60. 裁かれない罪 その2
一人で魔物を狩れるようになった年から数年経った、冬支度の季節のことだった。
その頃には、森の手前の方であればおれは一人で入れるようになっていた。
その日はホーンラビットを三羽狩って、家に戻った。大漁だ。
「ただいま、父さん」
「おかえり。今日はどうだった?」
家の貯蔵庫で作業をしていた父さんが顔を上げる。
「ホーンラビットが三羽」
「…かなり捕ったな」
「そうかな?森の手前しか入ってないんだけど…」
父さんが怪訝な顔をしたことが想定外で、おれは捕りすぎたかと不安になる。魔物の捕りすぎなんて、聞いたことなかったけど。
「…そうか」
父さんは何か考えているみたいだった。でもおれには父さんの考えていることはわからなかった。
おれが父さんの顔色をうかがっていることに気付いたのか、父さんはにこっと笑った。
「まあ、ありがとうな。冬の食料が増えるのはありがたい」
「うん」
貯蔵庫の壁一面に並んだ棚には、干し肉や燻製肉、野菜や果実のビン詰めがぎっしりと詰まっていた。これだけあっても、冬の間になくなっちゃうからびっくりだ。
父さんはおれからホーンラビットを受け取ると、さばき始めた。おれも父さんのとなりに座ってさばくのを手伝う。
「トール、森の様子はどうだった?」
唐突に父さんが尋ねた。
「うーん、あんまり変わらない気がするけど…」
おれは今日の森の様子を思い返して、一つ思い当たることがあった。
「あ、でも、魔物は見つけやすかったよ。ついてたな、冬支度でけっこう狩ってるはずだから」
冬支度をする今は、村の魔物を狩れる人が総出で魔物を狩っている。冬場に出てくる魔物を減らしておきたいのと、食料にしたいのとで。だから普段は魔物が見つけづらい時期なんだけど、すぐに三羽も捕れた今日はついていた。
父さんはおれの言葉を聞いて眉をひそめた。
「ついてたならそれでいいんだが…。今年は、魔物が多いな」
父さんはどこか不安そうだった。
そんな父さんを見て、はっとした。
そういえば、村の人たちも同じようなことを言ってたっけ。
この前一緒に森に行った村の人たちは、今年は魔物が多い、何かあるんじゃないかって不安そうだった。おれにはまだ、魔物の量が多いとか少ないとかは、よくわからなかったけど。でも、下位の魔物ばかりだから、大丈夫なんだろうと思ってた。みんなそう言ってたし。
おれはふと、あることを思い付いた。
「父さん、魔王の復活ってことはない?」
何気なく言った言葉だった。
けれど、父さんは『魔王の復活』という言葉を聞いてぎょっとした。でもすぐに声を上げて笑いだした。
「おまえもそんな冗談言うんだな。魔王の復活はないだろ。第一、前回の復活からまだ百五十年くらいしか経ってないぞ。復活にはまだ早い」
魔王は二百年に一度、復活するらしい。それを毎回倒してくれる英雄がいるから、ウィシュタル王国は繁栄できてるんだそうだ。前回の魔王の復活は百五十年くらい前だから、たしかに復活するにはまだ早かった。
父さんはおれの頭をぽんぽんとなでた。
「すまんな、不安にさせちゃったな。たしかに今年は魔物が多いけど、そこまで心配するほどじゃない。安心していい」
「そっか」
おれがあまりにも突拍子もないことを言ったからか、父さんはさっきの不安そうな顔はどこかへ消えていた。
今になって思う。二百年は長い年月だ。被害が忘れられるほどには。そうじゃなきゃ、魔王復活のたびに王国が危機にさらされることはないだろう。
それは百五十年だって変わらない。俺たちは、ささいな変化にもっと用心しておくべきだったんだと思う。
いや、「俺が」、かな。
あれは間違いなく、俺のせいだった。




