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英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
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7. 魔法薬

「おーい、トール君、無事?」


アーサーは再び、トールの落ちた穴をのぞきこむと言った。


「俺は平気です!アーサーさんこそ、無事ですか?人の切れる音がしましたよね…?」


「あはは、そこの空気、なるべく吸わないでって言ったのに」


口を覆うことなくまくし立てるトールに、アーサーは笑う。トールははっとして口を押さえた。


「俺は、全然無事だよ。そうだ、そこで蔦見つけたんだけど、これで登れるかな?」


アーサーはそう言って、長めの蔦を穴の中に落とした。トールが登るのに十分な長さがあった。


「ありがとうございます、いけそうです」


トールはアーサーの落とした蔦をつかみ、それを登っていった。アーサーの手が届くところまで来ると、アーサーがトールの腕をつかみ引き上げてくれた。


「ありがとうございます、アーサーさん」


トールは明るい地上に戻ってきたことにほっとし、目をしぱしぱさせながらアーサーにお礼を言った。トールは爽やかな空気が新鮮だった。


「いえいえ、全然。トール君が無事でよかったよ」


アーサーがほっとした顔で言った。それが、トールはなんだか嬉しかった。


「アーサーさんも無事でよかったです。人の切れる音がしたんで、俺、心配になっちゃって…」


必要なかったですけど、とトールは笑いながら言う。アーサーは無傷でピンピンとしていた。


「あはは、それ、俺が切った音。あれ」


アーサーは指差した。その方向を見ると、切断された腕が転がっていてトールはぎょっとした。


「え…、あれ、誰の腕ですか?」


「あの人」


アーサーは反対側を指差す。トールはその方向に目を向けると、そこには倒れた男の上に剣が刺さっている絵面が見えた。トールは、心臓がきゅっとつかまれたようなかんじがした。


「…アーサーさん、殺しちゃったんですか?」


思わず聞いていた。いつもより、低い声が出た。


「いや、殺してないよ。まだ、聞きたいことがあるからね」


アーサーはそう言うと、男の方へ歩いていく。トールの言わんとしていることが、まるで伝わっていないようだった。トールはアーサーの後を追った。


男は、荒く息をしながら地面に横たわっていた。アーサーらが近づいてきたことに気づくと、憎々しい顔でアーサーを睨みつけた。


「元気そうでよかった」


アーサーがにこりと笑う。


「うるせえよ」


男は吐き捨てた。


すると、アーサーは男の顔を蹴った。男がうめき声をあげる。男が口から血を吐き出す。


「ちょっ…、何してるんですか!?」


トールはアーサーの行動にびっくりした。


そんなトールに構わず、アーサーは男の前にしゃがみこむと、言った。


「さて、さっきの話の続きをしようか。お前が見せたくなかったものは、一体何?」


笑っているのに、アーサーの眼光は冷たく、男もトールも恐怖で震えた。


「…お前なんかに言うかよ」


男がにやりと口角を上げて言う。その瞬間、笑顔のままアーサーは男の頭をつかみ、地面に打ち付ける。バキッと、嫌な音がした。


--アーサーさん、やりすぎじゃ…。


トールは目の前のアーサーが怖かった。さっきまでの穏やかなアーサーではなかった。男の顔色はさっきよりも悪くなっていて、トールはアーサーを止めたかったが、そんな勇気はなかった。トールはおろおろするしかなかった。


アーサーは男の頭を地面から引き上げ、自分と目を合わさせた。男の顔は血と土でドロドロになっていた。アーサーと目があった男の目は、恐怖で揺れていた。


アーサーはにこっと笑う。


「言わないって権利、あると思う?いいよ、俺が言ってあげようか。魔王の痕跡から作った魔法薬。それを、ホーンラビットの巣にまいたでしょ」


アーサーの言葉に、男が目を見開いた。なんでばれたんだ、とでも言うように、瞳がわなわなと震えていた。


「あれ、あたりかな?」


アーサーが楽しそうに言う。


「お前…!なんでそれがわかった…!」


答えを言ってしまったようなものだった。男の顔は焦りと怒りで険しく歪んでいた。


--魔法薬?なんでアーサーさんはわかったんだろう?


トールはびっくりすると同時に、不思議に思った。


「あはは、俺の連れが巣に落っこちてくれたおかげかな」


--え、俺?


思いがけず自分のことが話に出て、目を丸くするトール。


「巣の中、甘ったるい匂いがしたらしいんだよね。それって、魔法薬の特徴でしょ?」


アーサーがにこりと笑う。


男は口をぱくぱくとさせていた。正解なようだった。


--え、あれ、魔法薬の匂いだったんだ。


トールはそこであることに気付いた。


-俺、けっこう吸っちゃったけど大丈夫かな…。


アーサーが穴の中の空気をなるべく吸うなと言った理由がわかった。トールの顔からサッと血の気が引いた。


「ああ、トール君。短時間だったし、たぶん大丈夫だと思うよ」


アーサーはそんなトールに気づくと、にこっと笑って言った。穏やかな笑みだった。


それを聞いて、トールはひとまずほっとする。


「さて、お前が魔法薬をまいた理由と、どこから入手したのか、教えてもらおうか」


アーサーは男の方に視線を戻すと、冷たく言った。


「…言えるわけないだろ!」


男は左手をアーサーに向けると、何かを呟いた。その瞬間、男の左手から何か球体のようなものが飛び出し、アーサーの顔面に向かってものすごい勢いで飛んでいった。


「…!」


トールは声にならない声を上げる。


ズドン、という音がした。


「…へ?」


「え?」


男とトールは、間の抜けた声を出した。


男の手から放たれた攻撃は、確かにアーサーの顔面を直撃したはずだった。至近距離から放たれた攻撃を、よけられるはずもなかった。しかし。


男の目の前には、首を横に傾けたアーサーがいた。


--え、なんであんなのよけられるの?


トールはぽかんとして目の前の光景を見つめる。


先程までアーサーの顔があったところの真後ろの木に、男の攻撃はあたっていた。木の幹がきれいに丸くえぐりとられていた。それを見てトールはぞっとする。


「なんだ、お前、魔法使いなの」


へえ、とアーサーが余裕な顔で言った。


男は呆然としていた。


「なぜだ…、人間が、よけられるはず…」


--ほんとそれね。


動揺する男に、内心激しく賛同するトール。


トールは、英雄アーサー・ラングレットという人物のすごさを垣間見た気分だった。


「まあ、いいや。で、どうする?教えてくれないの?」


アーサーがにこりと男に笑いかける。


ヒッと、男は悲鳴を上げた。


「…わかった、教える」


男は目の前の人物には勝てないと悟ったのか、ガクガクと震え、答えた。


アーサーは嬉しそうに笑みを浮かべた。


--アーサーさんて、こんなに怖い人だったんだ…。


初めて会った時から感じてはいたが、改めて実感したトールだった。


そうじゃないと英雄なんてなれないか、と思いつつ、トールはアーサーに対して尊敬のような畏怖のような感情を抱いた。


読んでいただきありがとうございます。

次回は10/16更新です。

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