表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
3

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

96/108

96. 再会

時は戻って、トールが気絶した頃。


アーサーの目の前に現れたのは、かつてのアーサーとともに魔王討伐の旅をした、神官エステル・カルマン。


その事実に、アーサーの表情が固まる。


「エステル、どうしてここに...?」


アーサーの瞳は揺れていた。


エステルはふふ、と笑う。


「任務です。びっくりしました、まさかあなたがいるなんて。お元気でしたか?」


「…うん。エステルは、どう?」


「この通りです。元気ですよ」


エステルは小首をかしげた。


アーサーは呆然としたまま、起き上がる。ずり落ちるトールをしっかりと支えると、そっと地面に寝かせた。トールは気絶していたが、穏やかな表情なことにアーサーは安堵する。


「ありがとう、エステル。トールを助けてくれて」


アーサーは言った。ほほえんだアーサーの口の端は、ひきつっていた。


「いえいえ、とんでもない。間に合ってよかったです」


エステルはにこっと笑ったが、真剣な表情になると、言った。


「でも、あくまで応急処置です。しばらくは安静にする必要がありますね。キャロル、いますか?」


エステルの呼びかけに、木々の間から一人の少女が出てきた。


「エステル様、どうなさいましたか」


「キャロル、瘴気の被害者です。浄化は私がしておきました。看護をお願いします」


「…エステル」


アーサーの冷たい声が割って入る。アーサーが、キャロルを凍りそうな目で見つめていた。キャロルはびくりと震えた。


「アーサー」


エステルもアーサーを睨む。笑っているのが、怖かった。今度はアーサーが震える。


「大丈夫です。私を信じて下さい」


エステルはにこっとほほえんだ。


「…」


アーサーは一瞬、迷った。


「…わかった。ごめんね、睨んで。トールを、頼みます」


「…お気になさらず。承知いたしました」


キャロルはすっとお辞儀をすると、呪文を唱えてトールを浮かび上がらせ、その場から立ち去った。


「…あの子は?」


キャロルに運ばれていくトールを見送っていたアーサーが、エステルに尋ねた。


「キャロル・ハリエルです。私の部下で、弟子なんです。部下を持てるなんて、落ちこぼれと呼ばれた私も出世したものですね」


エステルはふふ、と楽しそうに笑った。


「トール君は、今私たちがいる街の滞在先に、運んでもらいました。浄化したとはいえ、しばらくは体調も不安ですし」


「ありがとう。…ごめんね、エステルの弟子を疑って」


「いいんですよ。疑うのも、もっともです」


アーサーは安心したように息をついた。そして、おそるおそる尋ねた。


「…ちなみにエステルたちが泊まっているのは、…教会?」


エステルはくすくすと笑った。


「?」


アーサーは首をかしげる。


「ふふ、違いますよ。空いている民家を借りています」


「え?そうなの?」


「はい。私、教会と仲良くないので。おまえなんかを泊める部屋はないって追い出されてしまいました。まったく、やることが大人げないですよね」


「それは、俺が…」


「これはアーサーの件とは関係ないですよ。私と教会の不仲はもとからです。なんせ、落ちこぼれの私でしたからね」


エステルは楽しそうに笑う。そして、笑い声を止めると、不気味な微笑みを浮かべた。


「…これは、私宛の厄介払いなんです」


「…?」


怪訝な顔をするアーサー。


「とにかく、アーサー、あなたに危険な場所ではないですし、ちゃんとトール君も保護できる場所ですよ」


エステルはにこっとほほえむ。


「久々の再会です。少し、話でもしませんか?」


「…うん。そうだね」


アーサーはひきつった笑みを浮かべた。


そんなアーサーを見て、エステルは困ったように笑う。


「ふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ。…警戒するのももっともですが」


「いや、そういうわけじゃないんだけど」


決まり悪そうにするアーサー。


エステルは右手をすっと上空にかかげた。


「恩寵あれ」


その言葉とともに、エステルを中心としてふわりと光が広がった。心なしか、息がしやすくなった気がした。


光魔法の結界だった。


「…ありがとう、エステル」


久々に見る結界に懐かしそうな目を向けるアーサー。


「いえ、念のためです。私たちには必要ない気もしますが」


アーサーは聞きにくそうに、口を開いた。


「…エステルが俺にくれた加護って、まだ効いてるのかな」


「ええ、効いていると思いますよ。少なくとも、私は解除していません」


そう言ってほほえむエステル。


それを聞いて、アーサーは驚いたように目を見開き、エステルを見る。


「…どうして?」


「どうして、ですか?」


エステルはきょとんとして小首をかしげた。


「だって、解除する必要がないじゃないですか」


「それは、俺を追跡するのに使えるから?」


「まさか。たしかにそういう使い方ができないわけではないですけど、使い勝手が悪すぎますよ。探索魔法を使う方が早いです」


目を丸くさせながら、エステルはアーサーの言葉を否定する。


「それなら、なんで」


「アーサー、わからないわけではないでしょう?」


エステルはほほえんだ。


「私はあなたに無事でいてほしかったんです」


「…」


何とも言えない顔をするアーサー。


「加護が万能なわけではありません。軽い怪我ならともかく、大怪我は治せないです。回復力を高めたり、瘴気への耐性をつけたり、多少魔物を近寄らせなくする程度です。でも、加護があれば、少しでも無事でいられる可能性は高まるでしょう?」


「そうだけど…」


苦しそうに顔を歪めるアーサー。


そんなアーサーを、エステルは困ったように見つめた。


「まあ、いろいろと言いたいことはありますが…」


「…」


エステルはほほえむ。


「とにかく、またあなたと会えて嬉しいです、アーサー」


アーサーは表情に悲痛さをにじませた。


「…どうして、そんなこと言えるの」


アーサーがぼそりと尋ねた。


「?」


首をかしげるエステル。


「エステルは、俺のことを憎んでないの?」


「どうして、あなたを憎むんですか?」


心からそう思っているようだった。


「…っ、だって、俺は凱旋式を台無しにしたんだよ。エステルたちの晴れ舞台だったのに。その上、俺は自分の望みのためだけに逃げ続けている。君たちへの裏切りも同然だよ…」


アーサーは両手で顔を覆う。指の隙間から垣間見えた瞳は、揺れていた。


「ごめん、エステル。謝って済むことじゃないけど、本当に、ごめんなさい。君たちの大事な場をめちゃくちゃにして。君たちを、裏切って」


切実な声だった。


エステルはふるふると首を横に振る。


「謝らないでください。私たちは誰も、あなたに裏切られたなんて思ってないですよ」


「いいよ、気遣ってくれなくて。俺は自分が最低な人間だってわかってる」


アーサーは嘲けるようにふっと笑みを浮かべた。


「あなたって人は…」


エステルは呆れたような、けれどどこか痛みをこらえるような表情を浮かべた。そしてそのままうつむいた。


「…そうですね。あなたがそう言うのなら、私も正直に思っていることを言いますね」


アーサーの眉がぴくりと動いた。


エステルは顔を上げると、アーサーをまっすぐに見つめた。澄んだ空色の瞳に、アーサーが映る。


「アーサー。私は、あなたに怒っていますよ」


読んでいただきありがとうございます!


面白かったら下の☆☆☆☆☆から評価、またはブックマークをしていただけると励みになります。


次回更新は8/29です。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ