三人目 〜花乃芽 堅太〜
第一章 崩れる日常
私の名前は花乃芽 堅太
世界人口九割超えの信者数を誇る信仰団体
【幸福信仰団体〝HFG機関〟】の百を超える組織団体の団隊長である
そして女子高生、花乃芽 桜の父でもある
昔から何かすれば簡単に結果を出せてしまう性格で、気がつけば〝HFG機関〟の団隊長としての地位についていた
そんな仕事をする中で、初めて妻の花乃目 陽子と出会った
陽子と初めてあった時は衝撃を受けた…一目惚れである
結果、私は陽子と結婚し二人の子宝に恵まれ、とても幸せな家庭を築いていった
しかしある事件が起きた事で、桜との関係に亀裂が生じ妻と家を出る事になる
また団隊長の立場からもその時に、十億とも言える莫大な賠償金を払い去った
今でもその原因となった事件を私は覚えている
実は私たちの間には桜と一緒に、産まれてきた双子の兄がいた
兄の名前は日向
日向の方はおっちょこちょいで、桜の方はしっかりものの印象の子だったと記憶してる
だから私と妻の陽子は日向ばかりに目が行き、桜の事を見てやれなかった…
あの事件はそれが原因で起きたのだ
桜は日向ばかりに構う私たちのせいで、愛情を奪われたと勘違いした
それが桜を暴走させて、私の知らない所で団体組織を利用し、暗殺者を雇っていたのだ
それを知らずにいた私が、それに気づいたのは桜と散歩に行った際だった
何気ない散歩の一時に桜が
「実は今日、日向お兄ちゃんを殺してって
お父さんの知り合いの暗殺者さんに言ったの」
と笑顔で答えたのだ
まだ幼いその子の口からそれを聞いた時、私はこの子の中に悪魔を見た
…そして事件は起きた
妻の陽子と日向がいた家に暗殺者は侵入し、陽子の目の前でぐちゃぐちゃになるまで、日向は殺された後に潰された
後で知ったが日向をぐちゃぐちゃに潰すよう命じたのも、私の娘である桜だったらしい
そんな事があり、精神を病んだ妻を治すため沢山の精神科医を当たって記憶を封印した
私との間には子は一人、桜しかいない事にして…
桜にも同じように精神科医を利用し、そう思わせると共に問題をなかった事にした
その後私は、記憶が蘇らないように団隊長の隊を捨て【幸福信仰団体〝HFG機関〟】から脱退した
それでも、記憶を無くしただけでは、心の奥底にある桜に対する恐怖は消えなかったらしい
妻は記憶が無くても〝どう接するのか分からない〟と言い出して結局、私たちは桜と別居する事となった
それから少しして、桜の友人を名乗る人物が頻繁に家に訪ねてきた
最初は話を聞く気もなかったが、あの桜の為にここまで思ってくれる人がいて少し気になった
だから妻の陽子を説得して話を聞いて、昔いた桜の面影を感じさせない子に育ったみたいで驚いていた
その後に聞いたストーカー被害も含め、私たちは結局何も桜と向き合ってないことを悟ってしまった
それから陽子と少し話をして、桜と一緒に住む事となる
桜との生活はぎこちない感じがあったが少しずつ馴染んできた
あの事件の事はすっかり忘れているようで、陽子も思い出した形跡はない
本当に見違えるほど成長したと思える
そんな桜はやはり、ストーカー被害で怯えてる様子が伺える
私は昔、信仰団体団隊長のツテで知り合ったカウセリング専門の人に習った方法で、桜の気をストーカーの事から逸らすよう仕向けた
その効果もあってか桜にも笑顔が多くなった
それから少しして桜が人と接し、心が癒される空間〝憩いのカフェ〟を開いた
思いのほかに繁盛し、桜も手伝ってくれる
常連客の人には桜のストーカー被害の事を伝えて、接し方など気を配ってくれると助かるとお願いした
どの客もすごく心優しく、桜の事を心配し協力してくれた
その事もあり、桜も私と一緒にコーヒーを入れる練習をしたり過ごしている
常連客の若い夫婦は私より桜の入れるコーヒーを気に入ったらしく
よく桜のコーヒー目当てで来る事もあった
そのおかげもありすごく仲が良い雰囲気が見える
店の名である〝憩いのカフェ〟らしい場所になった
そんなある日、シングルマザーの人が常連客の若い夫婦と一緒に店にきた
事情を知ってか知らずか、桜の様子を見て少し心配そうな様子を浮かべる
たしかに明るくなってきた桜だが、時折視線を感じるのかビクつく時がある
そんな様子がシングルマザーの人にも伝わったのかもしれない
それから何度か訪れたシングルマザーの人は、息子さんを連れて〝憩いのカフェ〟に訪れた
息子さんはまだ幼いなりにもしっかりとした考えや、大人に引けを取らない態度が目立つ子供だった
ある日、桜が店の手伝いで注文を受けていた際のことだ
そこにシングルマザーの息子さんが来店された
桜はいつものように彼の注文を受けに行く
そこで息子さんと少し話している様子だが、急に桜の様子がおかしくなった
カウンターに戻って来ると
「あのテーブルのお客さん、いつものカフェオレ一つだって」
とだけ言い残し二階の寝室へ戻っていった
私は気になり、そのシングルマザーの息子の所にカフェオレを持っていき話をした
「何か話してたみたいだけど、娘と何話してたの僕?」
と言うとシングルマザーの息子は一言
「お姉さんを通して見てる人が誰か聞いただけ」
と訳の分からない事を言う
しかしこの事はもしかしたら桜の言ってたストーカーの事かも知れない
〝もしかしたら、まだ桜をストーカーしてる犯人がいるのでは?〟
私はそう感じたが、陽子に余計な心配をかけたくなかった私は、そのまますぐにカウンターに戻りいつも通り仕事をした
その後、私は昔のツテを当たり頭を下げて再び桜の周辺を調査するが、やはり警察同様証拠もなく犯人は見つからなかった
その裏では、また桜の暗い表情が目立つようになってきた
多分、シングルマザーの息子に言われた事が、ストーカー被害をまた意識させているのだろう
もう一度、カウンセリング専門の人に聞いた方法を試したが、二度目以降は効き目が薄いらしい
心配して親友の光ちゃんも、何度も様子を見に来てくれたが、桜は日に日にやつれていった
ある日、いつもの様に桜の様子を見に、光ちゃんが〝憩いのカフェ〟に来た
快く迎える陽子を横に私は無言で珈琲を一杯出す
それを光ちゃんは静かに飲み終えると
「桜〜来たよ〜」
と呼ぶがいつもと違い桜は返事を返さない
せっかく来てくれた光ちゃんに対してのその態度に、ついカッとなる陽子を横で光ちゃんが止めた
「もしかしたら、少し疲れてるか、寝てるだけかもしれない」
と言いながら光ちゃんは二階に上がって様子を見に行く
それからしばらくしてーー
〝バタン〟
と二階から大きな音がする
その音に陽子は
「少し見てくる」
とだけ言い残し二階に上がった
それからまた再び
〝バタン〟
と二階から大きな音がする
私はその音に〝妙な胸騒ぎ〟がし二階に上がった
そこには光ちゃんと、その上に覆い被さるように倒れ込む陽子の姿があった
私は急いで駆け寄ろうとするが、廊下にある赤い液体を見てそっとその近くを見つめる…
そこにいたのは桜だった
手には包丁が見える
〝まさか、記憶が戻って・・・〟
そう思ったが桜は何かをブツブツ言っている
その目に光は無くまるで人形の様に心を閉ざしたみたいだった
私は桜に近寄り声をかけた
「桜、これは一体、、、何があったんだ」
その声に反応する様に私を向くと
「この子を見捨てた奴がよく言うね」
と少年の様な声が聞こえその瞬間、桜は私のお腹に、持っていた包丁を刺した
刺された場所から感じる〝冷たい感じ〟と〝暖かい感じ〟が混ざる不思議な感覚と共に、視界がぼやけていく
その刹那、私は桜の目の奥に別の誰かの影を見た
その時私は、シングルマザーの息子が言ってた
「お姉さんを通して見てる人が誰か聞いただけ」
の意味を悟った
〝そう言うことか、、、どうりで犯人が見つからない訳だ〟私はその意味を悟ると共に意識が無くなった