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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
3

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73. 魔物暴走

街に近付くにつれて、街道を行く人が増えてきた。


「アーサーさん、そろそろ中の方に入っておいた方が」


「うん、そうする」


トールに促され、アーサーが荷台の奥の方へ入ろうとしたその時だった。


アーサーがぴくりと反応した。ばっと後ろを振り向く。


「!」


唐突なアーサーの行動に、トールは驚く。


「何か、ありました…?」


「…」


おそるおそるトールが尋ねたが、アーサーは目を見開き、険しい顔で来た道をじっと見つめるだけだった。


トールはアーサーの見つめる方向を見る。


「!?」


トールは目を見張った。


そこには、恐怖をあらわにして必死に街に向かって走ってくる人々がいた。


そしてその後ろには。


魔物暴走(スタンピード)…?」


そこには、魔物が群をなして向かってくる光景があった。


「…どうして」


トールは震える声で呟いた。


もう起こるはずのない、信じがたい光景だった。


アーサーも、動揺を隠しきれていなかった。頬に冷や汗がつたっていた。


「魔物暴走だーっ!逃げろーっ!!」


馬に乗って駆けてきた男が叫ぶ。と同時に、瞬く間に街道にいた人々に恐怖が広がった。


「うわあああああああああ!」

「きゃあああああああああ!」


悲鳴が上がり、街道にいた人々は一斉に門へ向かって駆け出した。


「!」


突然、二人の乗っていた荷馬車がゴトン、と大きく揺れる。トールはバランスを崩して荷台の床を転がる。


「痛っ」


トールは酒樽にぶつかって止まった。


「トール、大丈夫?」


「平気です」


トールはぶつけたところをさすりながら立ち上がる。先程の揺れをものともしていないアーサーを見て、トールは自分の体幹のなさが情けなくなる。


二人の乗った荷馬車は、これ以上ないくらいに速さを上げ、門へ向かって走っていた。


街道は、混乱状態だった。


魔物の群れと逃げまどう人々を見て、トールは口を開く。


「アーサーさん、あれ」


「うん」


「見間違いじゃ、ないですよね」


「…うん。残念ながら、そうみたい」


アーサーの声は鋭かった。


「…」


絶句するしかなかった。


下位の魔物も中位の魔物も入り乱れて、街に向かってやって来ていた。


――もう、魔王は倒されたのに…!


目の前の光景を、信じたくはなかった。信じられなかった。


再び荷馬車が跳ねる。トールは今度は転がらずに済んだ。


――あれ、今、どこにいるんだ?


トールははたと気が付く。荷馬車はかなりの速さで走っていた。もう、門まで近付いていてもおかしくはなかった。


トールは(ほろ)から顔を出し、周囲を見渡す。荷馬車は街に向かって逃げる人々を、どんどんと抜かして行っていた。


トールは荷馬車の進む方向を見る。そして、目を見張った。


「…っ」


目の前には、市壁が迫っていた。


――もう、門に着くじゃないか!


トールは(ほろ)の中に戻る。


「アーサーさん、もう、門です。奥に入ってください」


「わかった」


アーサーはうなずくと、マントのフードを深く被りなおしながら、荷物の間に隠れた。


「トールも、隠れて」


「あ、はい」


トールもアーサーの隣に隠れる。


外からは、人々の悲鳴が聞こえてきた。見ていなくても、どんな状況なのか想像できてしまった。


「…」


トールは唇を噛んだ。


「…トール、飛び出して行かないでね」


「えっ?」


アーサーの唐突な言葉に、トールはすっとんきょうな声を上げる。


「だって、今にも魔物を倒しに行きそうだから。トール、ずっと剣の柄に手をかけてるよ」


「あ…」


無意識のうちに、トールの右手は剣の柄にかけられていた。


アーサーの方を見ると、アーサーは不安げな、しかしどこか痛そうな表情をしていた。


「…行きません。すみません、まぎらわしいことしちゃって」


「ううん。ごめんね、行かせてあげられなくて。…俺が、行けなくて」


「アーサーさん…」


トールは悲痛な声で呟いた。


――この人は、どこまでも英雄なんだなあ。


魔王を倒した今となっては、アーサーが魔物を倒さなければいけないなんてことは、ないだろうに。


荷馬車は着実に門へと近付いていた。外から聞こえてくる喧騒が、大きくなっていた。


「早く街へ入れ!緊急時だ、通行記録はいらん!」


門番が叫ぶのが聞こえた。


ガタン、と大きく揺れて、荷馬車のスピードが落ちた。


「…着いたかな」


「見てみます」


トールは荷物の隙間から抜け出し、荷台の後ろからそっと外をうかがう。


「…!」


目の前には、市壁と通り抜けた門があった。周りには建物が建ち並んでいた。


街の中だった。


「街の中です。無事、入れました」


トールはほっとして言う。


「よかった。第一関門は、突破だね」


アーサーも安堵した表情を浮かべた。


きっかけはともかく、結果として合法的に通行記録なしで街へ入れたのだ。ついていた。


「早く荷馬車から降りよう。どこに行くかわからない」


「そうですね」


二人は進んでいく荷馬車から飛び降り、すぐに建物と建物の隙間に身を隠した。


荷馬車は何事もなかったかのように、街の奥へと進んでいった。


アーサーとトールは、門の様子をうかがう。


「…すごいタイミングで来ちゃいましたね」


トールは門の方を見て言った。門には続々と、外からの人々が駆け込んでいた。人々は皆、恐怖と動揺を顔に浮かべていた。それを見て、トールの顔が歪む。


「…だね。わりと小規模だったけど、まさか、魔物暴走(スタンピード)が起こるなんてね」


「被害が小さいといいんですけど」


「たぶん、大丈夫だよ。…騎士団が、対応できるはずだから」


トールははっとする。


「そうですね。それが、騎士団の仕事です」


トールはうなずきながら、言った。


アーサーは目を伏せた。


「…こんなこと言うのはなんだけど、騎士団の目が魔物暴走に向いた。今が、動く絶好の機会だ」


「…そうですね」


複雑だった。


魔物暴走が起きたことを喜んでいるわけではなかった。むしろ、ふつふつと怒りがわいていた。しかしそれ以上に、アーサーが騎士団に見つかる可能性が下がったことに、安堵していた。


――俺、ひどいやつなのかも。


反逆者を守るために、罪無き人々が犠牲になることを仕方がないとしているのだ。


しかし、アーサーの声は、痛みを耐えるような声だった。そんな声を出す人を、見捨てていいとは思えなかった。


「…トール、無理してない?」


「え、してないですよ?」


アーサーの質問に、トールは焦って答える。ぐるぐると考えていたせいで、暗い顔になっていたのかもしれなかった。


「早く行っちゃいましょう。ここにいたら、騎士団に見つかるかもですし」


「…そうだね、行こうか」


アーサーはほほえんだ。


読んでいただきありがとうございます!


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次回更新は5/29です。

次回もよろしくお願いします。

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