトしていた時だった
背中にとても冷たい何かを感じる
それと同時に暖かい何かが背中から全体に広がった
私はそのまま暖かい何かと共に、その眠気に飲まれるよう意識を無くした