表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/106

67. 裁かれない罪 その9

強くなりたい、と家を飛び出して、騎士団の入団試験に落ちたらどうしよう、とは思っていた。というか、落ちる可能性の方が高いと思っていた。


無事王都にたどり着いて、入団試験も受け終わり、合格者発表の日だった。


「…受かってる」


おれは騎士団の掲示板に貼られた、入団試験の合格者名が書かれた大きな紙を見て、唖然としながら呟いた。


トール・エインズの名前があった。


信じられなかった。


でも、合格した衝撃よりも嬉しさと安心感の方が大きかった。


受かったんだ。


そう実感すると、どっと体の力が抜けた。


よかった…。


思わず顔がほころんだ。


「合格者は、中へ入ってください」


係員の案内にしたがって、王宮の騎士団の敷地の中に入っていく。


どこもかしこも大きいし、豪華だし、田舎出身のおれからしたら違いすぎる世界に頭がくらくらした。すごいところに来ちゃったな…。


講堂のような、大きい部屋に通された。てきとうな席に座る。


五百人くらい入りそうな部屋の中に、ぎっしりと人が詰まっていた。今年は合格者数が多いとは聞いていたけれど、実際に目にするとその数はすごかった。


あたりまえだけど、強そうな人ばかりで怖くなった。


おれ、こんなところでやっていけるんだろうか…?


ざわざわとしていた部屋だったが、壇上に一人の騎士が立つと、ぴたりと喧騒がやんだ。


緊張感がただよった。思わずごくりと息を飲んでいた。


壇上に立った騎士は、ただ者ではない雰囲気をまとっていた。平凡なおれでもわかる。絶対に強い人だ。


「諸君、この度は騎士団への入団試験、合格おめでとう。我々は、諸君を歓迎する」


威厳のある声だった。背筋が伸びる。


「私は、ウィシュタル王国騎士団団長の、ヴィンセント・ライアンだ。これからよろしく頼む」


「はっ」


部屋の中に、威勢のいい返事が響きわたる。まだ返事の仕方も習っていないのに、思わず返事をしてしまうような、そんな圧が団長にはあった。


これが王国最強の人物なのかと、震えが走った。


「さて、諸君。今年は合格者が多い。これには理由がある。もっとも、それを察している者もいるであろうが」


団長の真剣な声と鋭い眼差しに、部屋の中はしん、と静まり返った。


なんとなく、嫌な予感がした。


「今年の合格者を増やした理由は一つ。魔王が、復活した」


え?


会場がどよめいた。でもそんなの、気にしていられなかった。予想を越える言葉が聞こえた気がした。


今、なんて言った?何が、復活したって?


「静かに!」


団長の放った一言で、部屋が静まり返る。でも、ところどころでひそひそと話す声が聞こえていた。


「諸君の反応ももっともだ。前回の復活からまだ百五十年ほどしか経っていない。だが、魔王は今、復活した。これが事実だ」


顔からサッと血の気が引いた。


「ここ最近、各地、主に南部地域で、魔物の増加・強化が発生していた。これも魔王復活によるものだ。魔王は例にもれず、『始まりの森』で復活した」


「…!」


おれは目を見開いていた。


嘘だろ。


だって、まだ百五十年しか経ってないじゃな

いか。父さんも、魔王の復活はありえないって言ってたじゃないか。


でも、思いあたることがありすぎた。今年は村の魔物が多かった。冬も、おれがかなり狩っていたはずなのに、まだたくさんいた。それに、あの普段なら現れるはずのないヘルハウンド。


ぞわりと悪寒が走る。


しかも、『始まりの森』だなんて。村は、王国南部にある。始まりの森は、王国の最南端だ。村は絶対、ただでは済まない。


手が震えていた。


おれは、どうしようもない間違いを犯してしまったのかもしれない。


「これから魔物が大量発生するのは必至だ。強い魔物も増えるだろう。討伐の人手が必要だ。それが、今年は合格者が多い理由だ。なお、この情報は明後日公表される。それまでは口外しないように」


団長が続ける。


「諸君らは困難な時代に騎士団へと入団した。苦労することも多いだろう。だが、それを乗り越え、騎士としての務めを果たせ。諸君らの騎士としての働きを、期待している」


団長はにやりと笑った。


「はっ」


部屋に、ビリビリと返事が響いた。


そうだ。おれは、騎士団に入ったんだ。


それなら、ちゃんと騎士として強くなって、早く村に戻ろう。そして、村を危険から守れるようになろう。


そうすれば、あの日みたいなことはもう起こさなくて済むじゃないか。


おれはそう決心した。はずだった。


でも、そんな簡単なことじゃなかった。


おれがそう早く強くなれるはずもなかった。







魔王復活の知らせとともに、魔王討伐パーティーが結成されて討伐へと赴いていた。


でも、魔王は強い。そんなすぐに倒されるわけではなかった。


毎日、魔王との戦いの最前線である南部の情報が届いた。主に、良くない情報が。


「トール、大丈夫か?」


「きっと村は大丈夫だよ。魔王討伐パーティーがいるじゃないか」


「…うん。ありがとう」


よく一緒にいるようになった、同期のネイドとルイスが声をかけてくれた。その親切さが、ただただありがたかった。


きっと村は大丈夫。そう思い込もうとしたけれど、うまくいかなかった。


今すぐ村に駆け戻りたかった。みんなの無事を確かめたかった。危険にさらされているなら、おれも力になりたかった。


でも、それはできなかった。今のおれは、村の狩人じゃない。騎士見習いだから。


おれは、逃げてきたんだ。村を見捨てたんだ。おれは早く強くなって、村の魔物を狩らなきゃいけなかったのに。


自分が悔しかった。情けなかった。


体にのしかかる重さにもう、耐えられそうになかった。でも、この重さを捨てる勇気もなかった。


何かがじわじわと心をむしばんでいくような気がした。


もう、誰でもいいんだ。


誰かおれを助けて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ