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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
3

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82/106

82. それはまるで舞のように その2

「…くそっ、なんで止められるんだよ」


アーサーは後ろ手に、剣を受け止めていた。


剣を止められた騎士が悔しさに顔を歪ませる。アーサーに気付いた若い騎士だった。


にこっとほほえむと、アーサーは剣を振る。その直前、若い騎士は後ろに飛びずさった。頬に一筋の赤い血がにじむ。


「へえ。君の剣ごと、その顔斬ろうと思ったのに」


感心したように言うアーサー。


「させるかよ」


若い騎士は再びアーサーに向かっていく。


剣のぶつかり合う音が響いた。


若い騎士の連戟を、アーサーは剣で軽々といなしていく。攻撃がちっとも届かないことに、明らかに若い騎士はいらついていた。


一瞬、アーサーに隙ができた。アーサーの懐が空く。若い騎士は機を逃さず、すかさず剣を突き出す。


「死ね!」


「やだよ」


「…!」


剣が空を切った。若い騎士の突き出した剣の先には、誰もいなかった。


「まだまだだね、君も。あんなあからさまに隙を作ると思う?」


「なっ…」


背後から声がして、若い騎士は振り向こうとする。が、首筋にひやりと硬い感触がして、ぴたりと止まった。


後ろから、アーサーが首筋に刃を突きつけていた。


アーサーは剣が突き出された瞬間、空中に飛び上がり、若い騎士の背後に回り込んでいたのだった。


「君は型通りすぎてつまんないや。飽きちゃった」


退屈そうに言うと、アーサーは目にも止まらぬ速さで剣を一振りする。


「!」


若い騎士がすとんと膝をついた。カラン、と剣が地面に落ちる音がした。


両足首が、ぱっくりと切れていた。


「ああ…っ」


若い騎士は地面に這いつくばり、痛みに顔を歪める。


そんな若い騎士の前にアーサーがしゃがみこむ。アーサーは若い騎士の頭をがしっとつかみ、顔を上げさせた。若い騎士は憎しみのこもった目でアーサーを見た。


「反逆者風情が…!」


「そんなこと言われても…。君が知らんぷりすれば、こうはならなかったんじゃない?」


「うるさい!」


若い騎士がアーサーに殴りかかる。アーサーは剣を持つ左手をすっと上げた。


ザクッ、と嫌な音がした。


「うあああ!」


若い騎士が悲鳴を上げる。


アーサーに殴りかかった右手は、手首の部分がアーサーの構えた剣にしっかりと食い込んでいた。


「あーあ。無事なのは左手だけになっちゃったね」


冷たく言い放つアーサー。


「おまえの、せいだろ…っ!」


「そうかもね。このままじゃバランス悪いから、責任持って左手も斬るね」


にこっと笑ったアーサーの笑みに、若い騎士はぞわりと震えた。


アーサーは宣言通り左手も斬ると、つかんだ頭をぱっと離して立ち上がった。若い騎士は力尽き、地面に崩れ落ちた。


アーサーはくるりと広場の中央の方を見る。広場の中央で参戦できずに残っていた騎士たちが、びくりと震えた。


「さてさて、残りはぱぱっと片付けちゃおうか」


アーサーが明るく言った。にもかかわらず、ぞっとするような声だった。


「くそ…っ」


騎士たちが怯えた表情を浮かべつつも、アーサーに向かっていく。


トールは、アーサーが戦う様子を、目を見開いて見ていた。


――すごい。


目が離せなかった。


一対多数の劣勢であるはずなのに、アーサーはちっとも劣勢ではなかった。むしろ優勢だった。


アーサーの一対多数の対人戦を見るのは、トールは何気に初だった。メルベックのクールノー商会でも一瞬見はしたが、あの時はそれどころではなかった。


――こんなにすごい人だっただなんて。


もともと、強い人であることはわかっていた。しかし見てきたのは魔物に対してばかりで、実際に人間相手に戦っているところを見るのは初めてだった。


アーサーは斬りかかってくる騎士たちを軽やかにさばいていく。


まるで、踊っているかのようだった。


――綺麗だ。


トールは、あたかも舞台でも見ているかのような感覚になった。


広場の中心でアーサーが華麗に舞う様子は、見惚れるような光景だった。血にまみれていても、それさえ美しく感じられた。


人が戦っている場面にこんなにも見惚れたのは、トールは初めてのことだった。


「ふう」


アーサーは広場の中心にゆらりと立つ。


「うう…」


アーサーの周りでは、真っ赤な血の海の上に倒された騎士たちが顔を歪め、地面に這いつくばっていた。


アーサーはその光景を見て、軽く口角を上げる。悲しげな笑みだった。


「…彼に免じて、命だけは取らないでおいてあげるよ」


アーサーは独り言のようにぼそりと言うと、くるりと踵を返してトールの方へ向かった。


読んでいただきありがとうございます!


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次回更新は7/4です。

次回もよろしくお願いします。

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