74. 剣を求めて街中へ その1
意外とすぐに、武器屋は見つかった。
「あ、あれじゃないですかね、武器屋」
トールが指差した先には、剣と弓の絵が描かれた看板が下がった建物があった。
「ほんとだ、あれだね。さっさと用事を済ませちゃおうか」
アーサーは何のためらいもなく店に入って行こうとする。
「いや、ちょっと待ってくださいよ!」
トールはあわててアーサーを止める。
アーサーはきょとんとした。
「中に騎士とかがいたらどうするんですか!」
騎士が武器屋で自分の武器をそろえるのはよくあることだ。騎士と鉢合わせでもすれば即、街から脱出に切り替えになるだろう。騎士でなくとも他の客がいないに越したことはなかった。
トールの焦った訴えを聞いて、アーサーはケラケラと笑う。
「あはは、大丈夫だよ。客は誰も、いないから」
「…?」
――どういうこと?
眉をひそめるトール。そんなトールにはお構い無しに、アーサーは武器屋の扉を開け、中へと入って行った。トールもあわててそれに続く。
「いらっしゃいませ!今日は何をお探しで?」
トールと同じくらいの年の女の子が、元気な声で出迎えた。職人見習いのようだった。
「こんにちは、長剣がほしくて」
「長剣ですね、少々お待ちを」
女の子はカウンターの奥へと入って行った。
店の中に、アーサーとトールは二人、残された。二人以外に客はいなかった。
「…どうして、他の客がいないってわかったんですか?」
トールはアーサーに尋ねる。
「ん?気配がなかったから」
「気配…」
――いや、わからないって。
たいしたことなさそうに言うアーサーに、トールは脱力してしまった。店の前ならともかく、トールがアーサーを止めた時はまだ店まで距離があった。その段階で、店の中の人の気配を判別できると思えなかった。
――魔王討伐に成功するような人ならできるのかな…?
うーん、とトールが首をひねっていると、女の子が腕いっぱいに長剣を抱えて戻ってきた。
「お待たせしました!おすすめは、このあたりですかねー」
女の子はテーブルの上に長剣を並べながら言った。
「見てもいい?」
「どうぞどうぞ!ごゆっくり」
アーサーはテーブルに並べられた長剣を、一本一本手に取って吟味し始めた。
「お兄さんは、何かほしいものはないですか?」
「俺ですか?…俺は、今のところは大丈夫です」
突然話を振られたトールは、何か必要なものはなかったかなと思いめぐらしながら、答えた。
女の子は少し残念そうにしながら言った。
「まあ、そうですよねー。お兄さん、剣の扱いがいいですもんね」
「え?」
トールは目を丸くする。
「あ、すみません、突然。剣の鍔を見ればわかるんですよ」
「鍔ですか?」
トールは自分の剣の鍔を見る。何も特徴的なところはなさそうだった。
「はい。剣の扱いが雑な人は、鍔に血とか汚れが残ったままなんですよ。とりあえず刃だけ拭いとけばいいかって思ってるんですよねー。剣がかわいそうです」
それを聞いて、アーサーがぎくりとしたのにトールは気付いた。
――かわいそうに、アーサーさんの短剣…。
トールはアーサーの短剣にあわれみの視線を送る。
「まあ、本当に雑な人は刃さえまともに拭かないですけどね。それに比べたら、あなたの剣はすごく状態いいですよ」
「そうなんですね」
ちょっと嬉しくなったトールだった。
「よかったら、剣のメンテナンスしましょうか?私、まだ見習いですけど、けっこう腕はいいと自負してるんですよ。お安くしときますよ!」
「え、いいんですか?」
思ってもいない提案だった。かなり酷使していたため、メンテナンスをしてもらいたい頃だった。
「いいんじゃない?せっかくの機会だから、してもらいなよ」
アーサーにも勧められる。
「それじゃあ...、お願いしてもいいですか?」
「もちろん!お任せ―」
「おい、何してるんだ」
女の子は途中まで言って、唐突に背後から響いたずっしりとした声にぎくりとした。
「あ、親方…」
女の子はしまったという表情を浮かべる。
親方と呼ばれたがっしりとした初老の男は、腕を組んで仁王立ちしていた。圧がすごかった。
「ニーナ、勝手に仕事を取るなと言ってるだろう」
「だって親方、全然仕事取ってこないじゃないですか」
「必要ない。というか、お前のやるべきことは仕事取りじゃなくて練習だろう」
「そうですけどお」
ニーナと呼ばれた女の子は、へなへなと崩れ落ちた。
「すまないな、うちの見習いが」
「いやいや、全然」
親方に謝られ、トールはあわてて否定する。
親方は裏の工房で作業中だったのか、服のところどころが汚れていた。
「こいつ、押し売りしてなかったか?」
「してないですって!」
「お前は黙ってろ」
すかさず否定したニーナは、親方に叱りつけられ、むすっとしながら口をつぐんだ。
トールは苦笑しながら言う。
「大丈夫ですよ、押し売りされてないです。むしろ、メンテナンスしてもらえるのはありがたいので、ちょうどよかったというか」
「そうでしょう!お兄さん、さすが!聞きました、親方?」
「調子に乗るんじゃない」
「…」
またもやむすっと口をつぐむニーナ。
はあ、とため息をつきながら、親方が言う。
「まあ、お客さんがいいって言うんなら…。まだ、見習いのメンテナンスでいいんだったら、こっちとしてもありがたい。こいつの練習になるからな。無料でいいから、こいつにメンテナンスさせてやってくれないかい」
「え、無料ですか?」
「ああ。半端なもんになっちまうからな。金は取れん」
親方の横で、ニーナが「私は半端な仕事なんてしませんよ!」と訴えていたが、しっかり無視されていた。
「…じゃあ、ありがたく。お願いします」
少し申し訳なく思いながらも、トールはニーナに剣を預ける。
「はい、承りました!お任せあれ!」
ニーナはぱあっと笑顔を浮かべると、受け取った剣を抜き、いそいそとメンテナンスを始めた。そんなニーナにため息をつく親方。
「いやあ、お兄さん、やっぱり物の扱いがいいですねー。かなり使い込んでいるみたいなのに、損耗が少ないですよ」
ニーナはトールの剣を磨きながら言う。
「お兄さん、強いんですねー。魔物たくさん切ってるでしょ」
「…えっ」
トールは思わず目を見開いた。
――この人、俺の剣を見てただけだよね?
「そういうの、わかるんですか?」
「わかりますよー!だてに職人目指してるわけじゃありません。親方とかすごいですよ、剣を見ればその人がどんな人か見抜いちゃいます」
自慢気に言うニーナ。
それを聞いて、トールは内心ぎくりとしていた。
――もしかして、俺が人を斬ったことあるのも、見抜かれるんじゃ…。
嫌な汗がつたう。
そんなトールの心配をよそに、ニーナは楽しそうにメンテナンスを続けていた。気付かれていなさそうで、トールはほっとする。
「おしゃべりがすぎるぞ、ニーナ」
「はーい、すみませんー」
親方の苦言に、ニーナは反省していなさそうに答えた。
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