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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
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86. 王家の誤算 その1

「王家は、魔王討伐パーティーを結成するにあたって二つの誤算を犯したんだよ」


アーサーは遠くを見つめながら言った。


「誤算?」


「うん。そもそも、トールは魔王討伐パーティー結成の目的を知っているかい?」


「え、目的ですか?」


思わぬ質問に、トールは思わず聞き返す。


「魔王を倒すため、じゃないんですか?」


トールの答えを聞いて、アーサーはほほえんだ。腹に一物抱えていそうな笑みだった。


「それにしては、頼りない選抜だったと思わない?」


「それは、たしかに…」


魔王討伐パーティーのメンバーは、その結成当時、誰一人として成人していない子どもだった。たとえ実力者集団だったとしても、頼りないことは否定できなかった。


――どうして騎士団長を入れなかったんだろう?


現王国騎士団長であるヴィンセント・ライアンは、当時から王国最強の人物と言われていた。南部が管轄の第二騎士団の団長上がりであり、実績も十分すぎるほどだった。


実際、アーサーらが魔王を倒しに行っている間、南部の前線で魔物の侵攻を食い止めていた立役者は、ヴィンセントだった。


今考えると、彼が魔王討伐パーティーのメンバーでなかったことが不思議だった。


「でしょ?それなのに、子ども四人だけで討伐に向かわせた。…王家の目的は、別にあったんだよ」


「それは、一体…」


アーサーはにこっと笑った。


「厄介払いと権威の維持、てとこかな」


「え?」


アーサーの言葉に、トールは目を丸くする。


「レオナルドとマルツァーってね、すごく優秀なんだ。でも二人とも、王家の親派じゃないんだよね。むしろ反抗的。しかも、レオナルドは王家に次ぐ家柄の大貴族だし、マルツァーは歴史ある魔法使いの一家の長男。二人は王家にとってすごく扱いずらい存在だったらしいよ。潰すに潰せない」


王家の目的に唖然としたままのトールに、アーサーは説明を続けた。


「魔王討伐って危険だから。王家は二人が途中でやられて死んじゃえばいいって思ってたらしいんだよね。魔王討伐の途中で死ねば、王家は手を汚さずに済むし、二人の実力もその程度、て評価になる。ある程度魔物が倒されて、魔王も弱らせたところで、王子が討伐に赴いて魔王を討ち取って英雄になる、ていうのが王家の筋書きだったらしいよ。おいしいとこだけもらって、邪魔者を消そうとしてたんだって」


「えぇ…」


不愉快極まりない王家の思惑に、トールは呆れ返ってそれしか言えなかった。


「厄介払いをしたかったレオナルドとマルツァーの二人は、その当時すでに天才と称される実力者だった。いくらまだ子どもとはいえ、ここにさらに実力者を加えれば、本当に魔王を倒してしまうかもしれない。だから、ただの平民の俺と、落ちこぼれ神官のエステルを加えた」


トールは黙って聞いていた。


「神官の選定は教会がしたんだけどね。教会も、魔王がすぐに討伐されることは望んでなかったんだ。魔王の脅威から民を守ることで権威を維持しているから、敵がいなくなればその存在感は薄まる。まあ、最終的には倒さないと存在意義はなくなるんだけどね。つまり、王家と教会の思惑は合致していたんだ」


アーサーはふっと嘲るように笑った。


権威のために魔王を生かすなんてことは、決してしてはいけないことだ。トールも王家と教会の思惑にはいい気がしなかった。


「そこで教会から選ばれたのが、落ちこぼれって呼ばれていたエステルだったんだ。当時のエステルは全然光魔法を使えなくてね。この選定には疑問の声が上がるほどだったらしいよ」


――よくその状態で押し通せたな…。


そういえば、魔王討伐パーティーの結成時はメンバーの神官が頼りなさ過ぎるという話をよく聞いた気がした。


「それでも、魔王討伐パーティーはトールも知ってるメンバーで決定した。誰もがすぐに失敗すると思っていたと思うよ。でも、そうはならなかった」


それは、トールも知る通りだった。アーサー・ラングレット、レオナルド・セルジュ・ウィルバウナー、マルツァー・ファルダ、エステル・カルマンの四人から成る魔王討伐パーティーは、魔王を討ち取り、見事成功をおさめたのだった。


「それじゃあ、誤算っていうのは、アーサーさんが予想よりもはるかに強かったことですか?」


トールは尋ねた。出発時はその実力を不安視されていたが、実際は剣豪レオナルドを上回る実力を持っていたアーサーである。


「あはは、自分で言うのもなんだけど、それは一つ目の誤算。でも、それは魔王討伐においてはたいした誤算じゃない」


アーサーは笑って言った。


トールは驚いた。アーサーはとてつもなく強い。それが、大した誤算ではないなんて。


アーサーは真剣な目をして、言った。


「二つ目の誤算、そして王家と教会の一番の誤算は、落ちこぼれだったはずのエステルが、女神に愛されていたことだよ」


それは、今となっては、多くの人が知っていることだった。神官エステル・カルマンは、並ぶもののいない光魔法の使い手として有名だ。


エステルが優れた光魔法の使い手であった、つまり女神に愛されていたことが大きな誤算であることを、トールはいまいち納得しきれていなかった。


「回復役の神官って、すごく重要なんだ。エステルがいなければ、俺らはすぐに全滅していたと思うよ。それくらい、大事だった」


アーサーが懐かしむような目をして話し始めた。


読んでいただきありがとうございます!


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次回更新は7/20です。

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