75. 剣を求めて街中へ その2
「ところで、そっちの兄ちゃんは珍しい短剣持ってるな」
親方はアーサーの腰に提げた短剣に目をやると、言った。
「そう?」
アーサーはこてん、と首をかしげる。
「どこのものだ?」
「さあ?もらったものだから、よくわからないや」
にこっと笑うアーサー。
アーサーと親方の間に流れるなんとも言えない緊張した空気に、トールは気付いた。
――何かある短剣なのかな?
アーサーは王家からもらった地図を持っていた。他にも普通なら手に入らないようなものを持っていても、驚きはしないのだが。
――ん?
トールはあることに気付いた。
――もし王家からもらった短剣なら、ちょっとまずいんじゃ…。
王家から与えられた短剣なら、かなりの質のものだろう。そうそう手に入らない。職人なら、見てわかりそうだった。しかも、剣を見て人がわかると言う。剣から怪しまれてもおかしくはない。
トールははらはらとしながらアーサーを見る。
アーサーは何を考えているのかよくわからない表情を浮かべ、長剣の物色に戻っていた。
――アーサーさん、用心してるのかしてないのか、よくわかんない人だからな…。
トールはちらりと親方の方を見る。親方は依然としてアーサーの短剣に視線を向けていたが、怪しむような視線ではなかった。単純に興味があるだけのようだった。
トールはひとまずほっとする。
アーサーは長剣を手に取っては、握り心地を確かめ、再びテーブルに戻すのを繰り返していた。
「アシルさん、どうですか?」
トールは聞いてみる。
「うーん、これはちょっとすべるかも」
アーサーは手に持った剣を見て、少し眉をひそめた。
「アシルさん、片手持ちですもんね。もうちょっと持ち手が短いやつの方がいいんじゃないですか?」
「持ち手が短いやつか?そんなにないぞ」
トールが言うのを聞いて、親方は五本ほど、剣を机に並べた。
アーサーはそれぞれ手に取り、手になじむか確かめる。
「これにしようかな」
アーサーは出された剣の一本を手に持ち、言った。
それを見て、親方が目を見張る。
「兄ちゃん、それでいいのか?」
「うん。これがいい」
「え、何かあるんですか?」
親方の反応に、トールは思わず尋ねる。
「いや、別に大したことじゃないんだが…。その剣は刀身が短めなんだよ。剣士は長めの剣を好むから、意外でな。まあ、その分丈夫だがな」
「へえ」
たしかに、騎士団にいた時も周りは長めの剣を使っている騎士が多かった。かくいうトールも、アーサーの選んだ剣よりも刀身の長い剣を持っていた。
「親方、いくら?」
「金貨二枚だ」
「思ったより安いね」
「言っちゃ悪いが、売れない型だからな」
「売れない型ですが、質はすっごくいいですからね!ご心配なく!」
すかさずニーナが横やりを入れる。が、親方に睨まれすごすごと引き下がっていた。
「あはは、引き取り手になれて何より」
「ああ、助かったよ」
アーサーは親方に金貨を支払うと、買った長剣を右腰に提げた。短剣を提げるよりも、はるかにかっこよく見えた。
――やっぱり、アーサーさんは長剣が似合うなあ。
トールはしみじみと剣を提げたアーサーを見る。
王都に建てられていた魔王討伐パーティーの銅像のアーサー・ラングレットは、長剣を携えていた。魔王を討ち取った英雄の名剣だ。トールは王都にいる時、アーサーの像を見てそのかっこよさに憧れを抱いていたのだった。
もっとも、アーサーの像だけすぐに壊されてしまったため、数えるほどしか見ることができなかったが。
「ねえ、親方。聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「この街って、北の門以外に、どこに門があるの?」
北の門は、アーサーとトールが通ってきた門だ。
「門か?南にあるぞ」
「そっか。ちなみに、騎士団の屯所は?」
「南と北に一個ずつだな。北の方が大きいがな」
「教会は?」
「中心部にあるぞ」
「なるほど、ありがとう」
「別にいいんだが…、何かあるのか?」
親方に疑われたんじゃないかと、ぎくりとするトール。
「ううん、たいしたことじゃないよ。この街に来るのは初めてだから、どこに何があるのかなって思って」
にこっと笑うアーサー。
「そうかい」
それ以上突っ込んで聞かなかった親方に、トールは感謝した。
「そういえば、北門の方が騒がしかったですよねー?何人か騎士も店の前を走って行きましたけど。何かあったんですか?」
剣を磨きながら、ニーナが思い出したように尋ねる。
「…魔物暴走です」
「へっ?今、なんて?」
トールの言葉に、ニーナはすっとんきょうな声を上げる。
「魔物暴走が、起きたんです。小規模ではありましたけど。だからたぶん、今も北門では騎士団が戦ってると思います」
「まじですかー…」
ニーナは呆然としながら言った。
――まあ、こういう反応になるよな…。
なぜなら、魔王は倒されたから。
「珍しいこともあるもんだな…。兄ちゃんら、魔物暴走に巻き込まれたのかい」
「ええ、まあ」
「そりゃ災難だったな…。すごいタイミングで来たんだな」
「本当そうですよね…」
はは、と笑うトール。
「お待たせしました!メンテナンス、終わりましたよー」
「あ、ありがとうございます」
元気よく言ったニーナからトールは剣を受け取ると、鞘から引き出してみた。
「わあ」
剣はきれいに磨かれていて、刃は輝いていた。自分ではこうはいかなかった。
「すごいね、新品みたい」
横からトールの剣を見て感心したように言うアーサーに、トールはこくこくとうなずく。
「助かりました。でも、いいんですか?無料って…」
「いいんですよー。私も練習になりましたし。まあ、親方が無料って言うんで無料です」
ニーナは手をひらひらと振りながら言った。本当に無料でいいと思っているようだった。
トールはぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございます」
「どういたしまして!」
ニーナはにぱっと笑った。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
店から去ろうとする二人に、親方が声をかける。
「気を付けてな」
「ありがとう、親方」
「ありがとうございます」
「また来てくださいねー」
アーサーとトールはぺこりと会釈すると、親方とニーナに見送られながら店から出ていった。
「さてさて、これからどうしようか」
「どうやって南門を通り抜けるか、てことですよね」
「そう。通行記録取られないで街に入ったけど、こういうときって、出るときはどうなるの?」
「出るときの記録は取られますね。なので、門を通るのは厳しいかもです」
「うーん、そっか。でも、北門に戻るわけにはいかないもんね」
「そうですね…。そもそも、まだ北門は出れる状態にない気がします」
「だよね。まあ、とりあえず南門に向かってみようか。止まってても通り抜け方は思いつかないし」
「ですね」
――騎士団の屯所があるらしいけど、いいのかな…。
不安になったトールだった。
けれども、アーサーは気にしてなさそうにどんどん進んでいってしまう。
――まあ、最悪、入ったときと同じ方法を使えばいいのか。
そう納得して、トールはアーサーの後を追った。
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