表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄の死に、祝福を。 ―魔王を倒した英雄が反逆したその後の物語―  作者: 坂町ミナト
2

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/107

56. リノア村 その2

「ねえ、セシル。言わなくていいの?」


メアリがセシルにうながす。


「いや、言うよ。アシル、トール。実は、俺とメアリ、一月後に結婚式を挙げることになったんだ」


「そうなんですか…!おめでとうございま

す」


トールはぱあっと顔を輝かせた。


もしかすると結ばれることがなかったかもしれない二人だ。無事に結婚式を挙げられることが、ただただ喜びだった。自分が助けたいと思った人たちが、たとえ自分の力によってでなくても助かったことは嬉しかった。


「そっか。おめでとう。幸せにね」


「ありがとう。二人に助けてもらってなかってら、こんなの夢だった。感謝しかない」


「ええ。本当に、ありがとう」


アーサーとトールの祝辞に、セシルとメアリが嬉しそうにする。集まった人たちが、口々にお祝いを述べた。


トールも何か熱いものがこみ上がってくるのを感じた。


――みんな無事で終わって、本当によかった。


トールの口元が思わずゆるんだ。


ふとアーサーの表情を見て、トールは言葉を失った。


羨望、諦念、そして、夢想。


セシルとメアリを見つめるアーサーの表情は、なんとも言えないわびしさを携えていた。


――アーサーさん…?


トールはアーサーの浮かべた表情の理由がわからず、首をかしげた。


そして、ある一つの可能性に思い至った。


-ーもしかして。


「あの、アーサーさん」


トールは声を落としてアーサーに尋ねた。


『アシル』ではなく、アーサー・ラングレットに聞きたかった。


「ん?」


アーサーはどうしたの、とトールを見た。


「もしかして…。アーサーさんの守れなかった大切な人って、アーサーさんの恋人なんですか…?」


トールはおそるおそる尋ねた。


アーサーはびっくりしたように目を見開き、トールを見つめた。


そして、再びセシルとメアリの方を見た。遠い目をしていた。


「うん。俺の幼なじみで、…俺の、恋人」


そう言って微笑んだアーサーの表情は、どうしようもないくらい悲しかった。


「…そうだったんですか」


言葉が続かなかった。何か言いたいのに、何を言うべきなのかわからなかった。


アーサーが恋人をさらわれてから、もう四年以上が経つことになる。苦しい時間だったに違いないが、それに対し適切な言葉をかけられるほどトールに人生経験はなかった。


無事に結ばれるセシルとメアリと、いまだ大切な恋人に会うことすら叶っていないアーサーの落差を、見ていられなかった。


悲痛な面持ちで黙りこんでしまったトールを見て、アーサーはふっと笑みをもらす。


「そんな顔しないで、トール。俺は、平気だから」


「…」


ーー平気なはずないじゃないか。


そう思ったが、アーサーの悲しい微笑みの前では、トールはそんなことは言えなかった。


「? どうかしたか?」


アーサーとトールの雰囲気が少し暗いことに気付き、ジェナスが尋ねる。


「ううん、何もないよ。無事、結婚式を挙げれるようになってよかったなって」


そう言ったアーサーは、本心からそう思っているようだった。







「じゃあ、そろそろ行くね。元気で」


アーサーが言う。


「お世話になりました」


トールもぺこりとお辞儀した。


「あ、待ってくれ。これ、餞別だ。大したものじゃないが、持って行ってくれ」


セシルが少し大きめの包みを差し出す。


「…?」


トールは受け取ると、包みを開けてみた。


「!」


「わあ」


アーサーが歓声を上げる。


そこには、パンやドライフルーツが詰まっていた。


「ありがとうございます、助かります」


「それはこっちの台詞だ。今回は本当に、ありがとう。気をつけて」


セシルたちは笑顔を見せた。


集まった村人らに見送られながら、アーサーとトールはリノア村をあとにした。


「いいものもらっちゃったね。久々のパンだよ」


アーサーは包みにほくほくとしながら、言った。


教会でしっかりパンを食べていたトールは、申し訳なくなる。


「ぶどう酒もあれば最高だったのに」


少し残念そうにするアーサー。


「ぶどう酒って安くないんですよ。そんなに期待しちゃ申し訳ないです」


「そうだったんだ」


ーーずれてるなあ、この人。


目を丸くして反省するアーサーに、トールはなんとも言えない視線を向ける。


「というか、ぶどう酒あってもアーサーさんしか楽しめないじゃないですか」


まだ酒飲めないですよ俺、とトールはふくれる。


アーサーは目をぱちくりとさせた。


「あはは、ごめん、そうだったね」


笑って謝るアーサー。


「トールが飲めるようになったら、一緒に飲もうね」


「…っ、ぜひ」


ーーあと二年かあ。


先の話ができることが、トールは嬉しかった。


「とりあえず、パンをくれたセシルたちに感謝だね」


「ですね。また、魔物肉生活になるところでした」


別に、魔物の肉がおいしくないわけではない。

もちろん、はずれはあるが。しかし、毎日食べるには味気なかった。パンもほしくなる。


「なぜだか魔物は多いから、種類だけは豊富だけどね」


ホーンラビットに、大トカゲに、飛竜に、魔熊に、とアーサーは笑いながら数え上げる。


ーー魔物グルメをしに来たんじゃないんだけどな…。


楽しそうなアーサーに、トールは呆れた目を向ける。


ふと、今まで直視してこなかった疑問がわいてきた。


「どうしてなんですかね」


「?」


アーサーが小首をかしげる。


「もう、魔王はアーサーさんに倒されたのに。ドラゴンが、南部でもないこんなところに現れるはずがないんです」


一度口にした疑問は、とどまることを知らなかった。


「ウォーウルフが現れたのだってそうです。あんな町中に、現れるはずがない。大トカゲも飛竜も、妙に多かったですし…」


「…」


アーサーはトールの疑問を静かに聞いていた。


「何が、起こってるんですかね。…今の魔物の様子は、おかしいです」


「やっぱり、そう思う?」


「え?」


「俺も、何か変だな、とは思ってたんだ。…トールがそう言うのを聞いて、確信した」


アーサーはすっと目を細めた。


「南に行くにつれて、違和感が強くなっていったんだ。…答えは、南にあるのかもしれない」


「南…、ですか」


アーサーはがさごそと地図を開いた。


「目の前の森を抜けて、何個か街を通りすぎたら、南部手前の街に着くみたい。そこ目指して進もうか」


「はい」


トールはうなずく。


二人は森の中へと進んで行った。







「…ん」


トールはむくりと起きた。まだ寝たがるまぶたに、朝日が差し込んでくる。開ききっていない目をこすった。


まだ朝早かった。


隣を見ると、アーサーがすよすよと気持ち良さそうに寝息を立てていた。


思わず顔がほころんだ。


ここ数日、アーサーは以前よりも気の抜けた姿勢で寝るようになっていた。


剣を手に持ち、いつでも起き上がれる姿勢ではあるとはいえ、その寝顔は前よりもずっと穏やかだった。


ーー少しは、信頼してもらえるようになったのかな。


そう思うと、嬉しかった。


しかし、トールは顔から笑顔を消す。


トールはすっと立ち上がると、鞄の中からいくつか荷物を取り出す。


そして、まだ寝ているアーサーに背を向け、トールは森の奥へと歩き去って行った。


お酒は18歳からの世界線です。


面白かったら下の☆☆☆☆☆から評価、またはブックマークをしていただけると励みになります。


次回更新は2/18です。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ