表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
3

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/106

77. 再戦

――なんで街中に魔物がいるんだよ!


トールは心の中で、騎士団に向かって盛大に文句をかました。


人々を魔物から守るのは、騎士団の仕事のはずだった。もう魔王が倒されたから、気がゆるんでいるのだろうか。魔物の数が違うとはいえ、魔王存命中は騎士団はもっとしっかりと働いていた。


何にせよ、目の前にウォーウルフが立っている。これがすべてを物語っていた。


「あーあ。倒すしかないか。目を付けられちゃったからね」


アーサーはウォーウルフから目を反らさずに言った。相変わらず、アーサーとウォーウルフの間では無言の睨み合いが繰り広げられていた。


「ですね…」


見つかった時点で、ウォーウルフから逃げ切るのは至難の技になっていた。そもそも、ウォーウルフを引き連れて走り回っていれば目立つ。途中で他の人にウォーウルフの関心が向くかもしれなかったが、人々を危険にさらすわけにもいかなかった。


トールは周りを見回す。


外には人はいなかったが、建物の中は違った。


周囲の建物の中には、窓から神妙な面持ちでウォーウルフと対峙したアーサーとトールの様子をうかがっている人々がいた。その人々の顔に浮かんでいたのは恐怖と動揺、そして不安だった。


――いきなり街に魔物が現れて、怖いよな…。


トールは胸がきゅっとつかまれたように感じた。


――待てよ。


トールはあることに気付く。


アーサーは今にも剣を抜こうとしていた。


「じゃあ、倒しちゃうね」


「待ってください!」


トールはあわててアーサーを止める。アーサーは少し驚いたようにトールを見た。


トールはふう、と息をつくと、きっとウォーウルフを見つめる。そして、アーサーに尋ねた。


「アシルさん、俺が一人で倒せると思いますか」


トールの声は真剣だった。一瞬、アーサーが気圧されたように見えた。


「倒せるとは、思うよ」


ためらいつつも答えたアーサーは、トールの質問の意図がわからず困惑しているようだった。


「ありがとうございます、アシルさんにそう言ってもらえるなら、俺はやれます」


トールはにこっと笑った。


「俺が一人で倒します。アシルさんは、ここで待っててください」


「え?」


思わぬトールの言葉に、アーサーは目を丸くする。


「ここは街の中です。いつ騎士団が来るともわからない。目撃者も多い。この前のドラゴンの時とは状況が違うんです。なるべく、アシルさんは人の目に触れない方がいい」


トールは声を落とし、アーサーにだけ聞こえるように言った。


アーサーなら、一瞬でウォーウルフをすべて倒してしまうだろう。しかし、それではだめだった。アーサーのその規格外の強さは、目立ちすぎる。


アーサーの表情に少し影がさした。


「…わかった。トール、頼むね」


「はい、任せてください」


トールは笑って見せる。アーサーを励ますためであり、自分を恐怖から奮い立たせるためでもあった。


トールが笑ったのを見て、アーサーはふっと笑みをこぼした。


「いい人だね、君は。無理はしないでね」


「もちろんです」


トールは剣を抜く。スラリと刃の擦れる音がした。


ウォーウルフはトールの方に目を向けた。血のような真っ赤な瞳がトールをとらえ、トールの背に戦慄が走る。


久々の、ウォーウルフとの対峙だった。


――あのときは、まともに攻撃を受けたからいけなかったんだ。


トールは以前、ウォーウルフと戦った時のことを思い出す。


グルル、と唸り声を上げ、ウォーウルフがトールに向かって来た。


――それなら、攻撃を受けなければいい。


ウォーウルフが前肢をトールに振り下ろす。


トールはとっさに地面を転がってよけると、起き上がると同時にウォーウルフの上に飛び上がった。そして、思い切り剣を振り下ろす。


手応えがあった。血が吹き出し、地面に舞う。


「…っ」


トールは顔をゆがめた。


剣は、ウォーウルフの首に振り下ろされていた。が、首を落とすことは叶わなかった。首の途中で、剣が引っかかっていた。


トールはすぐさま剣を引き抜き、地面に着地する。


ウォーウルフがギロリとトールを睨んだ。


ひるみつつも、トールも負けじと睨み返す。


ウォーウルフの首からは、ボタボタと血が落ちていた。


――だめだ、俺の実力じゃアーサーさんみたいにはいかない。


本当は一振りで仕留めてしまいたかった。


トールはウォーウルフの攻撃をすんでのところでかわし続けながら、ウォーウルフの隙をうかがう。


――あれ?


トールは違和感を覚えた。


――ウォーウルフの動きが鈍くなってる。


依然として一撃一撃が致命傷になりかねなかったが、明らかに速さが落ちていた。


――首の傷が利いているんだ。


トールは口角を上げた。


――一発で仕留めなくていい。少しずつダメージを与えて、確実に、仕留める。


振り下ろされた前肢をよけつつ、トールは前肢に切り傷を加える。


ウォーウルフから悲鳴が上がった。


トールはウォーウルフの肢に、胴に、どんどん傷を加えていった。返り血を浴び、トールの服がみるみるうちに赤く染まっていく。


「…さすが、トール」


トールが戦うのを見て、アーサーはぼそりと呟いた。


唸り声を上げ、ウォーウルフが飛び上がって宙にいたトールに向かって口を開く。


「…っ」


迫ってくる牙の前で、トールは恐怖を覚える。


牙がトールに届くその瞬間、トールは無意識に動いていた。


剣をウォーウルフの上顎に突き刺すと、剣を支点にしてウォーウルフの頭の方へぐるりと宙を回る。その勢いのまま剣を引き抜くと、先程傷を加えたのとは反対側の首に、トールは剣を振り下ろす。


肉が裂ける感触があった。


地面に着地したトールに、ウォーウルフの血が降りかかる。


ウォーウルフはふらふらと二、三歩動き、そして地面に倒れた。


「…倒せた…?」


トールは呆然としながら、動かなくなったウォーウルフを見つめる。


トールの肩を、アーサーがぽんと手をのせた。アーサーの手にべっとりと血がつく。


「倒せてるよ。トールが、一人で倒したんだ」


「…!」


トールの中に、何かがこみ上げてきた。


「俺、倒せました…!前は、倒せなかったのに…!」


嬉しさで笑顔があふれた。


そんなトールを見て、アーサーはほほえむ。


「前より動きに無駄がなくなってる。トール、ちゃんと強くなってるよ。よくやったね」


「…!ありがとうございます…!」


トールの心がじんわりと温かくなる。


「ウォーウルフを倒したのか…?」


建物の中に隠れていた街の人々が、次々と外に出てきた。


二人のもとへやって来る人々の背後に迫り来るものを見て、トールは背筋が凍った。


「危ない!」


思わず飛び出していた。


トールは住民の後ろに迫っていた魔物を切り倒す。


「へっ?」


住民は目を見張って、倒された魔物を見つめた。


「まだ魔物がいます。下がってて」


トールは鋭い声を放つと、次々とやって来る魔物に剣を向けた。住民たちがぴたりと立ち止まる。


「トール、まだいける?」


「いけます。任せてください」


心配そうに尋ねるアーサーに、トールはしっかりと答える。


「ありがとう。任せる」


アーサーは頼もしいトールの背中を見て、嬉しそうにほほえんだ。


咆哮を上げながら襲いかかってくる魔物を、次から次へと倒していくトール。


――なんか、懐かしいなあ。


騎士団に入る直前の冬、父親の制止を振りきって森へ行き、魔物を狩りまくっていた頃みたいだった。ひっきりなしに現れる魔物を、命からがら倒していた。


その時とは違い、今ははるかに余裕をもって魔物を倒せていた。


――今考えると、無謀なことしてたな、俺。


ふっと笑みを浮かべるトール。


なぜ父があんなにも怒っていたのか、今さら理解したトールだった。


魔物と戦うトールを見ていたアーサーが、ぴくりと反応した。


背後をちらりと見て、アーサーは目を見張る。


アーサーはすぐさま動いた。


戦うトールのもとへ向かうと、トールの腕をつかみ、走り出す。


「えっ?」


「ごめん、トール。ここまで」


「どうしてですか?」


突然腕をつかまれ引っ張っていかれたトールは、困惑する。


ふと後ろを見て、トールははっと息を飲んだ。


「おい、何があった!無事か!」


見慣れた紺色の制服。


騎士たちがやって来ていた。


読んでいただきありがとうございます!


面白かったら下の☆☆☆☆☆から評価、またはブックマークをしていただけると励みになります。


次回更新は6/14です。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ