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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
3

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71. おはようの時間は起きた時間

大変おまたせしました。3章、始まります。

神官服の二人組が、とある街の高台の道を歩いていた。


一人の白金の髪がたなびき、日の光を受けて輝く。


その神官はふと足を止めると、街の方を見た。


「…?どうかしましたか?」


もう一人の黒髪の神官が振り向き、尋ねた。


「いえ。…とうとう、ここまで来てしまったなと、思いまして」


白金の髪の神官は、街の方を見たままほほえんだ。何かを懐かしむような、悲しむような、そんな微笑みだった。


それを見て、黒髪の神官は少し不満げに目を細めた。


「…私は、ここまでする必要はないと思います」


「ふふ、そうかもしれません」


白金の髪の神官はくすくすと笑った。


「…これは、私なりの反逆なのかもしれません。決着をつけに行きたいんです。私の物語にも、…私たちの物語にも」


「…」


「すみません。あなたまで巻き込んでしまうことになってしまいました」


白金の髪の神官が申し訳なさそうに黒髪の神官に謝る。


「いえ、そんなことはありません」


黒髪の神官はすぐさま否定した。


「私はあなたについて行きたいから、ついて行ってるんです。それに、私にも関係のある話です。気にしないでください」


真剣な目を向けられ、白金の髪の神官は目をぱちくりとさせた。


「…ふふ、ありがとうございます」


白金の髪の神官は嬉しそうにほほえんだ。


「では、行きましょうか。…終わりを始めるために」


「はい」


再び歩き始めた二人の行く先には、黒々とした森が横たわっていた。


二人の背後には、影が長く伸びていた。







「起きてくださいよ、アーサーさん」


「…むりー、ねむいー」


「もう朝とも言えないですって!いつまで寝てるつもりですか!」


「…いつまでも」


「死んでますよそれ」


ちっとも起きないアーサーの腕をつかみ、ずるずると引っ張るトール。


引きずられるアーサーは、ほぼ寝ていた。


――アーサーさん、こんなに寝坊する人じゃなかったはずなのに…!


トールは恨めしそうにアーサーを見る。


トールがアーサーに自身の過去を打ち明け、アーサーに剣の稽古をつけてもらうようになったのは、昨日のこと。


南へ向かうことを決めたその翌朝、トールは全く起きる気配のないアーサーをたたき起こすはめになっていたのだった。


太陽はすでに頭上高くにまで昇っていた。


――これ、今日はたいして進めないやつかな…。


別に少しくらい進めなくてもいいんだけど、と思いながら、アーサーを起こすのを諦めかけたその時。


ピリッと、首筋に嫌な感覚が走る。


思わず振り向く。


と同時に、両手が一気に軽くなった。


「え?」


ビシャ、と赤い血が飛んだ。


「…あーあ、目が覚めちゃったじゃん」


ふわあ、とあくびをしながら、アーサーがぼやいた。


――いや、覚めてくれていいんだけど。


アーサーの左手には短剣が握られていた。そして剣の先には、体に一閃の深い傷跡が刻まれた魔熊が倒れていた。


――寝ぼけてる人がすることじゃない…。


トールたちよりひと回りもふた回りも大きい魔熊が倒れているのを見るのは、圧巻だった。


んー、とアーサーがのびをする。アーサーはもう、しゃっきりとしていた。


「おはよう、トール」


「…おはようございます、アーサーさん。もうおはようの時間じゃないですけどね」


呆れながらトールは言う。


「俺にとってはおはようの時間。今起きたから」


――自由な人だ…。


「もうちょっと寝てたかったけど、朝ごはんが手に入ったからいいか」


「俺はアーサーさんをいい加減起こしてくれた魔熊に感謝ですよ」


えー、と笑いながらアーサーは魔熊の解体を始める。


――アーサーさん、こんなに起きないなんて、疲れてるのかな。


トールはアーサーに加わって魔熊を解体しながら、そんなことを思った。


――ん?待てよ?


トールはあることに気付く。


トールがアーサーと旅するようになってから、トールのことを信頼できるようになるまで、アーサーは気を張り詰めて寝ていた。トールが起きるよりも早く起きていたし、いつでも戦える体勢で寝ていた。この前まではドラゴンのいる森にいたから安心とはほど遠い睡眠環境だったし、トールがライゼルの教会にいる時はずっと市壁の上だ。そして極めつけには、ここ最近何も言わずトールが朝早く起き出していたことによる安眠妨害。


――あれ、もしかしなくても、アーサーさんって、まともに休めてないんじゃ…?


トールはちらりとアーサーを見る。すっかり目が覚めてはいるが、まだどこか眠そうではあった。


だらだらと冷や汗が流れる。


――俺のせいじゃん。


「? トール、どうしたの?」


暗い雰囲気のトールに気付き、アーサーが尋ねる。


「…いや、アーサーさんに悪いことしちゃったな、と思いまして」


「? 何かあったかな?」


首をひねるアーサー。


「魔熊の解体は、俺がやっておきます。料理もしとくんで。アーサーさん、もう少し寝てていいですよ」


アーサーは目をぱちくりとさせた。


「いいの?」


「はい。というか、もっと休んでください」


「そう?じゃあ、ありがたく」


アーサーは短剣を置いて横になると、すよすよと寝息を立てて寝始めた。


「寝つきいいな…」


ぼそりと呟くトール。


――というか、そんなに疲れてたのか。


そりゃそうか、とトールは納得する。昨日だって、かなりの時間トールに稽古をつけていたのだ。アーサーも人間だ。当然、疲れる。


――アーサーさんが起きたら、ちゃんとおはようって言おう。


本来のおはようの時間になっていないといいが。


「おいしいごはんでも、作っておきますか」


よし、と気合いを入れると、トールは魔熊の解体の続きに取りかかった。


そして、トールは大きい魔熊の解体に、一人で苦戦するはめとなった。

読んでいただきありがとうございます!


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次回更新は5/22です。

3章もよろしくお願いします。

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