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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
3

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74. 剣を求めて街中へ その1

意外とすぐに、武器屋は見つかった。


「あ、あれじゃないですかね、武器屋」


トールが指差した先には、剣と弓の絵が描かれた看板が下がった建物があった。


「ほんとだ、あれだね。さっさと用事を済ませちゃおうか」


アーサーは何のためらいもなく店に入って行こうとする。


「いや、ちょっと待ってくださいよ!」


トールはあわててアーサーを止める。


アーサーはきょとんとした。


「中に騎士とかがいたらどうするんですか!」


騎士が武器屋で自分の武器をそろえるのはよくあることだ。騎士と鉢合わせでもすれば即、街から脱出に切り替えになるだろう。騎士でなくとも他の客がいないに越したことはなかった。


トールの焦った訴えを聞いて、アーサーはケラケラと笑う。


「あはは、大丈夫だよ。客は誰も、いないから」


「…?」


――どういうこと?


眉をひそめるトール。そんなトールにはお構い無しに、アーサーは武器屋の扉を開け、中へと入って行った。トールもあわててそれに続く。


「いらっしゃいませ!今日は何をお探しで?」


トールと同じくらいの年の女の子が、元気な声で出迎えた。職人見習いのようだった。


「こんにちは、長剣がほしくて」


「長剣ですね、少々お待ちを」


女の子はカウンターの奥へと入って行った。


店の中に、アーサーとトールは二人、残された。二人以外に客はいなかった。


「…どうして、他の客がいないってわかったんですか?」


トールはアーサーに尋ねる。


「ん?気配がなかったから」


「気配…」


――いや、わからないって。


たいしたことなさそうに言うアーサーに、トールは脱力してしまった。店の前ならともかく、トールがアーサーを止めた時はまだ店まで距離があった。その段階で、店の中の人の気配を判別できると思えなかった。


――魔王討伐に成功するような人ならできるのかな…?


うーん、とトールが首をひねっていると、女の子が腕いっぱいに長剣を抱えて戻ってきた。


「お待たせしました!おすすめは、このあたりですかねー」


女の子はテーブルの上に長剣を並べながら言った。


「見てもいい?」


「どうぞどうぞ!ごゆっくり」


アーサーはテーブルに並べられた長剣を、一本一本手に取って吟味し始めた。


「お兄さんは、何かほしいものはないですか?」


「俺ですか?…俺は、今のところは大丈夫です」


突然話を振られたトールは、何か必要なものはなかったかなと思いめぐらしながら、答えた。


女の子は少し残念そうにしながら言った。


「まあ、そうですよねー。お兄さん、剣の扱いがいいですもんね」


「え?」


トールは目を丸くする。


「あ、すみません、突然。剣の鍔を見ればわかるんですよ」


「鍔ですか?」


トールは自分の剣の鍔を見る。何も特徴的なところはなさそうだった。


「はい。剣の扱いが雑な人は、鍔に血とか汚れが残ったままなんですよ。とりあえず刃だけ拭いとけばいいかって思ってるんですよねー。剣がかわいそうです」


それを聞いて、アーサーがぎくりとしたのにトールは気付いた。


――かわいそうに、アーサーさんの短剣…。


トールはアーサーの短剣にあわれみの視線を送る。


「まあ、本当に雑な人は刃さえまともに拭かないですけどね。それに比べたら、あなたの剣はすごく状態いいですよ」


「そうなんですね」


ちょっと嬉しくなったトールだった。


「よかったら、剣のメンテナンスしましょうか?私、まだ見習いですけど、けっこう腕はいいと自負してるんですよ。お安くしときますよ!」


「え、いいんですか?」


思ってもいない提案だった。かなり酷使していたため、メンテナンスをしてもらいたい頃だった。


「いいんじゃない?せっかくの機会だから、してもらいなよ」


アーサーにも勧められる。


「それじゃあ...、お願いしてもいいですか?」


「もちろん!お任せ―」


「おい、何してるんだ」


女の子は途中まで言って、唐突に背後から響いたずっしりとした声にぎくりとした。


「あ、親方…」


女の子はしまったという表情を浮かべる。


親方と呼ばれたがっしりとした初老の男は、腕を組んで仁王立ちしていた。圧がすごかった。


「ニーナ、勝手に仕事を取るなと言ってるだろう」


「だって親方、全然仕事取ってこないじゃないですか」


「必要ない。というか、お前のやるべきことは仕事取りじゃなくて練習だろう」


「そうですけどお」


ニーナと呼ばれた女の子は、へなへなと崩れ落ちた。


「すまないな、うちの見習いが」


「いやいや、全然」


親方に謝られ、トールはあわてて否定する。


親方は裏の工房で作業中だったのか、服のところどころが汚れていた。


「こいつ、押し売りしてなかったか?」


「してないですって!」


「お前は黙ってろ」


すかさず否定したニーナは、親方に叱りつけられ、むすっとしながら口をつぐんだ。


トールは苦笑しながら言う。


「大丈夫ですよ、押し売りされてないです。むしろ、メンテナンスしてもらえるのはありがたいので、ちょうどよかったというか」


「そうでしょう!お兄さん、さすが!聞きました、親方?」


「調子に乗るんじゃない」


「…」


またもやむすっと口をつぐむニーナ。


はあ、とため息をつきながら、親方が言う。


「まあ、お客さんがいいって言うんなら…。まだ、見習いのメンテナンスでいいんだったら、こっちとしてもありがたい。こいつの練習になるからな。無料でいいから、こいつにメンテナンスさせてやってくれないかい」


「え、無料ですか?」


「ああ。半端なもんになっちまうからな。金は取れん」


親方の横で、ニーナが「私は半端な仕事なんてしませんよ!」と訴えていたが、しっかり無視されていた。


「…じゃあ、ありがたく。お願いします」


少し申し訳なく思いながらも、トールはニーナに剣を預ける。


「はい、承りました!お任せあれ!」


ニーナはぱあっと笑顔を浮かべると、受け取った剣を抜き、いそいそとメンテナンスを始めた。そんなニーナにため息をつく親方。


「いやあ、お兄さん、やっぱり物の扱いがいいですねー。かなり使い込んでいるみたいなのに、損耗が少ないですよ」


ニーナはトールの剣を磨きながら言う。


「お兄さん、強いんですねー。魔物たくさん切ってるでしょ」


「…えっ」


トールは思わず目を見開いた。


――この人、俺の剣を見てただけだよね?


「そういうの、わかるんですか?」


「わかりますよー!だてに職人目指してるわけじゃありません。親方とかすごいですよ、剣を見ればその人がどんな人か見抜いちゃいます」


自慢気に言うニーナ。


それを聞いて、トールは内心ぎくりとしていた。


――もしかして、俺が人を斬ったことあるのも、見抜かれるんじゃ…。


嫌な汗がつたう。


そんなトールの心配をよそに、ニーナは楽しそうにメンテナンスを続けていた。気付かれていなさそうで、トールはほっとする。


「おしゃべりがすぎるぞ、ニーナ」


「はーい、すみませんー」


親方の苦言に、ニーナは反省していなさそうに答えた。

読んでいただきありがとうございます!


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次回更新は6/2です。

次回もよろしくお願いします。

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