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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
3

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80. 鉢合わせ

「アーサー・ラングレットだって?」


周りの騎士が驚いたように聞き返す。


「はい。あの細い路地にいる二人組の手前の奴です。奥の奴は何者かわかりませんが…」


「…たしかに本物っぽいな。よく気付いたな、お前」


「俺は特例時代の首席ですよ?なめてもらっちゃ困ります」


騎士たちは剣の柄に手をかけていた。


――完全に、気付かれた。


焦りがつのる。


トールはアーサーをちらりと見た。アーサーは何か考えているのか、思案顔だった。焦りを見せるでもなく、ひたすらに冷静なのがかえって不気味だった。


ふと、トールはアーサーの言葉を思い出した。


『万一騎士と鉢合わせたら、トール、俺は、騎士を殺すよ』


――さっそく鉢合わせちゃったじゃないか…!


どくどくと心臓が打つ音が聞こえた。


――アーサーさん、騎士を殺すのかな。


アーサーの表情からは何も読み取れなかった。しかし、そのことが逆に、騎士を殺すのではないかという疑念をより確信に近いものにした。


――というか、俺、まだどうするか決められてない。


万一騎士と遭遇したらどうするのか、考える間もなく遭遇してしまった。


何に対してなのかわからない緊張と焦りがトールを襲う。


ふう、とアーサーが息をついた。


「完全に、ばれてるね。…トール、このまま逃げ切れると思う?」


「…厳しいと、思います」


――不可能だ。


厳しい、とは言ったが、本心では不可能だと思っていた。強硬手段を取らない限りは。


「そうだよね。…うん、ここでなんとかするしかないか」


トールはびっくりした。アーサーの声は、思った以上に穏やかだった。まるで、取るに足らない魔物でも狩りに行くかのように。


「一体、何を…」


声が震えた。


アーサーはにこっと笑うと、トールに言った。


「君はここにいて。顔を見せないようにして。…絶対、出て来ないで」


優しく諭しているような口調なのに、どこか圧のある笑みだった。


逆らえず、トールは神妙な面持ちでうなずいた。


「…わかりました」


「おい、そこの二人組、出て来るんだ」


その時、騎士の鋭い声が響いた。


「ありがとう。…ちょっと、行ってくるね」


アーサーはほほえむと、踵を返して広場へと向かっていく。


「あ…」


トールは思わず手を伸ばした。が、アーサーのマントのすそをつかむことはできなかった。手は届いたのだが、指が動かなかった。


なぜだか、止めなければいけない気がした。行かせてはいけないように思った。


それが何故かはわからなかった。


しかし、止めることはできず、トールはアーサーの後ろ姿を見送るしかなかった。


アーサーが路地から出て、騎士たちのいる広場の中心へと向かって行く。騎士たちはアーサーに剣先を向け、緊張した面持ちで迎えていた。


広場の空気は、これ以上ないくらいに張り詰めていた。


隊長とおぼしき人物が、口を開く。


「…もう一人はどうした」


「お前らの目的は俺一人なんでしょ。俺だけでよくない?」


「口答えするな!」


アーサーに初めに気付いた若い騎士が、怒りをにじませながら怒鳴る。


――ん?


トールは眉をひそめる。


――あの声、どこかで聞いたことある。どこでだっけ。


トールはアーサーの言いつけを守り、フードを深くかぶって顔を見せないようにしながら、路地から広場の様子をうかがっていた。


アーサーの真正面に立つ若い騎士の顔は、トールからは見えなかった。


若い騎士は他の騎士にたしなめられていた。


「まあ、いいだろう。…剣を地面に置け」


「…」


アーサーは無言で、地面に長剣を置いた。カタン、と軽い音がした。


――アーサーさんの長剣が。


まだ短剣を忍ばせているとはいえ、長剣を手放させられたのは痛かった。


「マントを脱げ。そして名を名乗れ。お前は、何者だ」


「…もう、わかってるんでしょ?それ、必要ある?」


「指示に従え」


「それは義務?それとも任意?」


煽るように言うアーサー。明らかに、騎士たちは苛ついていた。


「義務だ。命令している」


「へえ。従わなかったら?」


「それこそわかっているだろう。…こちらも、強硬手段に出る」


「そっか」


アーサーがすっと目を細めたのが、見えずともわかった。


アーサーのまとう雰囲気が変わった。


冷たい殺気に、騎士たちがたじろぐ。あからさまに恐怖を浮かべている騎士もいた。


「別に、強硬手段に出られたってかまわないんだけどね。たぶん、俺、勝てるし」


――それは、そう思う。


なんせ、精鋭の騎士がたくさん集まる凱旋式で大暴れした張本人だ。


「…街に出た魔物を倒していたのは、お前か?」


「うーん、そうだね、そういうことにしとこうか」


アーサーはこてん、と首を傾ける。


質問をしていた騎士が、少し困惑したように見えた。


「…もう一度問おう。お前は、何者だ」


「さあ?何者なんだろうね」


「これが最後だ。答えろ。さもなくば、お前を拘束する」


「…」


アーサーは答えなかった。


場に緊張が走った。


読んでいただきありがとうございます!


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次回更新は6/26です。

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