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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
3

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99. おあいこ

時は進んで、トールが目覚めた頃。


トールのいた部屋を出ると、そこは二階だった。居間の上が吹き抜けになっていて、二階の廊下から一階の居間を見下ろせた。吹き抜けの天井にはめられた窓から、夜空に瞬く星の光が居間に差し込んでいた。


居間の中央に置かれたテーブルに、向かい合うようにして二人の人物が座っていた。灰色がかった暗い茶色の髪の見慣れた青年と、輝く白金の髪が目を引くどこかで見たような神官。


「二人はどうしてるの?」


「相変わらずです。魔法の研究に明け暮れている人と、騎士団で自由奔放にやっている人と」


「あはは、変わらないね。元気そうでよかった」


「はい。私も二人に会うことはあまりありませんが、元気ではなさそうな噂は一切聞きません」


「あの二人らしいね。…エステルでも、二人に会わないの?」


「ええ。相変わらずとは言いましたが…、やはり立場が違ってしまうと、変わることもあるものですね」


「…そうなんだ」


そこにいたのは、まがうことなくアーサー・ラングレットとエステル・カルマンその人だった。


魔王討伐パーティーのメンバー二人が団らんしている光景に、トールは気持ちが高ぶる。めったに見れる光景ではなかった。


同時に、アーサーが部屋の中でゆったりしているという初めて見る光景に、違和感を覚えてしまった。


階段を降りて居間へ行くトールとキャロル。ふと、アーサーがトールたちの方を見た。そして、アーサーは瞳がこぼれんばかりに目を見開いた。


「…トール」


ガタン、と椅子の倒れる音がした。アーサーはその場に勢いよく立ち上がっていた。


「…アーサーさん」


思わず口からこぼれた。


気を失ってからたいして時間は経っていないはずなのに、なんだか懐かしく感じた。それ以上に、アーサーが変わらずにいることに、トールは心の底からほっとした。


エステルがトールらの方を向く。そしてトールを見て、優しくほほえんだ。


次の瞬間、体の正面に衝撃を受け、思わずトールはよろめいた。


「!」


アーサーがトールに抱きついていた。


「え、アーサーさん…?」


思いがけないアーサーの行動に戸惑うトール。


アーサーはトールの無事を確かめるかのように、強く抱き締めていた。少し苦しかった。


「安静にって言ったのに…」


キャロルがじとっとした視線を送りながら、ぼそりと呟く。


――なんか、ごめん…。


「…トールがもとに戻ってよかった」


アーサーがぽつりと呟く。


「ごめんね、トール。俺、トールを殺しちゃうかもしれなかった」


それを聞いて、トールの胸がつまる。


「どうして、アーサーさんがそれを言うんですか?」


その台詞を言うべきはアーサーではなかった。


「それを言わなきゃいけないのは、俺ですよ…!俺、アーサーさんの首を絞めたんですよ」


思い出して目頭が熱くなる。


――瘴気のせいだとしても、俺、なんであんなことを…。


「ごめんなさい、アーサーさん…!本当にごめんなさい」


泣き声で謝るトール。


アーサーは腕の力をゆるめると、トールの両肩に手を置き、トールをまっすぐに見つめた。銀色とも見まがう灰色の瞳は、優しい光を帯びていた。


「いいんだよ。気にしないで」


「でも…」


「俺だって、今までトールに謝って済まないことしてるし。これでおあいこ」


アーサーはほほえむと、トールの頭をわしゃわしゃとなでた。


トールの顔に笑みがこぼれる。


「…はい。ありがとうございます」


「ううん」


互いの無事を喜ぶアーサーとトールをほほえましく見守っていたエステルのもとに、キャロルがやってくる。


「キャロル、トール君を診ててくれてありがとうございます」


「いえ」


エステルはアーサーとトールを見る。トールはもたれかかってくるアーサーを、少し困ったような顔をしつつもそのままにしていた。


「無事に目覚めてよかったです。アーサーがトール君は優しい子だと言っていました。その通りですね」


エステルはくすくすと笑いながら言う。


それを聞いて、キャロルは眉をひそめた。


「…優しい?何かの間違いでは?優しい奴はあんな目はしませんよ」


キャロルはトールに向けられた凍てつくような鋭い視線を思い出し、ぞくりと震えた。


読んでいただきありがとうございます!


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次回更新は9/11です。

次回もよろしくお願いします。

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