82. それはまるで舞のように その2
「…くそっ、なんで止められるんだよ」
アーサーは後ろ手に、剣を受け止めていた。
剣を止められた騎士が悔しさに顔を歪ませる。アーサーに気付いた若い騎士だった。
にこっとほほえむと、アーサーは剣を振る。その直前、若い騎士は後ろに飛びずさった。頬に一筋の赤い血がにじむ。
「へえ。君の剣ごと、その顔斬ろうと思ったのに」
感心したように言うアーサー。
「させるかよ」
若い騎士は再びアーサーに向かっていく。
剣のぶつかり合う音が響いた。
若い騎士の連戟を、アーサーは剣で軽々といなしていく。攻撃がちっとも届かないことに、明らかに若い騎士はいらついていた。
一瞬、アーサーに隙ができた。アーサーの懐が空く。若い騎士は機を逃さず、すかさず剣を突き出す。
「死ね!」
「やだよ」
「…!」
剣が空を切った。若い騎士の突き出した剣の先には、誰もいなかった。
「まだまだだね、君も。あんなあからさまに隙を作ると思う?」
「なっ…」
背後から声がして、若い騎士は振り向こうとする。が、首筋にひやりと硬い感触がして、ぴたりと止まった。
後ろから、アーサーが首筋に刃を突きつけていた。
アーサーは剣が突き出された瞬間、空中に飛び上がり、若い騎士の背後に回り込んでいたのだった。
「君は型通りすぎてつまんないや。飽きちゃった」
退屈そうに言うと、アーサーは目にも止まらぬ速さで剣を一振りする。
「!」
若い騎士がすとんと膝をついた。カラン、と剣が地面に落ちる音がした。
両足首が、ぱっくりと切れていた。
「ああ…っ」
若い騎士は地面に這いつくばり、痛みに顔を歪める。
そんな若い騎士の前にアーサーがしゃがみこむ。アーサーは若い騎士の頭をがしっとつかみ、顔を上げさせた。若い騎士は憎しみのこもった目でアーサーを見た。
「反逆者風情が…!」
「そんなこと言われても…。君が知らんぷりすれば、こうはならなかったんじゃない?」
「うるさい!」
若い騎士がアーサーに殴りかかる。アーサーは剣を持つ左手をすっと上げた。
ザクッ、と嫌な音がした。
「うあああ!」
若い騎士が悲鳴を上げる。
アーサーに殴りかかった右手は、手首の部分がアーサーの構えた剣にしっかりと食い込んでいた。
「あーあ。無事なのは左手だけになっちゃったね」
冷たく言い放つアーサー。
「おまえの、せいだろ…っ!」
「そうかもね。このままじゃバランス悪いから、責任持って左手も斬るね」
にこっと笑ったアーサーの笑みに、若い騎士はぞわりと震えた。
アーサーは宣言通り左手も斬ると、つかんだ頭をぱっと離して立ち上がった。若い騎士は力尽き、地面に崩れ落ちた。
アーサーはくるりと広場の中央の方を見る。広場の中央で参戦できずに残っていた騎士たちが、びくりと震えた。
「さてさて、残りはぱぱっと片付けちゃおうか」
アーサーが明るく言った。にもかかわらず、ぞっとするような声だった。
「くそ…っ」
騎士たちが怯えた表情を浮かべつつも、アーサーに向かっていく。
トールは、アーサーが戦う様子を、目を見開いて見ていた。
――すごい。
目が離せなかった。
一対多数の劣勢であるはずなのに、アーサーはちっとも劣勢ではなかった。むしろ優勢だった。
アーサーの一対多数の対人戦を見るのは、トールは何気に初だった。メルベックのクールノー商会でも一瞬見はしたが、あの時はそれどころではなかった。
――こんなにすごい人だっただなんて。
もともと、強い人であることはわかっていた。しかし見てきたのは魔物に対してばかりで、実際に人間相手に戦っているところを見るのは初めてだった。
アーサーは斬りかかってくる騎士たちを軽やかにさばいていく。
まるで、踊っているかのようだった。
――綺麗だ。
トールは、あたかも舞台でも見ているかのような感覚になった。
広場の中心でアーサーが華麗に舞う様子は、見惚れるような光景だった。血にまみれていても、それさえ美しく感じられた。
人が戦っている場面にこんなにも見惚れたのは、トールは初めてのことだった。
「ふう」
アーサーは広場の中心にゆらりと立つ。
「うう…」
アーサーの周りでは、真っ赤な血の海の上に倒された騎士たちが顔を歪め、地面に這いつくばっていた。
アーサーはその光景を見て、軽く口角を上げる。悲しげな笑みだった。
「…彼に免じて、命だけは取らないでおいてあげるよ」
アーサーは独り言のようにぼそりと言うと、くるりと踵を返してトールの方へ向かった。
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