権力
これが噂の?
苦しい苦しい苦しい…
寝ていても起きていても、食べるのも苦しいのだ。
腹の子は順調に育っているのだろう。その証拠に膨れる腹は、人間とは思えないような有り様。
人を醜いと感じたことはないが、今の自分の有り様は素直に醜いと感じた。
母が弟を身籠っていた折、妊婦というものを身近に感じていたことはあるが、思い返せば妊婦の生の腹を見たことは一度もなかった。母の腹もこのように膨れ上がり、幾筋もの白い線が浮き出ていたのだろうか?
身体は醜く、体調は悪くなっていくばかり。いったい夫である東宮は妃である私に何をしたのか?
いや…頭ではわかっている…ありがたい情けを頂戴したのだということを…
実家から送られてきた新しい襲に目をやりながら、最近妙に実家から物が送られてくるなと思う。
それに、近頃交流の無かった友人や、あまり面識のない人々からも懐妊祝いから始まり、季節ごとに贈り物が送られてくる。大弐が体調の悪い私に付きっきりになり、そのほかの女房は専らお祝いの選別やお礼状書きというのが最近の梨壺である。
しかし、今の私は贈り物どころではない。生きることで精一杯なのだ。新しい襲よりも何よりも安息を求めている。仏に祈る為の数珠が手放せず、祈祷してもらうため神官を呼びつける。駄目元で今一番人気だという安倍晴明を呼んでみると、何と3日後に現れた。